食パンたちの煩悩
「よっしゃ、やっとここを出られるぞー!!」
僕、パン也は思わず叫んだ。
僕たちは5人で1袋の、食パン5枚切り。
同じオーブンで焼き上げられ、同じ袋に包まれた。
――そして今日、とある女の子に買われた。
「ねぇねぇ、おいら達、どうやって食べられるのかなぁ」
ハムとチーズがいいなぁとにこにこの、パン介。
「そうねぇ、何が一番幸せかしら」
パン奈は頭を悩ませているようだ。
「私はやっぱり、たっぷりのバターを乗せられたいわ!
あぁっでも真っ赤ないちごジャムを見に纏うのも捨てがたい!」
将来の夢は王道ヒロイン、パン美が熱烈に話す。
その熱を冷ますように、芸がないなぁ、とパン太が話し始めた。
「ラピュタパンが至高だろう!
有名と云うのはそれだけ皆に愛されている証拠ではないか!」
キッとパン美が睨みつける。
「あんたが言ってるのはあれでしょ?
マヨネーズでパンのふちに土手を作って
真ん中に生卵を乗せてトーストするやつでしょ?」
「そ、それの何が問題だって云うんだ!」
パン太は狼狽えながらも、身を引く様子はない。
「あれ、食べるの大変なんだから!」
パン美が言うに、卵に合わせて焼くとトーストが焦げる。
トーストに合わせると卵が半熟になって、
かぶりつくと黄身がドロドロと流れてきてしまうため、
ナイフとフォークで食べないといけなくなるらしい。
「洗い物が増える面倒臭さ、あんたにはわかんないでしょうね」
「なんだと!私だって洗い物くらいしたことはあるぞ!」
「まぁまぁ2人とも、落ち着きなさいって」
パン奈が間にはいって2人を止める。
「パン太なんか置いておくとして、パン奈ちゃんは何になりたいの?」
「そうねぇ、大好きなカスタードを塗られて、
スライスした煮林檎を乗せられたいかしら」
「素敵なアレンジ!パン奈ちゃんらしい、センスの良いチョイスね」
パン美はパン奈を一目置いている。
と言うのも、僕らが5枚にカットされたとき、
パン奈がしゃんとした姿勢で出来上がったのが胸に響いたらしい。
……女の子の感性は難しい。
「あ!女の子が来たわよ!早速食べられるみたい!」
今は午後3時。時間を見るに、おやつだろう。
女の子は僕たちに話しかける。
「ねぇ君、どんな風に食べたらいいと思う?」
え?僕?
「ほら、パン也くん。」
パン奈がこっそり、背中を押してくれる。
「えっとね――」
◇
えっと……
「まず、食パンはフォークで数ヶ所を刺し、4等分に切ります」
ぷす、ぷす。
4等分、真四角でいっか。
「続いて、牛乳100ml、砂糖を小さじ2、卵一つを耐熱ボウルに入れ、混ぜ合わせる」
砂糖もそうだし、塩とかコンソメとか、顆粒っていうの?
すりきりって結構難しくない?
いっつも大体になっちゃう。
これだからお菓子作り苦手なのよね。
「混ぜた卵液に食パンを浸し、ラップをかけずに、500Wの電子レンジで30秒程加熱する。」
電子レンジでできちゃうのってやっぱり楽。
「一度取り出して食パンを裏返し、再度ラップをかけずに500Wの電子レンジで30秒程加熱する」
ふむふむ。裏返すことできっと両面に染み渡るのね。
噛んでじゅわっと染み出すフレンチトースト……
いけないいけない、食べる前からよだれが出そうだったわ。
「中火で熱したフライパンに10gの有塩バターを溶かし、食パンを入れて焼きます。焼き色が付いたら裏返して、もう10gの有塩バターを加えて焼き、両面に焼き色が付いたら火から下ろします。」
あら、フライパン使うのね。でもそりゃそっか。
焼き色ついてないフレンチトーストはフレンチトーストじゃない。
「お皿に盛り付けたら、粉砂糖をかけ、最後にメープルシロップを絡めて完成!」
真っ白な丸いお皿の上に、黄色いフレンチトーストが映える。
あーん、ミントでもあればもっと映えたのに!
まぁ、お家でミントなんか使ったことないのだけれど。
「食パンくん、今のご気分はどう?」
「お姉さん、作るの上手だね。卵液がひたひた、外はカリッとしててとっても気分がいいよ!」
美味しいはずだから、おやつタイムたのしんで!そう言って、食パンくんは静かになった。
うん、よし。
「いただきまーす!」
今日のおやつは、甘い甘い、フレンチトースト。
(あとがき)
なんか頭の中で食パン達が話し出してしまったので供養したかった。
などと供述しており――
△
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