『変わったタイプ』トム・ハンクス(著)色んな人生、色んなタイプ(書体)で語られる
ブックレビュー: Uncommon Type by Tom Hanks.
小川高義(訳). 新潮クレスト・ブックス. 2018.
1994年公開映画、『フォレスト・ガンプ/ 一期一会』の”魅力的な変わりもの”を匂わせるタイトル。ある記事では“Tom Hanks’s short story collection is like a box of chocolates” (「トム・ハンクスの短編集は、たくさんのチョコレートが入った箱のよう」)と、旧名作の一節*をもじった紹介がされています。
*Forrest Gump: My momma always said, “Life was like a box of chocolates. You never know what you're gonna get.”
フォレスト・ガンプ:ママはいつも言っていた。
「人生はチョコレートがたくさん入った箱みたい。
食べてみるまで分からない」
SF、ロマンス、脚本体と、ジャンルを変えて心に残るヒューマンドラマ。2014年に米誌「ニューヨーカー」へ短編一部が掲載され、2017年にトム・ハンクス初の小説短編集となってアメリカで刊行、後2018年には新潮クレスト・ブックスから日本語版翻訳が出版されています。
オーディオブック ではトム・ハンクス本人の声での朗読が聴けるので、気になった方は是非!
当時カルフォルニア滞在中、たびたび書店* で目にしていたものの購入には至らず。今回翻訳本が出ていたと知り、早速手に取って読んでみました。
*わかりづらいですが、画面左下にある水色と黄色の表紙のもの(日本語版と同じ装丁)
世界で最も敬愛される大御所俳優トム・ハンクスの、待望小説デビュー作
映画俳優、監督、脚本家とハリウッドで長年その名を轟かせているトム・ハンクス。これまでアカデミー賞、ゴールデングローブ賞等多数の受賞歴を有し、母国アメリカでは大統領勲章を受賞。映画史に残る国民的俳優の初となる小説となれば見過ごすことはできません(私は一度見過ごしましたが…...)。
スクリーンに映る、繊細で優美で見る者を引き付けて止まない彼の技術は、小説となって打たれた文字から溢れ出し、ほんのり味わい深い読み物として上品な存在感を放っています。
古風のタイプライターが紡ぐ13の短編と、全4回の引き潮新聞コラム - 「Some Stories」
淡い青春の一ページ、映画スターのスケジュール、衝撃の冒頭20分で有名な『プライベート・ライアン』を想起させる回顧録、ご近所付き合いと家族関係、移民の大国。サスペンスやミステリーはないけれど、日常に潜む小さな記憶。
短編の合間合間に入る4回分の時代遅れになった新聞コラム記事は、切ないけれど自虐コントのようで、著者トム・ハンクスの遊び心が伺えます。また、17編全てに様相を変えた “タイプライター”が散りばめられており情緒ある独特な雰囲気を創り上げています。
噂によるとトム・ハンクスは200以上ものタイプライターコレクション* を持っているそうで、彼の偏愛っぷりには頭が上がりません。
*解説動画
- Tom Hanks Changes the Ribbon on a Typewriter | Secret Talent Theatre | Vanity Fair
それぞれたった数ページにしか及ばない物語の中で、ちょっとした人生の痛みを感じ取ったり、壮大な記憶の中の世界に足を踏み入れたりと、一編一編様々な味が楽しめます。
きっと良質なタイプライターが欲しくなる。
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