ローンチから10年、サービスの価値をリデザインする
こんにちは。ユーザベースのデザイナーの廣田(@nacchin777)です。ユーザベースのSaaS事業のひとつ「INITIAL(イニシャル)」のデザインを担当しています。とてもありがたいことに、INITIALは、昨年、グッドデザイン賞を受賞いたしました。
今回は、4-6月にかけて取り組んだ、INITIALの価値をリデザインするプロジェクトについて触れてみようと思います。
・・・とその前に、今月公開したINITIALの2022年上半期の資金調達レポートを宣伝しとこっと。2022年前半の国内スタートアップの資金調達動向がまとまったレポートです。多くのメディアから引用される価値の高いデータであることは言うまでもありませんが、デザインという観点でも、とても良い仕上がりになっていますよ。ぜひダウンロードあれ。
サービスのローンチから10年
前回の「UI会のススメ」の記事でもご紹介しましたが、INITIALの歴史はとても長いです。
この間、良く言えば少数精鋭で、多くの機能やコンテンツを生み出し、そして多くのユーザーに届けてきました。そして、ローンチから10年経った今は、サービスも組織も拡大し、以前よりもぐっと大きな規模で開発・運営するフェーズに来ています。
組織の面では、特にインサイドセールス(IS)、フィールドセールス(FS)、カスタマーサクセス(CS)のビジネスサイドの仲間が多く増えました。もちろん、エンジニアもリサーチャーも増えていますが、事業にとって、IS、FS、CSは、ユーザーにとって「初めてのINITIALの人」となることが多い職種ですよね。エンジニアやデザイナーと比べると、圧倒的にユーザーとの接点が多い。
そして、組織が拡大すると、個々の認識と表現にバラつきが出てしまう。ここはとても自然なこと。誰か一人の意識をコピーして、組織が大きくなっていくわけではないので。
ですが、サービスも組織も一層強くなるためには、みんなの認識や表現を束ねるための共通言語が必要。。。そう、「INITIALの一番の強みってどこなんだっけ?」「ユーザーに一番感じてもらっている価値って何だっけ?」を、改めて言語化し、みんなで認識を揃えるタイミングが来ていました。
もちろん、INITIALの価値は、これまでも言語化されていました。ですが、かれこれ2年以上前に作ったもの。そこからサービスもサポート体制も成長し、実際にユーザーに伝えていることと、少しずつズレが生じている気もしていました。
OKRでサービスの強み/価値の言語化に取り組む
そこで、今年の第二四半期(4月-6月)のINITIAL事業のOKR(正確にはKR)として、「INITIALの強み/価値を再定義する」を掲げて、INITIAL全員でこの課題に向き合うことになったのでした。
目的は2つ。
INITIALの強み/価値をあらためて言語化し、その価値向上に向けて、INITIAL全員で取り組んでいけるように。たくさんの矢が束なって、大きな大きな矢になれるように。
どんなプロセスで?
大まかな流れは、2019年に行ったGoodpatchさんとFORCASのユーザーリサーチプロジェクトを参考にさせてもらいました。
このプロジェクトでFORCAS側の窓口になって場をファシリテーションしていた大久保さんにも協力してもらい、INITIALの価値リデザインプロジェクトがスタートしたのでした。ってか、「一人じゃ無理だから手伝ってー!」と私が泣きついたのが真実です。笑
ということで、具体的なプロセスはこんな感じです。
まずはチームインタビューを通して、中にいる私たちが思うINITIALの価値を見つける。次に、私たちが思うINITIALの価値と、ユーザーが思うINITIALの価値が一致しているのかを、ユーザーインタビューを通して検証する。また、私たちがまだ気づいていない価値を、ユーザーインタビューを通して発見するのも目的の一つ。
そうやって、中と外、それらを統合して、INITIALの価値を言語化していくことにしました。
チームインタビュー
大まかなプロセスが見えてきたので、最初のチームインタビュー。インタビューしたのは全部で7チーム、総勢30名ほど。
質問は、各チームに15-16個ほど用意しましたが、全部を質問したわけではありません。時間は限られた60分。人数が多いチームもあるので、最初はポンポンと質問に答えられないことも想定して、軽めの質問もいくつか。
どのチームも同じ質問というわけではありません。共通の質問を入れつつ、そのチームだからこそ聞きたいことを入れました。
また、質問は事前に共有しました。こんな質問をする予定だから、もしよかったら考えてきてね!という軽めの共有。コミュニケーションが得意な人はその場で答えることも苦にならないと思いますが、突然の質問というシーンに戸惑ってしまう人もいると思ったので。
ちなみに、こちらはCSチームへの質問です。
CDO平野にもアドバイスをもらい、インタビューで特に気をつけたこと。
他にもいろいろ気をつけるべきことはあると思いますが、とにかく私自身がインタビューするということに慣れていないので、この3点だけ意識することにしました。
言葉で分析してみる
次に、チームインタビューの整理と分析を、こんな流れでやってみました。
ここまで来たら、一旦、詳細部分を(心で)マスクして、グループ名だけに注目してみる。そうすると、なんとなく、これはINITIALの◯◯に集約されてきそうだなあ、、、というのが見えてくるんですよね。
その◯◯の部分が、この図に表される「データ」「インターフェース」「人」。
まだまだ粗いですが、INITIALではたらく私たちは、この3つをINITIALの最大の魅力だと感じているみたいでした。ただ、 まだ確信は持っているわけではないので、「みたい」という曖昧な感じです。
そして、こちらががチームインタビューのみんなの声です。上の3つの大テーマ別に分類して紹介しますが、ここにたどり着くにあたってはフラットな目線で見るようにしました。
ユーザーインタビュー
次のユーザーインタビューは、INITIALに価値を感じてくれたことが、わかりやすい形で表れているユーザーにインタビューさせてもらいました。
わかりやすい形とは、「最近ユーザーアカウントを増やしてくれた」「他のユーザーさんを紹介してくれた」「そもそもLTVが高い」など。
そんなユーザーさんに、「どうしてユーザーアカウントを増やしてくれたんですか?」「どうして他のユーザさんを紹介してくれたんですか?」「どうして長く使ってくれているんですか?」を質問。その答えの中に、INITIALの価値が詰まっている気がしたんです。
ご協力いただいたユーザーさんは、インタビュー中、本当に楽しそうにINITIALのことを語ってくれました。意外な使い方も教えてくださいました。3つ目に掲げたINITIALの「人」に関しても、とても価値に感じてくれていることが会話の節々から感じられました。うん、私たちが感じている価値とユーザーさんが感じている価値は一緒。自分たちの一方的な目線かも?と思っていたことが、確信に変わりました。
そして、何より、楽しそうにINITIALを語っている、そんなユーザーさんの姿を見られたことが、何よりの喜びでした。もう、INITIALの価値ってなんだっけ?を探ることをすっかり忘れて、ただただ幸せな時間でした。(笑)
実際のインタビュー以外にも、過去のINITIAL主催のセミナー「INITIALって何ができるの?」 通称、「なんでき」セミナーからも、ユーザーが思うINITIALの価値が詰まっていました。
このセミナーは、INITIALの既存ユーザーさんに出演いただいて、「私はINITIALをこう使っている」を交えながら、実務のいろんなことをお話しいただく人気セミナーです。INITIAL主催のセミナーといえど、正直にINITIALに足りていないところも含めてお話してくださるので、ここにもヒントがいっぱい詰まっていました。
点、線、面、立体
チームインタビューの中で、INITIALの強みは「点在した情報が一箇所にまとまっている、ただのデータが情報になっている」という声がありました。この「点在した」という言葉が、インタビュー後もなぜか心に残っている。よく使う言葉なのにね。でも、気になる。。。
そこで、もしINITIALがなかったら、スタートアップの情報収集ってどうなるんだろう?を想像してみる。
INITIALがなければ、スタートアップの情報は、ニュースや会社ホームページ、投資家のホームページなどからかき集めなくちゃいけないわけだよね。それが点在という状態。そう、、、ただの「点」の状態。相対的に比較できるわけでもなく、時系列に並んでいるわけでもない、ただの「点」。データであることは間違いないけど、情報として理解するにはなかなか厳しい状態。
そっか、INITIALはこの点を線に変えるサービスなんだ。よく「点と点がつながって線になる」という表現をするけど、まさにそこがINITIALの価値だよね。
もう少し具体的に考えてみる。
INITIALがなくても、スポット的に資金調達ニュースを知ることができます。これが点の状態。INITIALはそこから資金調達日、調達額、投資家などに分解して、データを構造化し、蓄積していく。その結果、ユーザーは時系列にファイナンスの履歴を知ることができる。これがINITIALの最初の価値「情報となったデータ」ですね。
さらに、インターフェースの力で、情報の捉え方にバリエーションが出てくる。線と線がつながり、面になるということ。
INITIALのインターフェースは、一定のフォーマットとカスタマイズ性(柔軟性)があるのが特長です。INITIALのデータの力で多くの線が生まれたわけですが、この線をどう捉えるかの一定のフォーマットと柔軟性があるおかげで、多くの面が生まれました。
そして3つ目。INITIALの人の知見が加わり、面と面がつながり、立体になっていく。
INITIALには、新規事業、VC、CVC、事業会社など、多彩な経歴のメンバー多く在籍しています。自身の経験も踏まえて、ユーザーが何を望み、どこに課題があるのかを理解し、一つでも多くの成果が出るよう支援するカスタマサクセス体制があります。
INITIALのカスタマーサクセス体制は、職種としてのカスタマーサクセスの人たちのことを指しているわけではありません。直接ユーザーと接する機会の少ない開発メンバーも含めたALL INITIALと同意です。
ALL INITIALだからこそ、ユーザーを多面的に支援できるのです。
点と点がつながり線になる
線と線がつながり面になる
面と面がつながり立体になる。
こうして3つの価値を図で表してみると、なんだかとってもしっくりくる。うん、良い感じ。
新たな価値ができ始めた
6月にリリースした「ステータス管理」機能は、INITIALにとって新しい価値です。
これまで「データとコンテンツを見る(リサーチする)」ことがメインだったINITIALに、「使う、インプットする」という概念が加わったのが、ステータス管理です。
詳細はプレスを見ていただくとして、これを図で表すと、これまでの「線」「面」「立体」に、「色」が加わったと言えるんじゃないでしょうか。
この新しい価値によって、ユーザーの独自視点「色」が加わり、INITIALは更に深みのある多面体になっていきそうですね。ワクワク。
最後は揉んで揉んで
さて、最後は言葉に落とし込むところ。あの観点も入れたい、この言葉も入れたい、、、と想いは溢れるものの、価値浸透のことを考えると、厳選して厳選して言葉を選ばなくてはいけません。
見た目の観点でいうと、3つの価値の文字量のバランスも考えなくてはいけない。見出しを2行にしたときのバランスも考えなくてはいけない。
そんなことを数週間ぐるぐると試行錯誤し、よしこれだ!と思ってA案とB案に絞り込みました。
A案とB案の違いは、大きくは見出しの文字量の違い。伝えたいことは同じですが、抽象的になりすぎないように具体化した見出しのA案。そして、言葉を削ぎ落としたB案。ここは、INITIALみんなが参加する週次のMTGやSlackで意見を募り、B案をさらにブラッシュアップしていくことになりました。
ブラッシュアップも試行錯誤の連続でしたが、その甲斐もあって、良いものになったと思います。ふぅ、ようやく完成。
価値浸透のために
ここからは、この価値浸透のための各種ツールのリデザインへ。ユーザーコミュニケーションのアップデートです。
大きなところでは、Webからのダウンロード資料とWebページ。どちらも、絶賛、リニューアルに向けて他社リサーチやら、コンテンツ構成の見直しやらを粛々と進めています。
インタビューしたり、分析したり、言語化したりも楽しい時間でしたが、それらをデザインの力でカタチにしていく、今のこの時間も楽しいですね。公開できるのはもう少し先ですが、お楽しみに♪
最後までお読みいただきありがとうございました。
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