2024年映画『スオミの話をしよう』感想
2024年映画「スオミの話をしよう」脚本と監督は三谷幸喜氏。前作から5年経っているという話題作。出演する俳優さんも誰もが知る、と言う有名な方ばかり。その頂点に立つのが長澤まさみさん。
元夫1 遠藤憲一さん 魚山(ととやま)大吉さん(庭師)
元夫2 松坂桃李さん 十勝左衛門さん(YouTuber)
元夫3 小林隆さん 宇賀神守さん(警察官)
元夫4 西島秀俊さん 草野圭吾さん(警察官)
現夫5 坂東彌十郎さん 寒川しずおさん(詩人)
元夫の二人(西島さんと小林さん)が警官だからすぐに解決の糸口を見つけるかと思いきや、まあ進まない。別れたスオミのことは自分が一番知っている、とおかしなプライドがあるようだ。(いや、あなたたち既に別れてるんですけどね)現在の夫である詩人、寒川は大富豪でありながらそれを隠し、清貧でやってます、という「詩人のイメージ」を崩さず、傲慢な上ケチ。(ここが原因違うんか? と思えたほどだ)
しかし失踪中のスオミが回想シーンでバンバン出て来て、おまけにその他の夫たちも別れてから一か月に一回食事をしてる、と言うと私もだ、とか虚勢を張るのでそこまで会ってて本当に失踪した手がかりないの? と疑問に思ってみたり。
でも、とうとう誘拐犯から電話が掛かってくると全元夫総出でワタワタしちゃう。しかも身代金は三億円。只事じゃない。なのに夫のくせに寒川は出し渋る。坂東彌十郎さんご本人とは関係なくこの詩人役はいけ好かない。やたら怒鳴るし、編集者(戸塚純貴さん)を付き人扱いするし、かと言って彼がいないと何も出来ない。
ほぼ全てがこの豪勢な寒川邸で行われるのですが、喋り方も合いの手の入れ方もちょっとした演劇のようだった。みんな声張るし。しかもこれだけのベテラン俳優さんが揃って密室サスペンスって面白そうじゃないか、と思ってたのだが、スオミの夫たちのエピソードがスオミ七変化のために取って付けたようで薄い。俳優さんご自身の魅力があるのでそれらは可愛いシーンにはなっていたけど夫婦の間でどんな人間関係を作り、スオミはなぜ彼らを惚れさせたまま別れたのか、姿形以外のスオミの魅力がさほど伝わらない。
個人的に一人の人物に対し、沢山の人間が固執するとなるとフェティシズムが必要になるとは思うんです。でもここでのフェティシズムは容姿でしか表されない。中国語を話すスオミは長澤さんの力量として凄いと思ったけれど出会いは鮮烈でも中国語を話せることは個性ではないので、あれでは婚姻生活はままならないだろう。宇賀神さんはあの言葉の通じないスオミのどこを愛したんだろう。そう考えると十勝左衛門くんとの関係は別れても友達としてやって行けそうだと思った。草野さんはモラハラ夫と言う意見が散見されて「そんなことない」と言えない所、胸が痛い。西島さん自体が好きな俳優さんだけに草野さんのイメージがついたら嫌だな、と思う。そんな五人の元夫たちがバタバタと一挙に動き回るシーンは圧倒されつつ呆気にとられた。
また、夫たちがスオミに振り回されるような展開とは裏腹に、スオミの生い立ちはかなり毒親に操られて気の毒だった。長澤さんの学生時代のコスプレと若い頃(?)のエンケンさんの衝撃は置いといて(笑)あの軽薄で自分勝手な母親の元で暮らしていたらスオミは逃げたくて、でも方法が分からないから自分を好いてくれるロリコンの魚山さんに助けを求めるのも無理はないと思う。自分を現状から救ってくれる人という意味で。そこを考えるとやはり笑えないんだな。スオミはしなやかに男たちの間をすり抜ける可愛い悪女、と言うよりも、心は不器用だけど、器用に演じ分けして生きられるのはスオミの無意識の防御のようで哀しく見えた。結果、自分を守ってくれない母親(この役も長澤さん)の悪い影響下の許で生きてしまった可哀想な女性に思えて来てしまう。
そのせいで途中いたたまれず、コメディともコントとも捉えられなくなってしまった。ただ、ラブシーンもないから(西島さんの言葉は少々R15かな)ご家族で観ても大丈夫だし、誰も死なないし、セスナのシーンで瀬戸康史さんが危ない目に遭ってもフィクションならではの漫画?w みたいな方法で助かるし。いやその割に超切迫した演技だったので笑った。瀬戸さん、顔ぷるぷるしてたし。そして犯人は観ていればどんでん返しもなく呆気なく判明する。そしてみんな納得しちゃう。なんて自由なんだ。
スオミがここまで騒動を起こした理由に「これからは自分が生きたいように生きる」(意訳)と決めて去ろうとしていたのは肯定した。一件落着後、スオミが勢揃いした元夫たちの中から草野さんだけを呼んだので何か隠していたスオミの気持ちが聞けるのでは、と期待したら、半年に一度会っていた理由と何も変わらなかった。つまり以前もそうしていたように毎回草野さんを呼び出す理由は現在の夫との離婚届けの書類を頼むことだけなのだ。
ただ、スオミがいつも首にかけているロケットペンダントを開いて草野さんには写真を見せた。あの場面は「西島秀俊さん」だからきゅん、とするんだろうな。ちょっと偏ってるな、と自分を俯瞰してため息をついた。
エンドロールで元夫を演じた俳優さんの横に数字が付いていて何番目の夫かわかるようになっていたが、編集者役の戸塚純貴さんは5.5、瀬戸康史さんに至ってはスオミがもろ口説くシーンもあり結局、6になっていたので全然変わっていなかった。
元夫たちが集まったあの場で、今までは演技していたスオミだけれど本当は誰の手にも届かない高嶺の花であり、ぱーっとその場を蹴散らして峰不二子のようにセクシーさやキュートさを纏ってアザミ(宮澤エマさん)を連れてセスナも三億円も奪って逃げて欲しかった。彼女とは将来、フィンランドの老人ホームで一緒に暮らすとまで約束しているソウルメイトだと言うんだから。そこまで素っ頓狂な設定でもいいじゃないか。映画なんだもの。そこで、改めて納得せざるを得なくなった元夫たちとスオミの夢の世界のようなヘルシンキミュージカルが始まれば納得できたかなあ。えっ、あの人があんなだせぇダンスを!?(失礼か)みたいなのは間違いなく見所だったし。三谷さんにしかあのベテランキャストたちにあんなことをさせられないと思うし、ヘルシンキの曲、初めて聞いても頭に残っちゃうし(笑)
色々言っても、この作品は長澤まさみさんを崇め奉る映画なのでしょう。
ここまで偉そうに書きつつ、三谷作品はドラマの『古畑任三郎』しか知らないくらい情報よわよわなので、もしかしたら監督の色だとかみんなが待っていた部分などが私にはよく理解出来ていなかったのかも知れません。
PS / 個人的にスオミが着けてたロケットペンダントのレプリカが売り切れてて残念だったです(ここまで言っといて欲しかったんかい)
🔹ミュージカル調「スオミ」サウンドトラック。
🔹トレイラー
けれど、話題の映画をスクリーンで鑑賞できたのは本当に嬉しかったです。映画館はやっぱり大好きな特別な空間。🍿