あなたの思い出買いますから(仮)イギリスアンティーク⑥
他の部屋から着々と片付けの作業の音が続いている。
早くこの台所を終わらせて次の部屋に行きたいけどこの事態を収めないと絶対に進めない。
さっきチラッと同僚が覗いて行ったけどニヤッと笑ってそそくさと作業に戻って行った。
どうせ「また捕まってしまったのだな。」くらいにしか思ってないのだと思う。それくらい頻繁にソレが現れるのだ。はじめの頃はひどく叱られて「何やってんだ!急げ!」と怒鳴られていたけど社長の理解と説明でみんななんとなく納得してくれている。
まあ、時々からかわれたりするけど僕は気にしない。だって人いやタマシイ助けなんだから。
昔で言ったら陰陽師?(笑)
とにかく出来るだけ早くおじいさんの思いを聞き出さないといけない。
「この紅茶いい匂いですね。さぞかし美味しかったんでしょうね。」
「…………。イギリス。」
「え?イギリス?イギリスにいたのですか?」
「むかしむかし、私はイギリスに仕事で住んでいた。もちろん婆さんも一緒にな。」
やった!始まった!これで作業が進むぞ!
そう心で喜んでおじいさんの次の言葉を待った。
おじいさんは紅茶の缶を手に取って(まあ実際には僕にしか見えてないんだけど) その香りを深く吸い込んでぽつりぽつりと話し出した。
「 ずいぶん昔の若い時の話じゃがな、その頃わしは仕事に夢中で大きなプロジェクトを任されてイギリスまで行かされていたから、それはそれは仕事に明け暮れる毎日じゃった。
日本で夫婦になってすぐの頃だったが、ばあさんは文句も言わずついて来てくれた。
慣れない土地、まして外国、言葉も風習も食べ物も何もかも違う国だろう、そりゃ苦労させてしまった。
わしだけが頼りだからずいぶん寂しい思いをさせたと思う。」
「そうなんですね。昔の女の人は、耐えることが当たり前だったのではないんですか?今なら即離婚とかになりますけどね。」
「……そうじゃろうな〜。悪いことをしたと今でも思っとるよ。ただ昔は女は夫に従い文句も言わないのが当たり前のことだったから
わしも全く気にもしてなかった。
それがなぁ〜間違っていたこと、彼女に寂しい思いをさせていたとわかったのがそのバスケットの紅茶なんじゃよ。
ばあさんは、今ではああなったが昔は本当に器量良しで愛嬌もある可愛い人じゃった。
いつも笑顔でなぁ、わしが疲れて帰ってきても彼女の笑顔でいつも癒されていた。
まあ、甘えていたんだな。そんな彼女の笑顔に。
それがある時、台所で婆さんが泣いてるのを見てなぁ、わしはびっくりして、そんな姿今まで見たことが無かったからなあ、思わず声をかけてしまったんじゃ。
涙の訳を知りたくてなあ、もしかしたらこの生活に苦労して嫌になってるんじゃないかと思って。」
「へー、そんな姿見たらびっくりしますよね。大体が無理矢理連れてこられてる、あ、失礼しました!」思わず口を手で塞いでしまった。
「いや、いいんじゃ。本当のことだからな。それでわしは、彼女に近づいてその訳を聞こうと彼女の肩を抱いてこっちを振り向かせようとしたんじゃ。
その時に、この紅茶を握りしめているのがわかってなぁ。」
僕は紅茶とおばあさんの涙の訳がいったいどんなふうに関係してるのか全くわからなくて、早くその訳を知りたくて、紅茶の缶かんを握ってしまった。
その瞬間、ぐわ〜んと視界が歪んで頭が割れるように痛くなって思わず目をつぶってしゃがみ込んでしまった。
多分一瞬のことだったと思うが僕には長くうずくまっていたように感じた。頭の痛いのが少しずつ和らいできたから目を開けると、そこには2人の男女がいた。
見慣れない台所、いやキッチン。
日本のそれじゃないとすぐにわかった。
ええ〜!!
じゃあ、あの2人は、、、。
おじいさんとおばあさん⁈
イギリスにいた時の2人なの?
ええ〜!!
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