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徒然『バナナ太郎を覚えてる?』

その古いアルバムは、外装は黄色い布製の硬い表紙で、そこにはおもちゃの兵隊さんが刺繍されている。表紙をめくると、時代を感じさせるおびただしい白黒写真の中に、全開の笑顔で絵本を見ている二歳の私がいる。

物心つくようになった頃、母はよく私に語りかけた。
「あなたが本をめくると、指に紙が吸い付くようにぴらっぴらっとめくれるのよね」と。小さい頃から、本は私の近くにいてくれたんだろう。

息子たちが小さい頃は、寝かしつけによく読み聞かせをした。他のお母さんたちと少し違うとしたら、よく置き換え話をしていたことかもしれない。置き換えとは「桃太郎」を「バナナ太郎」に変えるようなことだ。川から、どんぶらこどんぶらこ、と流れてくるのはバナナなんだから、たいそう子ども達は喜んだ。
 
エッセイは自己開示、ということが最近わかってきた。心の中にずっと閉じ込めていた事柄を文章に綴り、さらす。亡き親への贖罪、家族への思い、生まれ育った故郷への郷愁、季節の移ろいへの感傷。

私はそんな心の奥底をずっと誰かに聞いてほしかったのだろうか。それともただ単純に、小さかった息子たちを忘れたくない、だけなのだろうか。

大人になった君たちは、バナナ太郎を覚えてる?

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