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#高安動脈炎闘病記 12

12.それでも明日はやってくる

そうこうしていると、手術の前日になっていた。
よくわかっていなかった手術のことも、発生する確率のあるリスクの問題も、とりあえず3択なら当てられるくらいの知識は入れたはずだ。

手術を終えると、集中治療室に移ることとなる。開胸手術となるため、術中は多くの出血を伴い、輸血をし、人工心肺で生命を維持させる。なんのことはない、大手術だ。流石に僕でもわかる。その後の回復は常にチェックをされるのだ。

リハビリ担当の理学療法士さんがやってきた。
いよいよ手術ですね、と声をかけられた後、
「すぐにリハビリは開始ですよ!翌日から歩きます。」と言われた。
えっ、本当に?とスパルタだなぁと思いつつ、実際の心臓の手術はそういうものらしい。
寝たままよりも歩くことが回復が早まるそうだ。
と、同時にそんな感じならじゃあ大丈夫か。とどこか安心させられた。

手術は19日の9時から始まる。
前日のうちから時計を気にして、
後何時間...とカウントダウンを始める。
頭の中でデジタルな数字が、刻々と減っていった。

数日前から自転車のリハビリも始まった。
前日であるこの日も心臓リハビリ用のエアロバイクを漕ぎ、徐々に心臓の負荷を慣らしていく。
心不全を起こしていたので、コレは必須だ。
自分の無理をしないキャパシティを測った。

たくさんの看護師さんが、いよいよ明日ですねと声をかけてくださる。すごく励まされる。
長くを過ごした家族のように寄り添ってくれる。

「かならずまた、この病棟に戻ってくるんですよ!」

ああ、居場所があるっていいなあ。

iPhoneで病室で撮った画像の位置情報には「自宅」と表示されるようになった。
違う、そうじゃない。でもまあ、いいか。


夕飯、最後の納豆。
別れを惜しみつつ食べていると、テレビに見慣れた姿が映る。
親友の店が紹介されていた。
構成は前回観た他局のものと似ているが、新しいチャレンジをする親子を描いた話だった。

愛される店にしたい、と語る彼の眼差しは、しっかりと未来を見据えていた。

僕も、明日が終われば違う未来が始まるんだ。

夕食後、こっそりと福岡の先輩が見舞いに来てくれた。
多忙な先輩だが、術前にどうしても元気づけたいと駆けつけてくれた。
大学も違う先輩とはアルバイト先が同じで、そこで仲良くなった。
先輩が失恋した時には、毎週土曜日に「定例会」と題してカラオケに行き、ノンアルで歌い明かした。
気付けばCHEMISTRYの曲をハモれるようになっていた。(のちに復縁、結婚式二次会の幹事をすることになる)
先輩夫婦とのご縁で素敵な彼女ができたこともある。(後に失恋、素敵すぎる方でした)
なんだかんだと縁深く、今でも気にかけてくれる先輩は、頑張れよと何故かくまモンのタオルとキーホルダーをくれた。

「その辺で調達したでしょ!」
「いや、タオル使うでしょ?」と、先輩は皆目見当違いなレスポンス。

誰もいないロビーにぼくらの笑い声が響いた。



一夜明けたら、その日が来る。
思いの外、ぐっすり眠ることができた。

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