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スマブラの「アピール」って要る?【現役高校教員のエッセイ】
高校生に向けたエッセイです。実際に教室に掲示しています。
アピールという言葉を聞いてどのような場面を連想するだろうか。
僕は、大乱闘スマッシュブラザーズというゲームの、ある場面が思い浮かぶ。
スマッシュブラザーズとは、僕が小中学生の頃、大流行した任天堂のゲームであり、好きなキャラを選択してバトルを行う対戦型アクションゲームだ。
ボタンと方向キーの組み合わせで様々な攻撃ができ、大変面白い。
あるボタンを押すとファイヤボール、あるボタンを押すとスピンキック、そして、あるボタンを押すと、「アピール」と呼ばれる動きをする。
この「アピール」は攻撃ではなく、キャラクターがカッコいいポーズを取ったり、可愛く踊ったりする動作のことで、このアピール中は攻撃も防御もできない完全無防備な状態となる。
ゲーム中にこのアピールを行うことは、
すなわち「アピールするほど余裕で~す。」
と相手を挑発することを意味する。
この場面が思い浮かび、勝手にムカムカする。
この「アピール」はしても、しなくても、基本的に同じである。
アピールしたから強くなるわけでもなく、大した変化はない。
ただ相手をイラつかせるだけだ。
つまり、アピールとは、大して必要なものでもなく、しなければ、しないで済む程度のものなのだ。
高校生の頃の思い出もよみがえる。
テストが返却されるときは、決まってみんな騒いでいた。
その中で、ある女の子が
「やばい、私絶対赤点だよ、どうしよう!テスト返ってこないで~。」
と騒いでいた。
そして、テストが返却されると「はぁ、よかった~!赤点じゃなかった!」と満面の笑み。
そりゃよかったねぇと思いながら、ふっとその点数を覗き見ると、
80という数字が。
ん?はて?「絶対赤点」とは一体…?見積もり甘すぎやしませんか。
そんな高得点なのに、何を騒いで……
あ、そうか。これはアピールだ。
これは、しないで済む程度の言動なのだ。
彼女は、完全無防備になっても勝つ自信がある、
そんな余裕を見せつけていただけなのだ。
彼女の一連の騒ぎっぷりは、本当に赤点を取ってしまった人にとって、ただムカつくものでしかなかっただろう。
ちなみに、僕は21点。
さらに、僕のクラスには、ミスセブンティーン(雑誌「セブンティーン」が主催するコンテストの優勝者)に選ばれた本物の女子高生モデルがいた。
雑誌の表紙を飾ることもあり、絵に描いたようなスター女子高生だった。
身長は確か170。僕より高かった。
体重はさすがに分からないが、細くしなやかだった。
ほぼリカちゃん人形だ。
体育祭の日の昼休憩中、ハーフパンツ姿の彼女が教室で日焼け止めを脚に塗りながらこう言った。
「私、本当は脚出したくないんだよね、豚みたいだから~。」
すかさず、周りの女子が「そんなことないよ~。」と笑顔で言った。
これは、アピールだ。
しないで済む程度の言動だ。
彼女からは勝つ自信と余裕しか感じられなかった。
そして、僕は見逃さなかった。
僕の隣の席だった女の子(バスケ部)が右手で持った箸をピタッと止めたのを。
左手で、日々鍛えに鍛えた自分の太ももをさするのを。
この女の子とは仲良くなれそうな気がした。
大人になってからのことも思い出す。おもむろに数種類の薬を机の上に出して、1錠ずつ飲んでいる友人に、「大丈夫?体調悪い?」と聞くと、
「大丈夫だよ!気にしないで。」
と言われた。
これは、アピールだ。
だったら、人目のつかないところで飲みなよ。
また、
「彼女から貰ったプレゼントが気に食わない。」
と言いながらキラめく時計をみんなに見せる友人は、どこか嬉しそうな表情に見えた。
これもアピールだ。
だったら、もっと嫌そうな顔しなよ。
もしかしたら、自分が気づいていないだけで僕もアピールをしてしまっているのかもしれない。
ボタンがないだけに、自覚することは難しい…
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。