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創造主 超短編

 どうしても上手くいかない。

 大野博士は今日も頭を悩ませていた。

 人工知能によりアンドロイドを行動させ、人間を自らの手で再現するのが大野博士の目標なのだ。

 ロボットの様に行動パターンをプログラムすれば単一的な動きはこなせるのに、人工知能により自らの行動を選ばせると、どうしても上手く行かない。

 ある日大野博士は大学時代の友人の三木と食事をする機会にこの悩みを相談してみた。

「どうしてこうも上手く行かないものなのだろう?どうやっても彼らは、いつも合理的な答えを導き出してくれない。何故か訳の分からない行動を取りたがるのだ。」

「訳の分からない行動ってどういう事だ?」

「そうだな。例えば3つの作業をするように指示したとするだろ?一つずつを着実に終わらせて欲しい所を、彼らは3つの作業を少しずつしたり、全く違う作業を始めたりする。その日に全部が終わらないみたいな事が多々ある。だから私は大抵次の日に彼らのAIをプログラムし直さなければならい。」

「なるほど。他には何かあるか?」

「他には、そうだな。彼らは会話の途中に物を壊したりする事がある。私が質問したり彼ら同士に会話させるとするだろ、気に食わない事や思い通りにならない事があった時、物に当たるんだよ。全く不合理極まりない。」

「ははは。そいつはおもしろいじゃないか。」

「三木。いったい何が面白いんだ?」

「大野。君は人間を作りたかったんだろ?その合理的じゃない事が正に人間らしいじゃないか。君の研究は成功だな。」

「三木ならそう言うだろうなと思っていたよ。確かに感情を創っているという面ではある意味成功かも知れない。その内、恋も出来るようになるかもな。でも、そうじゃないんだ。僕はもっと完璧なものを作りたいんだよ。合理的な人間を。」

「なるほど。だが、それは中々難しい話だな。そんなものは、この世に存在していない。要するに手本が無い。作業能率を求めるのならロボットみたいに決められた事だけをする様にするしか無いんじゃないか?」

「そうか、合理性を求めるのなら感情は排除しなければならない、か。」

「そういう事だろうな。人が人を創るなんて限界があると思うよ。僕たちは全知全能の神じゃないのだから。でも、それじゃあ身も蓋も無い話になってしまうな。」

「うーん。確かにそう言う意味では僕自身が一番合理的じゃないのかもしれないな。」

「ははは。確かに。まぁ今日は久々に会ったんだ。とりあえず飲もうじゃないか。」

「そうだな。乾杯。」



「また失敗か。」

 どうしても上手く行かない。

 空の上の更に上。天界で頭を悩ませる声がしている。

「どうした?そんなに暗い顔して」

「いや、何度やっても上手く機能してくれないんだ。かれこれ、もう20万年くらい失敗を繰り返しているんだ。
 争いは絶えないし、環境破壊も止まらない。自身の欲望を制御させる事が出来ないんだ。
 何度創り直しても、どうしても合理的な考えに至ってくれない。俺は未だに人間を完成させることが出来ない。」

「そうか。でも、まぁそんなもんだろ。全知全能なんて想像の中の世界だもんな。お前も大変だな。まぁ今日の所はとりあえず飲もうぜ。」

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