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宇宙と僕とハイボール
旅の醍醐味のひとつは、当地の食だ。
とはいえ、基本的に僕は出不精である。
だから僕の旅とは、試合観戦、あるいは応援しているアニメや役者のイベントに参加するための「遠征」を指す。
その日も、僕は試合観戦のため中国地方のある県に遠征してきた。
一日目の試合を見終えた後、夕食をとるべくふらふらと出歩く。
お好み焼き屋さんがぎっしり詰まった、玉手箱のようなビルの4階。
そのカウンターの真ん中に陣取り、ハイボールとお好み焼き、ウニクレソンを注文する。
「お嬢ちゃん、家出してきたんちゃうよな??」
その場にはまるで不似合いな僕にむかって、大将が訝しむように尋ねる。
「僕もう家出するような年ちゃいますよー」
ハイボールを飲み下し、僕は大将に笑いかけた。
海と陸とのコラボレーションに舌鼓を打ち、またハイボールを一口。
「お嬢ちゃんには、幸せになってほしいんや」
ウニとクレソンが出会うラブストーリーを妄想していたら、大将がぼそっと呟いた。
はて、見ず知らずの僕に向かって「幸せになって」とは、これいかに。
怪訝に思っていると、大将はお好み焼きを黙って差し出した。
お好み焼きをコテで切り分けると、ぎっしり詰まった具が顔をのぞかせた。
まるで、多くの生命がひしめき合うこの宇宙のようだ。
生きとし生けるものが身を寄せ合って構成する世界。
僕も大将もまた、その一員なのだ。
キャベツと肉と中華麺で構成された宇宙を咀嚼し、ハイボールで流し込む。
僕の体の中にも宇宙が広がっていく。
「一は全、全は一」とは、このことか。
そう悟った僕の目の前のジョッキに、土星が浮かんでいた。