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【独立・起業のリアル】<破の章 No.06>事例②「起業しっぱなしではいけない」
もう一つは、マスメディア通販企画ベンダーの女性創業者の方の話です。彼女は筆者と同郷の群馬県の高崎市の出身者です。一九八九(平成元)年にカナダ人の夫と創業し、二〇一二(平成二十四)年に当時のジャスダック上場企業にM&Aして、現在新たなニッチ企業にて現役で活躍中です。その方が、筆者が若い人の起業支援をしていることを知って、独立・起業する若者に向けて有用なアドバイスをして下さいました。
「私は起業するときに一つ、忘れてはいけないことがあると思います。それは起業しっぱなしではいけないということです。ゲームでもすべてそうだと思うのですけど、アガり方、どうやって終えるかという点まで考えないと、やりっぱなしで終わってしまいます。
若いときにはそれは考えられないっていう方もいらっしゃるかもしれませんが、たとえばビジョンという言葉に置き換えてもいいでしょう。自分が何十歳になったときに、こういう風になっていたいということを大まかにでもいいから決めておく。そして、たとえば自分が五十五歳になったときにはこの会社をM&Aで他社に売るとか、上場するとか、またはもっと時期を早くするとか、そういうビジョンのなかに一つでもそういう言葉が出てきた人は上手にアガれると思います。
しかし、それなしに単純にこのビジネスモデルで創業します、売上を伸ばします、従業員を多く雇いますと、いざ自分が経営を辞めたいときに辞められないのですよ、会社というものは。それが大きな問題ではないでしょうか。
ですから、そこまでビジョンのなかに一つでもいいから考える。そうすると自然にグラフができてくると思うのです。やはり誰でもそうなのだろうと思いますが、毎日仕事を一生懸命しているとあっという間にもうこんな歳になってしまったとなるのではないでしょうか。
途中で何かしたいときに、すごく大きな出来事があったときは、それどころではなく必死ではないですか。予測のつかないことが常に起こっているなかで、それでも自分の人生をどのように終えていくかを考えておく必要があるからです。はっきりとした何かをビジョンのなかに楔(くさび)として打ち込んでおかないと、なかなかそこは考えられないと思うのです。
私も夫が病気にならなかったら、今でも何も考えないでやっていたと思います。結局、娘とか息子とかにあなたしっかりやりなさいよって、こうじゃないああじゃないってやっていたと思うのです。それが幸せかっていうと、そうではないと思いますよ。
本人の適性の問題もあるし、創業者と二代目というのは全然違いますからね」