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『冷静と情熱のあいだRosso』江國香織【読後脳内】
恋愛に際して、つとめて冷静にいようとしている。いや、したいと思っている。
そう思わされた恋愛のあと、僕はまだ人を愛せていない。
女性的な恋愛小説だった。
そして、嫌でも自分の過去に立ち返らされる、そんなお話。
「居場所」が大きなテーマだったと思う。
場所にも、人にも求めることのできる概念としての。
どこにも居場所を感じられない。それはなんだかすごく、ストンと理解できた。
地元が大好きだった。
わけもなく、友達もさしていないこの土地のことが。就職で遠くに行っても、愛する人と家庭を育めたとしても、帰る場所として存在していて、おじいさんになった頃には戻ってくるような場所なのだと、漠然と思っていた。
でも、そうではなくなった。
今ではたくさんの過去が、この町の至るところにある。ちくちくとしたそれらが。
僕は地元ではない場所で、1人でいることが好きだ。この文章も、そんな場所で書いている。
ただ、どこに行っても独りだと思ってしまう。
1人と独りの違いを決定づけるものが、居場所だと思う。
「人の居場所なんてね、誰かの胸の中にしかないのよ。」
身体は今、京都の河原町にいる。
心がもし、ここではないどこか、誰かの胸の中にあったなら、僕は独りではないのだろうか。
でも、僕が独りではなかったころ。情熱の方に身体と心を向けていたころ。
果たしてそのころに、居場所はあっただろうか。
結果的には、心に小さな地獄を抱えていく羽目になった。
居場所を見いだせそうになったら、僕はつとめて冷静でいたいと思うけれど、それは果たして居場所と呼べるのだろうか。
アオイはそんな場所を、居場所だとは思えなかったというのに。
冷静と情熱のあいだ、婉曲的で文学的な表現だと思う。
頭で分かっていることと、心が求めているもの。そのあいだ。
そのあいだに立つこと。立てるようになること。
僕はきっとまだ、大人になれていない。
居場所もない。居場所にも、なれていない。