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『去年の雪』江國香織【読後脳内】

僕の読書体験のはじまりは宮部みゆきでした。今では彼女の作品も、ミステリー小説というジャンルすらも、あまり読まなくなってしまった。
それでも僕は彼女の作品が大好きだし、何よりも読書の原体験として、僕なりの本の読み方を形作った人です。
原体験をミステリー小説とする私の読み方は、「意味」に重きを置いたものです。この表現がどうしてこの文脈に存在しているか、前段の文章と今読んでいる文章にどのようなかかわりがあるか、などなど。ほぼ無意識下で、純粋な読書と別軸の思考が行われます。

江國香織作品を読むのは2作目(1作目は『ウエハースの椅子』を読みました)です。
彼女の作品は「意味」を破壊したものであると感じます。もちろん、江國香織は僕の好きな作家になりつつあるので、ポジティブな意味で。

僕は複雑な小説を好んでいます。様々な事象が発生しているのにもかかわらず、抽象的で、読後には少し困惑が残るような。(村上春樹を名指ししているようですね)

対して、江國香織作品はミニマリズム小説のように感じます。物語の主題を表現するにあたり、表現や伝達に不必要な装飾を排したような印象を受けます。
事象だけを並べたて、10回読んでも全員の名を諳んじることなどできなさそうな大量の登場人物。

でも、そこは江國香織が何らかの意図のもとに設定した世界で、そこにするすると沈んでいく。

本を閉じても、僕の目の前に広がる世界(目の前でおばさん2人が談笑している、隣の席ではおばさんがタバコを吸いながら携帯をいじり、店の外では買い物客が行き交う)すらも、江國香織の世界であるかのように感じられる。

無常。そしてSF(すこし、ふしぎ)。

「意味」を考えるでなく、目の前の文章をそのまま吸収し、素直に世界に入る。

清潔な作家だと感じました。また違う作品も読んでみたい。まだ、彼女の作る世界を理解できたとは思えないから。
でも、理解したいと思わせてくれるから。

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