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2024年 AppleTV+ドラマ『SUNNY』感想 最後に

🤖 Sunny is now streaming on Apple TV+

悲しいながらも、どこかすっきりとした後味のするラストでした。
音楽の力も大きいのかも知れない。
いつも、この物語のこのシーンにこの曲がかかったらいいのに、とずっと他作品で思って来た。けれど実際はレーベルや著作権という壁があり、叶わないことが通常なのだと思っていた。しかしそこをすり抜けてしまったのが『SUNNY』だった。
Apple Musicのリストと言う便利機能は、いとも容易くレーベルを越えて音楽を共有するのを可能にした。もちろんこういうことは私が知らないだけでこれまでもあったのかも知れない。でもそんな無知である私にも手が届く範囲内にまで広げてくれたことに感謝する。音楽の聞こえ方はどの物語でも、どんな細かいシーンでも同じじゃない。必ずその時々のテーマがある。このドラマはそれを私に見せてくれた。

さて、ここからが本当の感想です(長かったな、おい)
ミクシーは何者だったのか明かされず、けれどヒメと繋がりのあるユーキ・タナカに「みんな待ってるよ」と言われる。みんな、とは誰なのか。ヒメの元、と言うより故郷の農場の連中のように思う。

私見だが、今考えるとミクシーは最初から違和感のある存在だった。
最初はバー OCHIBA自体が怪しいと思ったが、多分あの場所はクリーンだろう。7話でミクシーがOCHIBAをクビになった理由を「5分遅れたから」だとスージーに説明していたが、1話でカクテル作りを失敗していたくらいまだまだ新人で、厳しいお店なのにスージーのためとは言え、ちょこちょこ休みを取っていたり、大事な撮影の仕事中に電話を受けたり、勤務態度はあまり良くない。そして決め手となったのは開店前にヤクザたちが店に現れたこと。現実では、どこの店も暴力団関係者はお断りだと思うので、ミクシーがそこに属していると判れば解雇になって当然だろう。5分の遅刻は積もり積もっていたミクシーの不祥事がとうとう店側の限界に来たための理由だったのだと思う。そもそもあの店は坂本マサ、スージー夫妻が行きつけにしていた。ヒメたちがそれを知っていたのであればそこで勤務していたらいずれ会えることは容易いことだろう。

そして5話、ミクシーが向かう農場にいる叔父の団体も怪しい。リリー・フランキーさんが演じているから、というのも原因と言えば原因だが(笑)ミクシーが叔父に「友達連れて来たの。スージーとボット」と紹介した後、スージーを見るミクシーとリリーさんの表情が不穏に見える。
7話で、ミクシーはスージーに「カルト」の話をして慌てて自分は違う、と取り繕うがもしかしたらヒメの眼下にありつつ、あの農場は少しだけ違う組織なのかも知れない。だとすればあそこまでプリミティブな場所で育ったミクシーがボットを信用しないのも判る気がする。
しかし、心に深い痛手を負ったスージーを見て心を動かされ、菌類の話のように本気で助けたいと思ったのかも知れない。ただその菌類の話もまた随分自然界の話だ。結局、ヒメの欲しい物はサニーのコードだけなので、スージーをサニーから引き離してしまえば何とかなる、という考えだった。少なくとも最初に出会った時は。

このようなミステリーを扱う物語では、大抵重要な人物は1話から登場する。YOUさん演じるヒメは重要人物だが姿を見せるのは3話から。しかしスージーを常に見張るテツ(清水伸さん)や、焼きいも屋の振りをしてスージーから目を離さないレイジ(渡辺哲さん)など、ヒメの強面の手下を映すことで、出て来なくてもヒメの存在の妙な不敵さを感じられる。

スージーはサニーを仕方なく受け取ってから付け狙われるけれど本来は全く事件と無関係だ。だがマサという天才エンジニアが作ったサニーというボットに内蔵された暴力的なバグを起こすコードを手に入れるためだけにスージーは何度も命の危機に遭うので気の毒である。マサは1話から謎の人物として回想シーンで登場するが、少なくとも2話でスージーが見つけた『坂本研究室』内部に出て来るような優しく便利そうな空間を見ると悪い人間、少なくともヤクザ側ではないような気がしていた。スージーの身に色々なことが急に起こったため、マサに対しての妄想が酷く暴力的になっていただけでマサ本人は性格的に難ありではあったが、殺人ボットを作る人間ではなかった。それは10話で解明される部分だ。

出会った時、マサは昔「引きこもり」だったとスージーに話した。そのきっかけになった出来事が深く描かれるのは折り返しを結構過ぎた8話。マサが生まれてからずっと不可解だった父親の冷酷な態度がなぜなのか理由を知った時、彼の心の傷は既に進行し、引き返せない所まで化膿していた。彼が受けた傷は人間不信にさせるには十分だった。痛ましかった。そんなマサが少々ポンコツだったトラッシュボット、ショウをプログラムし直し、ボットにも思考させるのが可能で感情に近いものを引き出せた時、やっと心が解放されたのだろう。(関係ないですがショウくんの「ンフフフフフ」という笑い方、好きだった。と言うかショウくん、めっちゃ好きですw)

そんな経験をして来たマサだから、わざわざ日本にやって来てまで引きこもりを願うスージーを救ってあげたかったのだと思う。引きこもりは選択肢ではなく、そう決めざるを得ない辛い手段だから。日本の食事や文化に惹かれつつ自分は一人でいなくちゃダメだ、というスージーの言葉から、瞬時に彼女の孤独を感じ、そこから過去の自分を見たのだろうか。

そして2人は結婚し、子供を授かり、幸せに暮らしていた。マサはエンジニアとして仕事を続け(冷蔵庫部門からは既に離れていたが事件さえ起こらなければ、いずれは話すつもりだったと思う)スージーとゼン、そしてもう一人、と予定を立てていた二人目の子供とずっと幸せに暮らしたかったことだろう。

スージーも同じ願いだったろう。ただ幸せな過去の回想を見る限りではスージーはそれほど読字障害を気にせず、色んなイベントに出席し、うまくやっているように見えた。まさか義母ノリコ(ジュディ・オングさん)とあそこまで嫁姑として仲が悪かったとは思わなかったし、ゼンが生まれ、10年も日本にいながら全く日本に馴染もうとしていなかったのも不思議ではあった。マサと息子、ゼン以外の関係は排除していたのだろうか。
ただ、ノリコはしきたりを重んじる人間なので引きこもりになっていたマサが表に出て来て、結婚までしたのは本当に安堵したと思う。スージーとはどれほど相性が悪くても孫を産んでくれる存在だ。もちろん結婚しないと一人前じゃない、と言うのは古い考え方ではあるけれど、実際、産まれたゼンが無事だった事で、10話ではノリコとスージーの間にあった全てのしがらみを断ち切るほど大きな存在になっていた。
自分の過ちでマサを傷つけ、そのまま喪ってしまったノリコにとってゼンは忘れ形見だ。そして大らかなヒロマサは、マサが血の繋がらない父親に冷遇されて痛んでいた心を少しずつ溶かして行った。マサがもし本当に死んでしまったのだとしたら、とても気の毒な人生だと思う。すべてはこれからだったのに、と。

そして、元凶であるヒメの存在。
彼女こそ感覚がロボットのようだった。自分の欲望のためなら好きな人を殺すことも厭わない恐ろしく残忍な性格だった。その犠牲は仲間であり、愛人でもあったテツ、自分の立場を脅かしたジンにまで及び、その上でボットへの愛情など到底持っておらず、ひたすらダークマニュアルコード欲しさにサニーを手に入れたがる。
彼女に関わったら最後、どれほど味方であろうと彼女の心変わり次第では簡単に亡き者にされてしまう。最初は連れ去られたスージーが片言で憶えていた日本語をヒメに話すと皮肉にも悪口だったのが可笑しくて笑って見ていたけれど多分、シリーズ内一番の悪役だと思う。

ミクシーは、結局どこからヤクザと繋がっていたのだろう。
それとも本当にスージーと初めて会った時から恋心のようなものを感じていたのか。初対面でありながら、赤い糸、とまで言っていた。
どちらかと言えばボット否定派の快楽主義寄りな性格で、最初は否定していたサニーを段々信頼するようになったスージーからサニーを遠ざけたいという気持ちから一緒にいたのだと思っていた。その気持ちに嘘はなかったとしても行動はスパイだったし、彼女自身も軽やかに生きているようで、実際はとても傷つきやすかった。偉大な偽善者……。

『SUNNY』シーズン1の最後は諦めなかったスージーが勝利したと思う。
もちろん口が悪く、それは自分が意識していない所でも発動してしまう性格は唇から弾丸という、他人を傷つける武器を持った女性だが、8話回想を見る限りマサもそうだった。口は悪いし、酒もラッパ飲みする所まで同じだった。ただ、マサはもう少し繊細だった。幼少期からずっと傷つき、誰も信頼せず閉じこもって生きて来た。けれどマサは過去の自分と似たスージーに出会い、自分が辿った孤独を選択させず、自分との生活を選んだ彼女がどんどん本来持っていたであろう明るさを取り戻したのが眩く、それは10話でかけがえのない愛へと昇華していった。

しかし、スージーを演じたラシダ・ジョーンズさん、悪口やら英語のスラング(Naughty word)の羅列も凄かったし、最終話なんかマイクを使ってスラングを響き渡らせているし、凄い役を引き受けたなあ。しかも何か伏線でもあるかのようにやたらトイレシーンが多かった。けれど結局何もなかった。何だったのか。生きてる人間を表すため?

どの登場人物も保身がある。
もちろん、人間には実際に生きて行くための保険が必要だ。ロボットにはそれがない。どれほど高度な設定が為されたサニーに於いても。プログラムは人間の手によって替えられ、記憶はロックされ、手足をもがれても血は出ないし痛覚もない。更に記憶を消去された上で上書きも可能な、完璧な「物」だ。

しかし、人間には裏腹な悪戯心がある。
ゼンは1話から遊びなのか悪戯なのか、スージーのデバイスを掠め取ってしまう癖があった。それが最終話で良い方に作用したが、悪戯というものは軽はずみに行われる。ボットにはできない技だと思う。それが毒になるか薬になるかは成長すれば理解できる。ゼンはきちんと「それをしたら怒られる」と理解できている。しかし理解できない人間、例えばヒメのように簡単に人の命を奪う人間は、永遠に同じ視点からしか物事を考えられない。それは何もプログラムされていないロボットと同じ存在で、憎しみ、血を流し、法の下で投獄される運命だ。
できればシーズン2がある事を期待している。



nippon.comより

キャスト集合写真。サニー役のジョアンナ・ソトムラさん(左)の雰囲気、サニーと似ている気がします。役を抜けた後の皆さんの朗らか写真いいですね。

🤖 聖地巡礼もできる! 『サニー』の舞台となったロケ地マップ。

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幸坂かゆり
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