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アニメを起用したミュージックビデオはなぜ流行っているか―ヒップホップとアニメの相関性からー



1.はじめに

昨今、アニメを起用したミュージックビデオが増えている。これはアニメ・ミュージック・ビデオ(AMVと略される)と呼ばれる。それは日本のフィールドだけではなく海外を含めてだ。最近でいうとレトロブームがその一環である。昭和の歌謡曲がTikTokを中心に海外から逆輸入されたように昨年の下半期以降は日本でも流行りだした。おかげで今や自分ら2000年前後生まれ世代がその親の世代で流行った曲をよく知っている。それは親の影響もあるだろうが、その影響が共通認識かのように広まり音楽シーンで流行となった。当時のバブル景気を感じさせるシティファンクの音楽性と、90年代アニメの古き良き画質の悪さは相性が良かった。今や懐古趣味の流行に乗り、敢えて昔の画風のアニメーションを起用したミュージックビデオも出てきている。この他にも、アニメmadと呼ばれた日本のアニメ映像に曲を合成したミュージックビデオは後を絶たない。その存在が日本でも広く認識、流通したのはlofi hiphopの流行とコロナ禍による自粛期間にあるのでは無いかと考えた。本論ではなぜアニメmadがアニメの主題歌だけでなく他ジャンルの音楽とも相性よく流行しているのかを考察するものである。

2.ヒップホップとアニメーション

 まず、ヒップホップとアニメーションについて。このふたつの流行はギャングとオタクという一般的にかけ離れたイメージを持たれることが多いが、なぜ相性良くアニメmadとして成り立つのか。これには意外なことにヒップホップとアニメ自体の性質の類似性と双方のカルチャーの接近がある。

2-1.ヒップホップとインターネット

 そもそもヒップ・ホップとは黒人の創造的なカルチャーの総称である。この様式における音楽が「自由に言う」という意味の「ラップ」である。ラップはメロディーに合わせて歌を歌うそれまでの音楽とは全く違い、激しくせわしいリズムとそれにのせられる「ライム」と呼ばれる韻を踏んだ歌詞が特徴的である。そしてそのライブは極めて政治的な主張を孕む。音楽は声を上げることを許されない、あるいはあげても聞かれることがない社会の中で周辺化された人々にとって重要な表現手段であった。ヒップホップの思想は権力と戦うだけでなく権力の改善を求める。音楽は単に個人的なものではなく、小さき者たちの集合的な声となる。ラップはのライブでは黒人に関わる社会的問題を主題化していた。そして彼らは音楽を通して小さき者たちのアイデンティティーを喚起したのだ。ラップはそれまでの黒人音楽としてのジャズのような空間作りの音楽とはまた別に能動的な音楽の試みによる啓発的な機能を持っている。

 インターネットは異なるアイデアの間に価値の序列をつけることなくさまざまなアイデアを取り巻くコミュニティーを結合した。ネットは能動的であり自動的ではない。民主的であってヒエラルキー的ではないのだ。テクノロジーが過去より自由な未来を作るというビジョンをヒップホップに提供したのがネットである。

 音楽としてのヒップホップの起源とされるのは、クール・ハークというDJがダンスの上手いダンサー達が曲のブレイク(間奏)部分でしか踊らないことに気づき、その部分だけ延長する為、2台のターンテーブルを使いブレイク部分を次々と流す技(後に「ブレイクビーツ」と呼ばれる音楽、いわゆる「ビート」)を披露したことである。それまでの単に(ディスコなどの)レコードを選曲して流すだけの「ディスクジョッキー」だった。

 ラッパーのほとんどは正規の音楽的な訓練を受けておらず、通常の音楽で用いられる楽器を使用しなかった。DJミュージックとはミュージックや楽器を持たない音楽である。その構造は、音楽を一般に分類していた時代、地域、スタイルなどのカテゴリを混在させた。

そしてインターネット時代では、安価なコンピュータとソフトウェアさえあれば音楽は楽器から独立して自由にフローすることが出来た。すなわち期限を持たずに共感幻想というエレクトロニックな圏域に存在することが出来たのだった。これはヒップホップの文化にいる人間の“仲間意識”のようなものにもヒットするものである。デジタルサンプリング装置はポピュラーミュージックの歴史をまた趣味の日やる気を破壊して全て同じ現在形へと変えた。時代や地域から解き放たれたサウンドたちはウェブ上のリンクのように繋がった。シークエンスを変えるだけで全く新しいミックスが手に入るようになったのだった。

また、音楽の継承のための、ある起点となる人物と心酔者との間の相互作用のようなものを必要としないインターネットは権威を受け付けない。メインストリームを持たずインターネットを中心に形成された社会はオルタナティブの必要はなく今や誰もがオルタナティブになれる。

2-2.ヒップホップとアニメーションの関わり

 「anime」という英単語がある。ここきはディズニー映画のようなアニメーションは入らず、日本式のアニメーションを指す言葉である。ヒップホップグラフィティの先駆者の1人である Lee Quinonesは日本のSF怪獣映画、特にゴジラの世界観に触発され、ジャングル大帝やマッハGoGoGoなどのアニメにも影響を受けたと言われている。

 アニメとヒップホップには90年代から歴史があると言われ、1996年2月、『The Boondocks』というコミックストリップがHitlist.comで公開された。このコミックストリップは、作者のアーロン・マクグルーバーがマンガを愛していたことに大きく影響を受けたビジュアルスタイルを持っている。その後、コミックはヒップホップ雑誌「The Source」に連載された。1998年には、漫画家の岡崎隆司氏が、ヒップホップとソウルミュージックへの愛に触発されて、漫画「アフロサムライ」を制作した。ラップの歌詞にアニメが登場するようになったのは、2000年代初頭のことである。日本のアニメとヒップホップ・ラップの接続というと、古くは1991年放送『おばけのホーリー』のOP「約束するよ」(相原勇)、1997年放送『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』のOP「WAR WAR! STOP IT」(下町兄弟)、1998年放送『発明BOYカニパン』のED「O・K!」(XL)などが挙げられる。特に「WAR WAR! STOP IT」は、ラッパー・ACEがその影響を公言しており、現在ヒップホップシーンで活躍するアーティストにも衝撃を与えた。

渡辺信一郎監督によるTVアニメ『カウボーイビバップ』では第13回のEDテーマとして、SHAKKAZOMBIEの「空を取り戻した日」が使用された。2004年放送の『サムライチャンプルー』ではビートメーカーのNujabesが起用された。このことはアニメとヒップホップの接続に大いに貢献した。

アニメはヒップホップとの関係だけでなく、もっと深い関係がある。それは、ブラック・ユースとの大きな関係である。多くの黒人の子供たちにとって、アニメは現実からの逃避であり、ほとんどのアニメの物語は追放されたヒーローの物語であった。2002年よりアニメシリーズが開始された『NARUTO』こそ2010年代以降のアメリカラップシーンひいてはアメリカ文化圏において最も人気のあるアニメの一つである。同国では一般的に特に非白人の間でアニメ人気が高いが、とりわけ注目されるのはアフリカン・アメリカン・コミュニティにおける熱狂だ。孤児として孤独を抱える落ちこぼれ忍者の主人公・うずまきナルトが仲間と戦いながら成長していく本作は、米国の一般的な子ども向けコンテンツよりハードだと評される。同志の絆や派閥の対立、手を動かす忍術の仕草などはヒップホップとも縁深いギャング文化との類似性が指摘されている。生前のJuice Wrldが“Naruto”と題した未公開トラックを制作していたり、Lil Uzi Vertは『SASUKE』という楽曲を出している。Megan Thee Stallionの『Girls in the Hood』という楽曲には<彼に私を食べさせる、アニメ観てるあいだにね / 野狐みたいなアソコはサスケを探してる>という歌詞を挿入されている。

またその他にも、『エヴァンゲリオン』『東京喰種』などダークでグロテスクな世界観と共振したのがXXXtentasionなど「soundcloud」(楽曲発信フリープラットフォーム)ラップ、及び「エモラップ」と呼ばれるジャンルである。2000年代にはWu-Tang ClanのRZAが“Must Be Bobby”(2001年)で『ドラゴンボールZ』についてラップし、カニエ・ウェストが“Stronger”(2007年)のミュージックビデオで『AKIRA』をオマージュしている。Wiz Khalifa が Snoop Dogg をフィーチャーして 2016 年に公開した楽曲『No Social Media』は、「ひぐらしのなく頃に」のメインテーマをサンプリングして制作された楽曲である。

3.考察

ヒップホップとアニメーションは、一見全然違う分野に見えて、ヒップホップはアニメーションに深く影響を受けている部分があることがわかった。このことからヒップホップのミュージックビデオにアニメーションが扱われることは半ば必然的であったのではないかと考察できる。DJで「バックスピン」すなわちブレイクの開始部分までターンテーブルを逆回転させると、移行状態であるブレイクの部分に永遠にとどまることができる。また「サンプリング」という、既存(過去)の音源から音(ベース音等)や歌詞の一部分を抜粋し、同じパートをループさせたり継ぎ接ぎするなど曲の構成を再構築することで名目上別の曲を作り出す手法がある。これらの一部分を繰り返したり引用したりするDJの手法を鑑みても、アニメのMADで使われるような、あるアニメの一部分を繰り返し流したり複数の部分を引用して繋げたりすることと相性が良いと考えられる。このため、アニメmadはアニメの主題歌に限らずヒップホップひいてはRemixされた音楽とも相性が良いと考察できる。

今回論から外したナードミュージックと呼ばれるオタクの音楽の他分野については次回また考察していきたい。



参考文献


ジョン・リーランド著,篠儀直子・松井領明 訳『ヒップ─アメリカにおけるかっこよさの系譜学』P‐Vine BOOKs、2010年7月7日


森正人『大衆音楽史』中公新書、2008年8月25日


i-D vice『ヒップホップとアニメの両思い』https://i-d.vice.com/jp/article/d3wxxm/from-kanye-to-frank-why-hip-hop-loves-anime


CINRA『アニメと共振するテン年代のUSラッパーたち。響き合う作品世界』https://www.cinra.net/article/column-202106-animerap_gtmnmcl


XXXmagazine『アニメとヒップホップ – 自身を主人公に投影するラッパーたち』

https://xxsmag.com/?p=5111


KAI-YOU『『オッドタクシー』に見る、ならず者のカウンター アニメとHIP HOPの接続史

https://kai-you.net/article/80459


Vevelarge『【HipHop】ヒップホップとは。起源と歴史を辿る【徹底解説】』https://vevelarge.com/hiphop-history/#i-10




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