ラムネちゃんとの出逢い
猫たちとの出逢いは、偶然なのか必然なのか・・考えさせられることも多く、不思議と運命を感じる出来事が多い様です。おそらく、この記事を読んでくださっている猫好きの皆さまは、きっと「わかる!」と心の中で呟いているのではないでしょうか?
ラムネは13歳の「レディー」です。
(危うく、「ス」を付けそうになってしまった)
13年前、私と夫とショコラは、埼玉県の某市に住んでいました。
見晴らしの良さと、ペット可という条件が気に入って入居した古いマンション。夫の転勤を機に引っ越し、二人と1匹の新しい生活がスタートして3ヶ月ほど経った夏のある日。
ショコラがいつになく玄関ドアの前でソワソワし、長いこと鳴くので、その日は猫用リードを付けて、マンションの廊下を少し歩かせることにしたのです。
(今思えば、なんてバカなことを・・と猛烈に反省しています)
都内にあるようなタワマンならば、玄関を出ても、廊下はホテルのような創りで室内でしょうが、この古いマンションは、玄関を出ればコンクリート剥き出しの廊下に、雨よけの屋根だけですから、完全に「外」になります。
1階へは、廊下の端に位置する非常階段を降りるか、エレベーターで降りるのですが、猫の散歩で階下に降りるつもりはなく、部屋のある7階の廊下を右へ左へ行ったり来たりするだけの、簡単なお散歩でした。
小さなマンションなので、7階に住むご近所さんは、誰がどの部屋に住んでいるか知っていましたし、すれ違う時も気持ちよく挨拶してくれる方ばかり。ショコラは・・というと、たった3ヶ月で、窓越しの「トモダチ(ヒト)」も作ってしまい、ご近所に愛想を振りまくようになっていました。
ところがその日、廊下の端に位置する非常階段を、7階の住民ではない、全身、黒づくめの大男が昇ってきたので、ドキッとしたのを覚えています。
身長は180cmくらい。年齢不詳ですが、おそらく若いと思われます。
縦にも横にも大きな男でした。黒縁メガネ、表情ひとつ変えない異様な雰囲気の男。一度、マンションの玄関前で目撃しており、このマンションの住民では無いな・・と感じたのを思い出していました。その時も黒づくめで立っており、笑みを浮かべ、ぬぼ〜っとしていたので、首を傾げてしまったのを覚えています。
その大男が、非常階段を昇り切り、まさかショコラめがけて突進してくるなんて・・。思ってもいない出来事でした。
今、思い返しても殴りたいくらい腹が立ちます。
この大柄で無知な男にも、軽い気持ちでショコラを散歩に連れ出した、馬鹿な自分自身にも。
驚いたショコラは、猛スピードで非常階段を駆け降りました。その間も思いっきりリードを引っ張り続けたのですが、リードも外れ、掴んだ尻尾は手からすり抜け、逃走してしまったのです。その間も男は、ぬボ〜ッと立って見ているだけでした。
5階まで非常階段を降りた後、ショコラは廊下の手すりを飛び越え、自ら階下に飛び降りてしまいました。5階という高所に加え、階下は硬いコンクリート敷の駐車場になっているというのに・・・。
恐怖心で我を忘れて無我夢中で走り、飛び降りるショコラ。
停まっていた車の屋根に叩き落ち、脚を引きずるようにして消えていく姿を、ただただ目で追うのが精一杯でした。
(たまたま停めてあった車の上に着地し、骨折はしたものの命は助かったのだと思います。神様が助けてくれたのだと思っています。)
男はというと、消えていました。
それから毎朝・毎晩探し回る日々。
マンションの掲示板には、「猫を探しています!」の貼り紙を掲示し、マンションの管理人さんにも協力していただいて、泣きながら探しても見つかりません。
夫と一緒に夜中も探し回り、職質を受ける日もありました。
その夏は猛暑で、アスファルトから照り返す熱射がひどく、雨も少なかったと記憶しています。この付近では、猫の不審死や誘拐の事件が相次いでいて、マンションの管理人さんからも注意するようにと言われていた矢先でした。
「生きているのか、何処にいるのか、水は飲めているのか、脚は動くのか、お腹を空かせているだろうに・・この暑ささえなければ・・」と、後悔の念とともに不安が脳裏を渦巻いて、どうにかなってしまいそうでした。
ただでさえ猛暑の中、1週間も水を口にできなかったらきっと死んでしまう・・。
いつものように、夫と懐中電灯をもって探し回っていたある夜。
微かに猫の鳴き声が聞こえたように感じ、声のする方に向かってみることに・・・すると、おかしなことに気付きました。
「鳴き声が頭の上から降ってくる・・。」
声のする方へ歩いて来た時、とある高架下でハッとしたのです。
声の主は、ショコラよりも小さな仔猫の鳴き声だと気付き、その声は、交通量が多く、猛スピードの車が行き交う高架から聞こえてくることに・・・。
ビュンビュンと猛スピードで走る車を背に、高架の金網に必死にしがみつく三毛猫の姿を発見したときは、背筋が凍るようでした。
「あそこに行って保護することはできないよ・・どうする?」
そう言って、夫は呆然と高架を見上げ、両手を広げて立っています。
私たちの様子に気がついた仔猫は、覚悟を決めたかのように、3m以上はある金網を登りはじめ、ついにはその金網のてっぺんに到達し、こちらに飛び降りようとして、鳴くのです。
「子猫が、高架の金網を登って、高架下に飛び降りようとしているんです!すぐに助けてください!」急いで消防署に電話をし、レスキューをお願いしました。仔猫の小さな身体で、あの高さから叩き落ちたら命はありません。
消防車が現場に到着する間、20代の酒に酔ったカップルが寄って来て、「きゃーかわい〜」だの、「猫ほしい〜」と騒いで迷惑なだけでなく、猫を心配するどころか、女は男にベタベタ纏わりついて媚びることしか考えていない様子。
あやうくブチギレそうになったのですが・・無視することに成功しました(笑)
レスキューのプロに無事助けられ、わが家の一員になったのがラムネです。
ラムネが家に来てからも、毎日ショコラを探し続けました。
心配した母と父からは、「ショコラの代わりに、その子は神様が出会わせてくれた命かもしれないよ。もうそんなに探しても出てこないんだから・・・」と電話で慰めるのですが、「ショコラはショコラ。代わりはいない」と言って探し回る日が続きました。
ショコラが居なくなってどのくらい経ったでしょうか・・。
近所の古びたアパートの軒下で、水たまりの水に顔を埋める猫の姿。暗くてよく見えないので、懐中電灯の灯りを向けると、まん丸い目がこちらをじっと見つめ、「ショコラ?」と呼ぶと、アイコンタクトで返事をする彼を見つけたときは、安堵の涙で視界がよく見えませんでした。
骨折してうまく歩けず、近くに身を潜めるしかなかったことも不幸中の幸で、大きな事故や事件に巻き込まれずに済んだのかもしれません。
24時間診療の動物病院に、すぐさま連れて行き、骨折と脱水は見られるものの大きな外傷はないと診断されました。10日以上はおそらく何も食べていない様子で、痩せて腹と腿の皮が垂れ、頬はこけてしまっていたけれど、脳や内臓に傷もなく、本当によかった。
家に戻ってからのショコラは、いつの間にか別な猫がいるのでたいそう驚いたことでしょう。しばらくは微妙な関係のショコラとラムネだったけれど、二人にしかわからない絆ができたようで、いつも「ひっつき虫」みたいに一緒にいる仲良しです。
言葉を交わさなくても、いつもそばにいることで、互いの温もりや愛情を感じ思いやれる二人に、人間である自分が学ばされます。
お猫さまから学ぶことが、人間社会で学ぶこと以上に深くて多いのは、きっと気のせいではないのでしょう。
人も動物も植物もみんな、「支えあって生きている」事実を忘れてはいけないと思う今日この頃です。
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