母はよく食べる 超短編
母はよく食べる
僕の記憶の中ではいつも何かを食べている
小さな頃からずっと、学校に行く前、学校から帰って来た時も
僕が受験に失敗した時も
卒業式の日も
初めて彼女を家に連れて来た時も
いつも何かを口に入れている
それが僕の日常の当たり前だ
子供の頃ふと夜中に目を覚まし、訳もわからず泣いていた時
母はそっと優しくなぐさめてくれた
片手に持った干し芋を咀嚼しながら
それを見て僕は宇宙の果てや死後の世界なんて、どうでも良くなったのを覚えている
僕にも家庭が出来て正月に帰省した時も
母はいつもどおり食べていた
僕はいつもどおり笑顔になった
妻も子供も一緒に笑顔で食べた
翌年父が死んだ
いつもの母とは違った
母は葬式の最中弔問客に頭を下げるだけで一切口は動いていなかった
葬儀が終わる頃台所に行くと大量の空のドロップ箱があった
僕は少し笑顔になった
葬儀も終わり、僕の妻と子供はそのまま実家で寝た
深夜に母と2人で焼き肉を食べに出掛けた
初めて母の泣き顔を見た
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