ストリートファイターのプロリーグにパンピーがアナリストとして挑んだ時のお話 part2
前回アップしたpart1、多くの方に読んでいただけたようで嬉しい限りでございます。
まだ読んで無いよと言う方は先にそちらを読むことをお勧めします。
もちろん前回の続きとなるのですが、かといってこのペースでSFL終了までを記していくと一体どれだけのボリュームとなってしまうのかという部分と、登場人物が増えすぎて許可取りがむずかしくなってしまうため、ある程度簡潔に進めることににします。目標はpart3で終了です。
あと誤解なきようですが、僕が関わったのは一昨年に行われたSFL2021であり今年の2022には参加しておりません。
そして今回はいよいよ活動スタート編になりますが、その前に皆さんの考えるアナリスト像と今回僕たちがトライした活動に齟齬が出ないように確認をしておきましょう。
例えば一般的な場合…
データ集積班が集積したデータを、アナリストが指標などを用いて分析、そして選手・コーチを交えて傾向などをフィードバックする。
この一連の中でデータを分析し指標を用いて傾向を示すのが、本来データアナリストと呼ばれる人です。
今回の場合…
データ集積を僕たちが行なって、傾向などをプレイヤーであるガチくんに伝えフィードバックする。集積から分析フィードバックまでの流れをすべて受け持つと言うのが今回行った活動になります。
いくつか質問めいたものがあったのですが、他のeスポーツではすでにアナリストやコーチといったものは当たり前のように存在していて、FPS界隈ではもはや必要不可欠な存在になっています。
しかし格闘ゲーム界では少し特殊で、「未だにプロから引退したプレイヤーがいないこと」に起因する「常にプレイヤーが最善かつ最高の知識を持っている存在」であるために、“コーチ“と呼ばれる存在が居ませんでした。
実力がプロレベルに到達していない我々パンピーによる「アドバイスの説得力」と言うものが全く足りず、そういった役割を持てる人間がいないのが現状と言えるでしょう。さらに具体的なデータを用意する難易度の高さもあいまって、格闘ゲームにおいてこの分野を進めている人間はいなかった…はずです。
なので今回は「データをもとにプロにパンピーが進言する」という新しい形が生まれたといって良いでしょう。
それでは前回の続きになります。
5.実際にスタートしたが・・・
僕ともう一人、志を同じくするメンバー(仮にBくんとします)とガチくんの3人体制で取り組みはスタートしました。もう一人のメンバーであるBくんは格ゲー始めて1年ほどでしたがラシードをメインに使いすでにスパダイまでランクを上げてる高モチベ勢で、私と同じようにガチくんに自ら連絡を取り、この取り組みへの参加を熱望していました。
もちろんタイトルにパンピーと書いてはあるものの、最低限の読み合いである遅らせグラップだったり、投げ持続の話やバクステグラ、ワンガード行動にまつわるフレームなどの知識は無いとスタート地点には立てなかったと思います。
早速データ収集の取り組みをスタートさせた私とBくんでしたが、お互い初日に思い知ることになります。
とんでもないことを始めてしまったと。
作業はすべてのお互いの行動をコマ送りしながらデータとして一つ一つ手作業で積み上げていきます。3先3回の結果を1つの単位として仕上げていこうという計画のなか、初日13試合のデータ集計に要した時間は5時間。1ラウンド見るだけで20分以上かかりました。お昼にスタートしたのに終わった頃には日が暮れている始末。
当時時間のかかったデータで言うと両キャラの主要牽制の中足、中パン、大P、大Kなどの振る回数、さらにはそれがガードだったのか、スカったのかだったり、単発確認のお互いの成功率の集計をはじめとして色々ありました。
例えばかりんだったら中足や中パンが1ラウンドで何回飛び出すかを(少し想像してみてほしい)全てを集計、さらには相手のワールへの対応をワールの強度(弱、中、強、EX、トリガー2)別、さらにはそれが通常技からのキャンセルだったのか生だったのか、の場合別に分けて、相手がどのような対応を取ったのか(ガード、みてからジャンプ、みてから玉抜け、Vリバ、コパン割り込み、スカ確認EXタックルなど)、さらには相手の無敵暴れについては相手の体力状況別に打つ頻度なども記録していきました。
対戦上で起きる全ての事象を記録してやろうという意気込みでスタートしただけあり、スタート直後の頃は記録するシートの情報量は本当に膨大を極めました。
一番頭がおかしい記録は相手が起き攻めで仕掛けてきた行動全ての記録だったかもしれません(直投げ、コパ投げ、コア投げ、コアコパ投げ、コア立ち弱P、コパ立ち中Pなどなど…)
さらには野球のホットゾーンを参考とした、立ち回りで技を振る間合いを可視化するためのシートの作成も考えていたのですが、これは人力で作るのは不可能だと結論づけ結局立ち消えとなりました。AIの画像認証とか使えばできるかもしれませんね。
最終的には調べる情報量を絞ったことや、作業への慣れなどもあり、10試合で2、3時間ほどに抑えることができるようになりましたが、当初の予想通りこの作業はまさに砂粒で山を作るようなもので、相当なモチベーションと報酬の約束が無ければ完遂できなかったことでしょう。また作業の中でガチくんからレッドブルの差し入れを頂き、サポートもしてもらったことは非常に励みとなりました。
6.現れた最初のボスとトーナメント制でのアナリストの難しさ
この取り組みがスタートしたころ、ガチくんが苦しんでいたのが“板橋ザンギエフ”選手とのマッチアップでした。
直前に行われた第三期トパンガチャンピオンシップの決勝リーグでも対戦しており、ガチくんは3-7で敗北していました。このころ苦手意識がピークに達していたガチくんの「なんとかザンギさんに勝ちたい」という言葉を何度聞いたことか。
そしてここでEVO2021アジアの対戦トーナメントが発表され、トーナメントを辿ると、対戦の有力候補として「もけ選手」「ボンちゃん選手」そして「板橋ザンギエフ選手」と当たる可能性が高いことが判明、急遽この3名を中心にデータの作成を進めることとなりました。
そう、早速板ザン選手へのリベンジの機会が近づいてきたのです。
ここでガチくんが勝利することができたら、データアナリストの最初の手柄のひとつとして言えるだろうと思い、私はガチくんvs板ザン選手の試合をはじめとして、板ザンvsラシードの試合を片っ端から洗っていきました。Bくんはもけ選手、ボンちゃん選手を中心にデータを作成するという担当わけを実施。
急ピッチでデータを作成し、板ザン選手の技振りの傾向や体力や位置状況によって前飛びを仕掛ける傾向がある程度数字として見えてきた中で、ついに本番を迎えることとなりました。
12時に大会がスタート、順調に勝ち進んでいたガチくんですが、伏兵のアームピットプレイのセスにルーザーズに落とされることになります。オープン大会、特に海外勢も参加するトーナメント大会はトーナメント表の内容が直前で変更されるケースも多く、使用キャラを読み切るのも難しい。事前の準備が非常に難しさをこの時痛感したのです。しかしガチくんもここでL抜けし、トップ24に滑り込みます。
ここで対戦相手はもけ選手、何度も何度も行われている伝統の1戦とも呼べるラシード同キャラ戦をここで制し、ひとまず初のデータ解析を行った選手戦の白星を飾る。そしてついにガチくんは板橋ザンギエフ選手のもとに辿り着きます。
この時、対アビゲイルの中でいくつか作戦を立てていました、例えばアビの2中Pの長いリーチ対して、先端距離でラシードの立ち中Pにスパイクを仕込むことで対応、キャンセルフープに対しても立ち中Pで着地を取る作戦。前回トパチャンで対戦した時も負けのきっかけとなった端を背負った板ザン選手の鋭い前飛びに対して意識を持つというものでした。
我々の用意した対策は機能し、試合の流れを掴んでいくガチくん。しかしこの時の板ザン選手はワールに対する暴れをうまく通し、2大P対空もきちんと成功、その中で生CAを2度通しまたもここでガチくんを下すのです。
ここに対してかなりの準備をしてきた我々にとってもこの敗北はショックなものでありましたが、ガチくんからの「かなり感触がよかった」という言葉を聞けて救われた気持ちになったのを覚えています。
実際の試合を受けて、野試合ではやらなかった行動と言うのが本番でいきなり飛び出すことも多いと言うことと、プロといえど本番でのミスは避けられないことなど、改めて実感することとなったのです。
EVO 2021が終わり、反省点を洗い出すことができました。そして次のステージであるSFLとCPTを見据え、シートの内容などを改めて洗い直しながらユリアン、ガイル対策などをスタートさせていきます。
今日はここまで、この活動のターニングポイント、キーマンも登場するSFL編は次回になります。
思ったより書くことが多く、パート3で終わりそうにありませんが気長にお待ちください。
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