ボチボチ屋 ミッチさんの話
ミッチさんは93歳です。一人で暮らしています。
ミッチさんの頭の中は整然としており、物忘れもありません。大きいカレンダーを目の前にはり、何か大切なことがあるとすぐに書き込む、といった工夫をできる能力もあります。
ミッチさんの家の中は、カラフルです。アラビアの市場のようにいろいろなものが積みあがっています。しかし、散らかっているのではありません。アラビアの商人のように、すべてのものについて、完全に把握しているのです。 そのひとつひとつに思い出があります。ここはミッチさんの人生の博物館なのです。
ある時、ミッチさんの博物館の収蔵品を減らそうという動きがおこりました。それは、ミッチさんがトイレから出ようとした時、扉のわきにつんであった箱がずれて、扉があかなくなる、という事件がおこったためでした。娘は、かんかんになって、ものを捨てようとしました。
ミッチさんはだまって、娘のどなる声をきいたあと、静かに
私のものをどうするかは私がきめる。と宣言したのです。娘からはその後3か月連絡がとだえましたが、ミッチさんはまっすぐ前を向き、私のものは私がきめる。と繰り返しいうのでした。
できたら、ここで死にたい。そう願っているミッチさんです。町内の動向も100パーセント把握しています。
しかし、最も大切なことは、ミッチさんが生きることをあきらめていないことです。ここで死ぬ、と決めていますが、一方では、薬をのんで、手足をうごかして、栄養をとって、寿命のあるうちはあきらめず生きていく、とも決めているのです。