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【事例紹介】「#酔っぱらいではありません」(前編):病気への誤解を減らすパスケースが生まれるまでのこと。

こんにちは。「PRAP OPEN NOTE」編集部です。
今回は、プラップジャパンで手掛けた「#酔っぱらいではありません」プロジェクトを紹介します。

「#酔っぱらいではありません」は、脊髄小脳変性症(SCD)と多系統萎縮症(MSA)の啓発を目的にスタートしたプロジェクト。「山形県 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症・神経難病 友の会」の代表をつとめる清野東至さんを発起人としたプラップジャパンのプロボノ活動です。キャッチコピー「#酔っぱらいではありません」の制作から、啓発のためのプロダクト開発・情報発信まで一貫して、プラップジャパンの有志で行っています。

「#酔っぱらいではありません」というキャッチコピーは、身体のふらつきや呂律が回らない症状から「酔っぱらいと間違われてしまうことがある」というSCD/MSAの患者さんの実体験から生まれました。この誤解を少しでも減らせるよう「#酔っぱらいではありません」というメッセージをデザインした患者さん向けのパスケースを制作し、さらにパスケースを届けるためのクラウドファンディングを実行してきた形です。

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今回は、このプロジェクトの中心メンバーである、プラップジャパンの渡辺 幸光さん、持冨 弘士郎さん、そしてクリエイティブ面で全面サポートをいただいている北川デザインオフィスの北川 正さんにお話をうかがいます。

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(写真左から:渡辺 幸光さん、中央:北川 正さん、右:持冨 弘士郎さん)

——まずは、このプロジェクトの立ち上げのきっかけから改めて教えてください。発起人である清野東至さんと渡辺さんが元々お知り合いだったそうですね。

渡辺:はい。清野は学生時代からの大切な友人のひとりです。大学卒業後のあるとき、「脊髄小脳変性症(SCD)という病気になった」と彼から連絡があったんです。
調べてみると、日本に3万人から4万人の患者さんがいる難病で、同様の症状に多系統萎縮症(MSA)という病気があると知りました。
以降、年に数回やり取りが続く中で、清野から「SCDやMSAを、もっとみんなに知られる病気にしたい」と相談を受けたんです。病気の名前が世の中に知られることが治験の後押しになる。病名の認知を高めることが、治療法の開発においても大事なんだと聞きました。

——「世の中に知らせる」ための活動は、まさに私たちPR会社の得意分野ですよね。社内にも希少疾患などの啓発領域に強いメンバーは多いです。

渡辺:啓発活動にあたって、どうしても気になったのは、患者さんがフォーカスされること。ともすると、清野に注目が集まる。それでもいいかって清野に聞くと、「自分が前に出ることで、みんなが知ってくれるなら全然いい」と言ってくれたんです。この言葉で僕自身、覚悟が決まって。それなら清野東至という人物を通してなにかできないか、と社内の持冨さんに相談したのがきっかけです。

——なるほど。そこでプロボノとして活動をはじめたんですね。

渡辺:そう、予算はない。それでも相談に乗っていただける奇特なデザイナーさんはいないかと、仕事の縁をたどって北川さんにご相談した形です。すぐに快諾をいただいて、持冨さんと北川さんと僕の3人で動き出すことになりました。

——パスケースを制作して病気のことを知ってもらう、というアイデアにどうやっていきついたんでしょうか?

持冨:実は最初からパスケースのアイデアにいきついたわけではなくて。はじめは、SCDの患者さんの活躍の場をつくるために企業のバリアフリー推進を患者さん視点でアドバイスするコンサルファームを作ろうとか、「シックをハックに」というコンセプトで、SCDの患者さんならではの新しい商品やサービスを見つけるハッカソンをやれないか、みたいな話をしていました。

——SCDの当事者の方たちとより良い社会を目指すプロジェクトを立ち上げることで、病気の認知を広めようという考え方だったんですね。

持冨:そうですね。いま思うと最初から大きな絵を描き過ぎていたというか、多くの患者さんの協力がないと実現できないアイデアばかり掘っていた気がします。

渡辺:清野は山形県に住んでいて、なかなか会えないので、東京の患者会のみなさんにも会いに行き、何度かご意見をうかがう機会をいただきました。
当事者のみなさんと一緒に実行する企画を通じて、SCDを知ってもらうきっかけになればと思い、これらの企画を患者さんたちに持ち掛けてみたわけですが、肯定してくださる方もいれば、難しいんじゃないか、とちょっと後ろ向きな意見もあったりして。
どんな患者さんにも応援されるような企画を、と考え直し、再度企画を練ることにしました。

——「患者さん起点/患者さん目線で社会の仕組みをつくる」という考え方は素敵ですが、患者さんの協力あっての企画だから、最初にはじめる活動にしては、患者さんへの負担がどうしても大きくなってしまいますよね。

持冨:それから、向き合う対象を病気全体から、もう一度清野さん個人に戻そう、と渡辺さんと北川さんと話したんです。清野さんの個人的な悩みを解決するところからスタートしたほうがいいのではないかなと。
そこで思い出したのが、「酔っぱらいと間違われてしまう」という清野さんの体験談。この病気は、身体の運動機能が低下してしまうので、身体がふらついたり、ろれつが回らなくなったりする。そのせいで「酔っぱらってるんじゃないか」と誤解されたことがあったそうなんです。
この事実を、そのまま外に発信したらインパクトもあるんじゃないかというところから、「#酔っぱらいではありません」というコピーが生まれました。

——ハッカソンやコンサルティングのようにSCDの患者さんが活躍できる仕組みづくりを通してSCDを知らせるのではなく、SCD患者の清野さんという方はこんな誤解を持たれることがあるんです、と本人の言葉を通じて発信する形に考え直した、ということですね。
「#酔っぱらいではありません」というこのコピーを北川さんが初めて聞いたときはどんな心境でしたか?

北川:「#酔っぱらいではありません」という言葉の持つ力の強さを感じたことを覚えています。
「助けてください」とか「手伝ってください」のような切実さとはまた違った、少しチャーミングなニュアンスでSCDやMSAの症状を端的に表現する言葉であることに心が動いた記憶があります。
あとは、ヘルプマークよりも「一歩先の言葉」を発しているという構造だなと捉えました。ヘルプマークは、周りの人が症状のある方に気がついてアクションをするためのマークとして浸透している。一方、この「酔っぱらいではありません」という言葉は、患者さんから「一言目」を発してコミュニケーションがはじまるのがいいなと思いました。

——たしかに。「私、決して酔っぱらいではないんです」という患者さんからの表明ですよね。当事者から周りの人に伝えることで、症状への誤解を解くことができる。患者さんと世の中との関係をよくするための言葉ですね。

北川:患者さんが身につけられるものや、周囲の目にとまりやすいものにこの言葉を載せたいと話は膨らんでいって、最終的にパスケースというプロダクトになりました。
症状が発症してしまうと、家から外に出ていくのにも一苦労。出かけるときに役に立てるように使っていただけたらいいなと思いました。

——このパスケースがある種「お守り」のように、外に出てみようと前向きに思わせてくれたり、出るときの気分を明るくさせたりする力もあると感じています。清野さんご本人の反応はいかがでしたか?

渡辺:清野は冗談が好きなタイプの人間なんです。「酔っぱらいではありません」というユーモラスな言葉とあわせて、このプロダクトを見たときは、とても響いていた気がします。

北川:パイロット版で作った第一号を先に清野さんに送ったところ、お会いしたときにリュックにつけてくださっていたんです。嬉しかったですね。

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※パイロット版をつけている清野さん。「コピーを聞いた当初からすでにヘルプカードの十字マークとハートマークがセットになった状態のデザインをイメージしていました」(北川さん)

渡辺:そうそう、清野は山形県の患者会で代表をしているんですが、パスケースをつけていたら患者さんの何人かに「私も欲しい」って言われたと言っていました。

持冨:このパスケースって「患者さんが持つことで、はじめて機能するプロダクト」なんですよね。
となると僕らも自然と、できるだけ多くの患者さんにこのパスケースを届けたくなってくる。清野さんから、ほかの患者さんからも好評だというお話を聞いたことで、その想いが強くなり、パスケースを量産する費用をクラウドファンディングで集めよう、という流れになったんです。

「酔っぱらいに間違われてしまうことがある」という症状を、患者さんからの意思表示としたコピー「#酔っぱらいではありません」。生まれるまでのエピソードを聞くと、この言葉の力強さとチャーミングさを、なおいっそう感じます。

このパスケースをきっかけに、SCD/MSAという病気をどうやって世の中に伝えていったのか。後編では、引き続きお三方にクラウドファンディング以降のエピソードをお聞きしていきたいと思います。どうぞお楽しみに。

<対談メンバー紹介>

■北川 正さん(アートディレクター / デザイナー 北川デザインオフィス 代表)
デザインを軸にコミュニケーション立案、ブランディング、デザイン提案を行う。音楽家、美術家などの表現者たちへのデザイン支援や、学生へのデザイン教育、デザイン的視点をベースにした、学童向けワークショップ開催にも力を入れている。

■渡辺 幸光さん(プラップジャパン / プラップノード)
プラップジャパンにおいて、デジタルを活用したPR業務を推進するとともに、「PRのDX」実現を目的として設立されたプラップノード株式会社の代表を務める。バズを使った広報効果の計測手法や、広報業務を一元管理できるSaaSツール「PRオートメーション」の開発などを行なっている。浦和大学 非常勤講師(広告・PR論)も兼務。

■持冨 弘士郎さん(プラップジャパン)
新たな価値観を社会に浸透させるためのPR戦略の企画および実行を得意とする。一般的な広報手法だけでなく、WEB動画やSNSコンテンツの制作、啓発キャンペーンの設計など、PR視点のクリエイティブディレクション経験も豊富。
受賞歴:PRアワードグランプリ ブロンズ、PR AWARDS ASIA FINALIST など

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