#高安動脈炎闘病記 4

4.Still Alive

東京でやりたいことがいくつかあった。
まずは、東京ドームシティで開かれるオードリーのオールナイトニッポン15周年展に行くこと。
ドームライブの前日である17日がプレオープンの日だった。
特に、僕のように地方からこのイベントに合わせて上京してくる人からすれば17日に行くのがベストだ。

お土産も買わないといけない。好きなキャラクターのチップとデールがデザインされた、限定のお菓子が東京駅にある。
ディズニーのキャラクターの中では人気の割にグッズが少ない彼ら(と勝手に思っている)。
それでも、東京にくれば地方よりたくさんの関連品がある。これも買いに行かなければならない。

それから、神社にも行きたい。
僕が変わらず独り身な生活を謳歌することもあり、ウチの家系で初めての子が誕生予定だ。
弟夫婦に安産のお守りを買ってあげたかったのだ。
割と寺社仏閣巡りは好きな方だ。特にお願い事をするわけではないのだが、手を合わせている時は心が安らぐからだ。

自由に気の向くままにする旅も好きだけど、どうしてもかっちり行程表が出来上がってしまう。観光学科〜旅行会社という経歴がそういう人間をつくりあげたのだろうか。

この日の軸はあくまで、東京ドームでのオードリー展だった。本当は、脱出ゲームもやりたかったのだが、体力的にそれは厳しいと自分でもわかっていたので泣く泣く諦めた。

予定通り東京駅〜靖國神社と公共交通機関を使って移動した。
厳かな空気感のある靖国神社を出て、レンタサイクルのポートをみつけたので、それを使って東京ドームまで移動してみることにした。
当然、心臓には負担が掛かり息も上がるのだが、細々した乗り換えをこなすよりも、好きに進むことができる自転車に魅力を感じた。

東京ドームに着くと、凄い人の数だった。
15周年展の隣の会場では、人気アニメぷりきゅあのイベントが開かれていた。
ドームではJUJUのライブ。遊園地に後楽園ホールに商業施設、シティホテルに場外馬券場。福岡で一番人が集まる放生会よりも人がいる。席を確保するのも必死なフードコートで、独り寂しく親子丼を無心でかき込んだ。
15周年展を堪能し、熱くなった心と身体のまま、目に入ったバスに飛び乗った。
行き先もよくわかっていないバスに乗り、そしてバスを乗り継ぎ巣鴨のとげぬき地蔵へ。
おばあちゃんの原宿とも呼ばれる巣鴨は、ゆっくりと時が流れていた。ギリギリお詣りの時間に間に合い、安産のお守りと自らの快方を願って、観音様の胸元を磨いた。

実は体調を崩してから、食べれるものが少なかった。少しでも刺激を感じると食べられない。辛うじて資さんうどんのかしわうどんだけが食べれる状態だったので、しばらくはそればかりを食べていた。
今回の東京で楽しみにしていたのが、ホテルの朝食だった。
錦糸町のロッテシティホテル。お菓子のロッテが運営するホテルだけあって、彩鮮やかな朝食ビュッフェが楽しい。コアラのマーチのパンケーキは絶対食べたかった。
旅の楽しさが鎮痛剤になったのか、痛みを忘れて好きなものを味わうことができた。

旅の三日目、東京ドームライブの朝。
僕は有楽町に行った。
オールナイトニッポンという番組は有楽町のニッポン放送をキーステーションに全国へネットワークを通じて届けられている。
この日の朝はここからスタートしようと決めていた。
そして、まだチケットを発券していなかった。
全国どこのコンビニでも発券ができるのだが、僕はこのチケットに「有楽町」の文字をどうしても入れたかった。
「有楽町」「オードリー」「自分の名前」
機械が印字しただけのこの紙が、何かを繋ぎとめてくれているようだった。
もちろん、ただのマスターベーションなのはわかってる。大したルーティンなんてない。ただ自分が気持ちよくなるためだけ。でも、それでいい。
さあ、ドームに行こう。有楽町から。

東京ドームに着くと、前日にはJUJU一色だった周りの設えも、一気にオードリー一色となっていた。赤黄色緑の番組のイメージカラー(ラスタカラー)でドームの周りが彩られていた。
オードリーの2人はもちろん、放送作家、プロデューサー、ディレクターといったスタッフまでが幟旗になっていて、さらに野球選手よろしく応援タオルになっている。グッズのユニフォームに身を包んだ人たちが山のようにいる。
前日のフードコートと同じ場所にいるのに、不思議と寂しさはなかった。

開場までの時間は、無駄に過ごした。
一旦ドームを離れ、飯田橋まで行き食事をとり、カフェで紅茶を飲み、一人カラオケに入り何も歌わず。ただただボーッと過ごした。
LUUPにも乗った。悪評も多い電動キックボードだが、使ってみるとなるほど快適で使い勝手が良い。前日のように息をあげることもなく、無事ふたたびドームへ到着した。

チケットは争奪戦だった。1次2次...と先行受付を次々と外し、残るは先着順の一般発売だけだった。1時間近くひたすら、ブラウザの更新を押し続けた結果なんとか「ステージ裏体感席」という見切れ席のチケットを確保した。
東京ドームはエリアごとにはっきりと入場口が分かれているため、ステージ裏体感席は外野席専用の入場口から入るようになっている。
人波に揉まれるようにして席に辿り着く。文字の通りステージの裏に位置する座席からは、これから始まる様々な仕掛けの準備であろう暗幕に覆われていた。

なにかの電子機器を介してしか触れてこなかった、向こう側の人たちが目の前にいる。
同じ空間にいる。
聴いている時間はいつもひとりひとり。
そんな個体が5万人を超えて集まっている。
馬鹿みたいに夢のような時間だった。

生きたい。
歓声と熱狂に包まれながら、僕は泣いていた。

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