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『ブルーベルベット 4K リマスター版』(新宿シネマカリテにて)
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急いでクローゼットへ駆け込むお茶目なカイル・マクラクラン
『ブルーベルベット』の印象的なシーンと言えば、カイル・マクラクラン演じるジェフリーがクローゼットの暗闇からその住人であるドロシー(イゼベラ・ロッセリーニ)の悲哀に満ちた生活の瞬間を覗き見するシーンではないだろうか。
それはまるで青々とした芝生の根に潜む昆虫のように、甘美な「ブルーベルベット」の歌声の裏側を暴く。そこでは思わず目を背けたくなるような不気味な性行為が行われるが、目を逸らさずにはいられない。
思えばデヴィッド・リンチ作品には、そんないかがわしさが常にどこか漂っている。「イレイザーヘッド」然り、「ロスト・ハイウェイ」然り、「マルホランド・ドライブ」然り。どれも親に隠れてこっそり観た記憶がある。そして世界中で大ブームとなった「ツイン・ピークス」にももちろんそのいかがわしさは存在する(何せ登場人物のほとんどが不倫中)。
官能的で不道徳。しかしそんな作品たちを愛さずにいられないのは、そのどれもが”チャーミング”だからだ。次のカットにはどんな球が飛んでくるだろう。想像もできないストーリー展開やVFXの使い方、クラシックでありながら時折挿入される刺激的なショットの数々。リンチはまるでおもちゃ箱をひっくり返して自由に遊びながら映画を作っているようだ。
『ブルーベルベット』で描かれたテーマはやがて『ツイン・ピークス』で華開くことになる。それから25年後に作られた『ツイン・ピークス:リミテッド・イベント・シリーズ』はリンチ・ユニバースの集大成とも言える作品になった。
映画史に忽然と輝く唯一無二のアーティスト。
一度観たら誰がその作品を忘れることが出来るだろうか。