話さない彼女と聞かない私
ある女友達を、私はすごく好きだった。
どんな所にいても、いつの間にか場の中心に立っているような子だった。彼女はよく笑い、素直で、賑やかで、おしゃべりの話題も豊富だった。
自分の思いをストレートすぎるくらいに伝える子だったから、彼女を苦手に思う人も少なからず居たかもしれない。
だけど、私は彼女のことが大好きだった。
一度、彼女に向日葵の花を贈ったことがある。
色鮮やかで真っ直ぐ伸びる、太陽に似た花。花言葉は「憧れ」らしい。彼女にピッタリだと思った。
彼女は私にとって「憧れ」だった。私は彼女のことが、すごくすごく好きだった。
喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣きなさい。
これは有名な聖書の一句。
互いに思いを一つにすることが「愛」であると、キリスト教では教えられている。
相手と感情を共有することが「愛」であるというなら、私はきっと彼女のことを愛していない。
私はもう、彼女の感情の揺れ動きに興味を持たない。
*
私が彼女を愛さなくなった原因を、自分自身でもよく分かっている。
(これは私が被害者意識を持つようなことではないので、「愛せなくなった」ではなく「愛さなくなった」と表記したい)
彼女が自分の恋愛を、私に話さなかったから。
彼女が自分の恋愛を、私に「だけ」話さなかったからだ。
子供じみていると思う。だけどそれは、私が彼女に抱いていた想いを打ち砕くには充分すぎた。
*
当時、彼女には好きな人がいたらしい。
その男の子のことを、私もよく知っていた。
私と彼女と彼は、皆同じコミュニティに所属していたから。3人で一緒に遊びに行ったこともあった。可愛らしい言い方をするなら、私たちは仲良しだったのだと思う。
彼には付き合って3年経つガールフレンドがいた。私の友達も勿論それを知っていた。だけど彼女は彼を好きになってしまった。
ある日、私と彼女と彼の三人で遊んだ。沢山ご飯を食べて、お酒を飲んで、その後カラオケに行った。門限があった私だけ、カラオケの途中で帰宅した。
その日、私が帰った後、二人はホテルに行った。二人の関係はその日だけでは終わらなかった。
*
私はこの話を、彼女と別の女友達から聞いた。
彼女とその女の子は、正直仲が良いとはいえる関係ではなかった。(ごめん)
「知ってると思ってた。私たちのコミュニティの女の子は、たぶん皆知っている。彼女は彼との間にあったことを、どこか誇らしげに話していたそうだから」と、その友達は言っていた。
すごく、すごくショックだった。
自分だけ知らないことがあったという事実が、こんなに心を冷やすなんて知らなかった。
それに私は、以前好きな人が出来た時に「誰にも言わないでね」と彼女に教えたことがあったのに。
私は彼女のことを特別な友達として見ていたけど、彼女はそうではなかった。
それに気付いた時、私は彼女のことを、以前のように好きではなくなってしまった。
*
今、彼女には彼氏がいる。
彼女が当時好きだった男の子ではない、私の知らない別の男の子。
彼女は新しく出来た彼氏のことを、私に沢山話してくれる。
この前遊びに行った所、彼氏の好きなところ、良いところ、不満に思うところ。
私に話さなかった過去の恋愛話の分を取り返すみたいに、彼女は私に色々な話をしてくれる。
だけど私は、彼女の話をひとつも覚えていない。
意見を求められて、自分が答えた内容さえも思い出せない。
彼女の嬉しかったことも、悲しかったことも、私はもう共有することが出来ない。
そんな自分を底意地が悪くて最低だな、と思う。
本当は分かっている。
彼女が私に話をしなかったのは、私のことを友達だと思っていなかったからではないということを。
寧ろ、彼女は私のことを好きで大切に思っていたということを。
きっと彼女は彼のことも好きだったけど、私と彼と3人で、友達らしく遊ぶのも好きでいてくれた。
自分たちの関係を私に明かすことで、3人の関係を壊したくないと、きっと彼女は考えていてくれていた。
彼女は私を傷つけるのではなく、守りたかったのだと本当は分かっている。
分かっているけど、私は彼女の話を昔のように聞くことが出来ない。
話せなかった彼女と、聞けない私について。
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