失うものはなにもない
「何か持っていると思っているから、失うのが怖くなるんだよ。もともと、ぼくたちは何も所有してない。だから失うものもなにもない。大丈夫」
先生にもらった言葉だ。
3回目の妊娠で初期流産を経験した。ご存知の方も多いと思うが、初期流産の原因で最も多いのは染色体異常だ、つまり受精の瞬間から流産の運命が決まっているということ。全体の妊娠の15%前後は初期流産となっているというデータは、流産経験者ならば必ず目にしたり聞いたりする数字だと思う。母体を安静に保ったからといって初期流産が防げるものではない、つまり運動をしたから起きるわけでもない。妊娠前からしていた運動ならなおさらだ(もちろんその性質や強度にもよるが)。ヨガインストラクターでもある私は、これを知った上で妊娠中も(初期も、臨月も)ヨガをしていて大丈夫という考えのもと毎朝アシュタンガというそこそこハードな流派のヨガを練習していた。妊婦バージョンに軽減してますよ、念の為。
初期流産のこういった情報と共に自分を責めないでという言葉がすぐ手に届く時代で良かったと思う。流産がわかったときもヨガのせいとは思わなかったし、今もそう考えていない。診察してくださった産婦人科の医師にもこの考えを話したら、強く同意してくださったので感謝している。初期におとなしく過ごす妊婦さんが多いのは、心を守るためなのだ。後悔しないように。もちろん体の中がホルモン大工事で大変だしつわりでおとなしくせざるを得ない場合もある。
妊娠した女性の40%が流産を経験しているらしいから、3人欲しかったら私もその40%側に入っておかしくないわなあと思い、わりとけろっと周りに報告し、そんなに落ち込まずに済んだ。自分を責めず正しいと感じる分量で悲しいな寂しいなと思い、受け入れ、次の妊娠に向かえた。
しばらく経って無事次の子がおなかにやってきて妊娠中、ヨガの先生と雑談していたときにふと「でもこの子も失うんじゃないかと思うと怖い」とぽろりとこぼしたら、冒頭の言葉をもらったのだ。できるようになったと思ったヨガのポーズも、子供も、自分のものではない。何も持ってないんだよ、だからなくさないよ。私達は英語で話していて、お互いに英語ネイティブではないのでぽつぽつと、でもネイティブじゃないからこそシンプルな言葉での会話になって、言葉で伝えきれない思いをハグで補い、心にはっきりと刻まれた。あのハグを今思い出しても涙が出そうになる。流産のことで泣いたのはあれきりだ。
私に4番目にやってきた「3人目」の子は無事生まれ、もう1歳半になる。先生のはじめての子供も遠い国で先月生まれた。私はもう子供を宿して不安になることはないけど先生の言葉は残って私を励ましてくれる。
その言葉を励みに、オンライン出産準備講座「プリパレ」を世に出します。失うものはなにもない。えいやっと。ゆけ!