見出し画像

2024年 AppleTV+ドラマ『SUNNY』感想 1

🤖Sunny is now streaming on Apple TV+

AppleTV+とA24がタッグを組んで制作したドラマ『SUNNY』(2024年7月)視聴。ディレクターはルーシー・チェルニアクさん(Lucy Tcherniak)他。脚本はケイティ・ロビンスさん他。コリン・オサリバン氏の小説『ダーク・マニュアル』をベースにした物語です。ヒロインであり妻、スージー役にはラシダ・ジョーンズさん。夫、マサ役に西島秀俊さん。西島さんが日本で長い間所属していた会社から独立した後、ハリウッドデビュー作品だと発表され、話題になりました。

ストーリー

物語冒頭、とある人物が17と呼ばれるボットに殴られ、命を奪われる。場は混乱し、多くの人物たちの叫び声、犬の吠える声、17を止める声が響く。やがて静かになり、隠蔽しようとする話し声が聞こえる。死んだのは誰なのか、話し声の連中は何者なのか。バイオレンスなオープニング。

クリスマス、京都で暮らす外国人女性、スージー・坂本(ラシダ・ジョーンズさん)の許に、夫のマサこと坂本正彦(西島秀俊さん)と一人息子のゼン(Fares Belkheirさん)を乗せた飛行機が事故に遭い、消息不明になったという不幸な報せが入る。悲しみから自暴自棄になっている彼女の許にマサの同僚で「田中友喜」と名乗るかなり年上の男性(國村準さん)が訪れ、ホーム用ボット(ロボット)「サニー」をプレゼントされる。スージーは過去のトラウマからボットを嫌っており、すぐに返そうとするが田中によるとサニーはマサがスージーのために作ったボットだと言う。スージーは出会った時からマサは冷蔵庫部門で勤務していると聞いていた。しかし田中から冷蔵庫部門は12年前にミャンマーに移っている、と知らされる。実際のマサはロボットエンジニアだった。

一方でスージーの好きなものや嫌いなものが全てプログラムされているという陽気なサニーを最初は受け入れられず、一度は捨てたり破壊を試みるも、マサとスージーの間でしか交わされない仕草をするサニーにマサを垣間見て躊躇う。そしてサニーを受け取った時期から謎のヤクザ集団から付け狙われるようになる。優しい夫、良き父親だったはずのマサのことを実は何も判っていなかったとスージーは愕然とする。

更に反社会的な行動をしていたのでは、と訝しく思える数々の事柄を知ってしまい、スージーはマサが何者なのか、ヤクザとどんな関係があるのかを調べ始める。聞きたいことは山ほどある。けれど張本人であるマサがここにいない……。

第1話 He's in Refrigerators(邦題「冷蔵庫担当の夫」)

1話が30分という短さの中で、細かな伏線が張り巡らされてあり、謎を残したまま次回にバトンタッチされるので放送日が待ち遠しくてたまらなかった。最初、スージーは大人しそうに見えたけれど夫と息子が消息不明になり、当日の様子を聞かれてもぶっきらぼうに答え、相手に嫌な思いもさせて相手からの同情すら受け付けないほど口が悪く、誰にでも牙を剥いて壁を作っている。マサとゼンとの思い出の中ではよく笑い、はしゃいでいると言うのに。

サニーが田中に連れられてスージーの許に来た日はクリスマス。
本来ならば最高のプレゼントのはずだが、スージーは母親を自動運転の車で亡くして以来、ボットを信用せず毛嫌いしている。結果的に自分のために来てくれた田中の好意を無碍にもできず取り合えずはサニーを受け取るものの、田中に訊ねたのは「どうすればオフにできるの?」という質問だけだった。

田中が帰ると、さっそく話しかけようとするサニーに向かって有無も言わせず電源をオフにする言葉「サニー、スリープ!」と言い放ち、さっさとオフにしてクローゼットに閉じ止める。スージー自身もヤケになり、酒をがぶ飲みして物置に閉じこもる。

しかし、スージーがリビングに来た時、いつの間にかサニーもそこにいた。それからは何度「スリープ」と言っても勝手に起動することが繰り返され、スージーは不気味に思う。しかもこの日は何もかもうまくいかなかった。
ワインボトルを持ったまま転倒し、サニーに「あなたを助けたい。こういう時のためにいる」と、慰められてもその手を払い除けてスリープさせる。ふとマサの勤める会社、イマテックでクリスマスパーティーのハガキが来ていたことを思い出し、スージーは名刺を頼りにイマテックに向かい、もう一度田中と話をしようと思い立つ。
しかし、イマテックで田中友喜を呼び出してもらったが、スージーの許に来たのはあの男性ではなく同じ名前の若い社員、タナカ・ユーキ(関口アナンさん)だった。かなり酔っ払っていたユーキは上司であるマサを冗談交じりで批判し、笑えない軽口を叩き、スージーの冴え渡る毒舌が発揮され、謝罪するユーキに「くたばっちまえ」と笑顔で罵り、その場を離れる。

その少し離れた所から誰かのボットが出て来た。どこから来たのか気になったスージーはボットが開けたドアが閉まる前に勝手に入り込んだ。地下への階段を下り廊下を渡った先には『坂本研究室』と書かれたプレートがあった。スージーが目の前に立つとドアの鍵が解錠され、そのまま招かれるように長く続く部屋の中を歩いて行く。バーや歯科医院、簡素な神社まである。商店街のようだ。最も奥の部屋には元気で可愛い犬が数匹いた。ベージュの色合いのカーペットが敷いてあり暖かな空間だったが、スージーはそこに血飛沫のようなものを見つける。更にはカーペットの上に何かを引きずったような赤い線も。

イマテックを出たスージーは、サニーがいる家には戻らず、マサと一緒によく来ていた行きつけのバー「OCHIBA」に入る。今日は1人なのでどこか落ち着かない。しかし頼んだカクテルはアルコールの調合に間違いがあったらしく酷い味だった。作ったのは新人のミクシー(アニー・ザ・クラムジーさん)という若い女性だった。はっきりものを言うスージーに対し、ミクシーは余裕の笑顔で応戦する。そこから自己紹介をして、互いに別れを経験していることを告白し合う。もちろんミクシーは会ったばかりなので夫は消息不明とは言わず「離婚した」と嘘をついたが、久しぶりに穏やかな時間を味わう。レコードから流れる音楽にも心が動き「この歌、好き」と呟き「私も好き」と
ミクシーも同意する。そしてミクシーは言う。

「こういうの、何ていうか知ってる? ”赤い糸" 運命によって結ばれてる」

その後、ミクシーは自分用のボットにオプションをつけて夜の遊びを楽しんでいると話す。驚くスージー。オプションのコードを売るディーラーがいてそれをボットに侵入させれば既存のボットに何でもさせられる、と。更に最近起きた議員の転落事故についての話題になり、ミクシーがあれはボットが突き落としたのでは、と推測する。自分のボットは好きだけど完璧に電源を落とさないと怖い。ただ眠らせるだけなんて何をするか分からないから、とミクシーは言う。そんなふうに、ただ眠らせて来ただけのサニーを思い出し、不安から店を出る。取り残されるミクシー。急いで帰るスージーをどこからか見ているオールバックにポニーテールの怪しげな男(清水伸さん)。
「女を見つけました。1人です」と誰かにメッセージを送っている。

そのまま家に戻ると、出かける前にスージー自身が割ってしまったワインボトルをサニーが片付けていたであろう痕跡と、やはりその作業中、サニーに付着した赤ワインが線になっていて、先程見てきたカーペットの血と錯覚した。しかもスリープさせていたサニーの場所が移動している。スージーはクローゼットから大きな袋を出し、サニーを詰めて電車に乗り、遠出して岳山寺橋から川の中に捨てようとするも重過ぎて持ち上がらないため、そのまま置いて帰った。

1人になり、ベッドに入ったスージーはデバイスでミクシーが話していた議員の死を調べる。事件現場である議員の部屋の床を拡大させると会社で見た同じ赤い線がついている。恐ろしくなりサーチを中止すると、不意にスージーの思い出の写真が起動する。
果物の被り物をしたスージー、マサ、ゼンが映し出される。楽しそうな笑顔。スージーのデバイスを勝手に取って隠そうとするゼン。すぐスージーに見つかり「ママの勝ち」「ズルいよ」「ズルなんてしてないよ」とはしゃぐ姿。調子はずれのハッピーバースデイを歌う仲睦まじい声。
スージーはマサに電話をする。やはり留守電ではなく呼出音になる。飛行機事故に遭った他のみんなは留守電になっていたのにマサだけは呼出音になっている。ただマサが出ることはない。

やがてスージーはそのまま眠りに落ちるが、目を覚ますとサニーの陽気な声がして驚く。スージーはバットを持ち出し、叩き壊そうとする。その刹那、サニーはマサとスージーにしか判らない仕草をした。飛行機に乗る直前にも見た独特の、鳥が羽を広げるような投げキッス。スージーは思わずバットを落とす。力が抜けたように椅子に座り込み、何度もサニーにその仕草を切望する。
「言ったでしょう?」
諭すようにサニーは話す。
「私はあなたのためにプログラムされたの」



1話を丸ごと書いてしまいました(笑)
感想を書くには話を理解しないと…(言い訳です。長くて申し訳ありません)しかし最終話まで観た今となってはこの1話の中にたくさんの伏線が張られていて驚きます。ただ伏線は回収されなければストーリーは終わらない。ベースとなる原作、コリン・オサリバン氏の『ダーク・マニュアル』は『サニー』と改題された邦訳が9月24日に発売されます。どこまで謎が解かれているのだろう。今から読むのを心待ちにしています。

さて、本作品の舞台が京都なので日本人の俳優さんが多数出演していてそれは当然ではあるのですが「SUNNY」の世界観はレトロフューチャーともいうべき日本で、確かに日本ではあるけれどそうではない。かと言って全てがハチャメチャな昔の洋画に出て来る日本人の描かれ方とも違う。何なら後にスージーの相棒、兼、サニーとライバル関係のようになる重要人物、バーテンダー、ミクシー(アニー・ザ・クラムジーさん)はトランスジェンダーともポリアモリーとも取れるような描かれ方をしている。髪色もファッションも奇抜なのに馴染んでいて可愛い。最終話では節分の行事も描かれ、制作に携わったスタッフの皆さまから日本へのリスペクトを感じます。

スージー、マサ、ゼンが暮らす家のセットも木の香りが漂うような見事な日本建築ですがトイレなどはとてもモダンな造りです。
物語では、2話からサニーのくるくる変わる表情とスージーとのやり取りがコミカルに描かれながら進行しますが、3話以降、唐突に暴力が支配する世界へと展開し、アダルトグッズを売る店やホストクラブはカラフルでキラキラしていて素晴らしく目が眩むビジュアルです。そんなきらびやかな表の顔とは裏腹に、内部構造は暗く冷たいコンクリート建築で背後に流れる雑音も背徳感が渦巻いているので気が抜けません。さすがにこの辺り、R15指定の作品だと感じます。

更にそのリスペクトは劇中登場する音楽にも表れていて、古き良き日本の歌謡曲や、5~60年代の洋楽が使用されています。オープニングテーマは渥美マリさんの『好きよ愛して』(1970年リリース)エンディングは1話ごとに違っていて歌詞は内容を示唆しているように感じます。これらの音楽をひとつに纏めてサントラ盤としてリリースするのは難しいだろうな、と思ったらApple Musicさん、リストにして下さいました。これで心置きなくドラマに出て来る懐かしい(いや私はそこまで年では)曲が気軽に再生できます。古い音楽も令和の今聴くと鮮やかで、もはや新しくてとても良いです。

🤖『サニー』サウンドトラックリスト

🤖オープニングテーマ動画

🤖2024年9月24日発売。原作『ダーク・マニュアル』の翻訳本。

この記事が参加している募集

最後までご覧いただき、ありがとうございます。励みになります。