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「決してマネしないでください。」のススメ
自分自身の学生生活を振り返ると、周囲には奇人・変人・赤チェッカーしかいなかった。なお「赤チェッカー」とは、「赤チェックのシャツを着ている人」のことである。
そういうわけで、本日ご紹介するマンガは『決してマネしないでください。』。残念ながら3巻で完結済み、でもだからこそすぐに読めてしまう。「なんかお手軽に、教養を身につけるマンガとかないかなー」なんて方にはうってつけのマンガだ。
物語の冒頭で、主人公の工科医大の学生・掛田氏は学食のおばさん・飯島さんに恋をする。一世一代の告白。決め台詞はこちら。
僕と貴女の収束性と総和可能性をiで解析しませんか?
「はいはいフィクション乙」と思った読者諸君。私の研究室には、和歌で告白する男も矢文を飛ばす男もいたぞ。事実は小説より奇なり、とはよく言ったものだ。
しかし、このマンガ、ラブコメの皮を被った理科教育マンガといっても過言ではない。今日はイチオシの話を3つ挙げよう。
1.つべこべ言わずに手を洗え(1巻Q.2)
「手を洗うと菌が落ちる」これを広めるために命をかけた医者ゼンメルヴァイスの逸話。今年Twitterでも話題になっていたと記憶している。今となっては常識だが、当時まったく認められなかった悲劇。我々がいま、感染症と戦えているのもこうした先人たちのおかげである。
2.コンピュータの歴史(2巻Q.7)
今となっては、我々の生活には絶対に欠かせないコンピュータ。コンピュータにまつわる天才2人、ノイマンとチューリングの逸話が取り上げられているが、彼らの最期を思うとなんだか切ない。先に挙げたゼンメルヴァイスといい、時代を先取りしすぎた先駆者は往々にして報われないのだ。
ノイマンとチューリングを中心に扱っているとはいえ、「発明」の概念についてマンガ内で下記のように述べている。
「発明」というと突然起こるようなイメージかもしれませんが
実際は水を入れたコップに石をだんだん加えていき
こぼれた所が「発明」というイメージの方が近いのです
アカデミックに対してすぐ「役に立たない」という諸君、聞いているかね?
自分一人でなしえないことを継承し、次の世代へとバトンタッチしながら文明を進化させる。その営みを今この瞬間だけ切り取って評価することの、なんと愚かなことか。
3.理論物理学は役に立つか(3巻Q.17)
「僕らのワンピースは超ひも理論」という特大の名言が飛び出す。量子力学、一般相対性理論、ひも理論の関係が非常にわかりやすいので、興味のある方はぜひご覧いただきたい。
さて、その理論について、飯島さんと掛田氏の間でこのような会話がなされる。
「ロマンはわかったんですけど それってなんの役に立つんですか?」
「なんの役にも立ちません!」
まあ実際のところマンガでも語られるとおり、「なんの役にも立たない」と評されたものが役に立つことは多々ある。でも、そこに至るまでの無駄も認めて「なんの役にも立ちません!」と断言できる強さに、なんとなく憧れてしまう自分がいる。
なおこのQ.17では、明日役に立つムダ知識も紹介されている。
「針山地獄ではどんな姿勢を取れば安全か?」
「冷蔵倉庫に閉じ込められたらどうする?」
地獄に落ちる自信しかないので、私はもうしっかりと頭に叩き込んでいる。どんとこい、地獄の鬼。
マンガ本編以外にも注目!
マネできる実験にニュートリノの話、小ネタ満載のコラムも山盛り掲載。いやはや、なんてお得なマンガなんだ。
「もっと読みたかったなあ」と口惜しく思いつつ、3巻完結だからこそ人に勧めやすいジレンマよ。