当たり前に死ぬし、一緒にいる 映画「化け猫あんずちゃん」
これまた良いものを観たな〜〜!!
アニメ映画および夏映画の新たなマスターピース、誠実なゆるさに満ちた名作、これこそちゃんと広く観られますように
良いポイントはたくさんあるんだけど、まずはロトスコープの技法を用いた独特なアニメーションそのものについて
実写をそのままトレースするのではなく、キャラクターの姿へデフォルメした上での描画なので、一般的なロトスコープのいわゆる「実写よりむしろ生っぽい」みたいな質感とはまた少し違う、独特な奥行きがあって楽しかった
それでも骨組みには実写映像、しかも山下敦弘が監督した豊かな世界が広がっているので!
単なる手描きアニメの気持ち良さとは別物、光の表現が強めだったことも含めて少し夢っぽい不思議なリアリティがある
だからこそと言うべきか、声や音はたぶんアフレコせず実写のものをそのまま使ってるみたいなので、なんというか遠近感が掴みづらくて慣れるのに数分かかってしまったのはあるかな〜
慣れてからは何の違和感もなく、この作品独自のアニメーション表現に浸ることはできたけれども
そういった目と耳の楽しさに限らず、とにかく空気感とテンポの心地よさ、これは山下敦弘仕事であることをどうしたって意識してしまう見事さだった…ストーリー的にちょっとした場面ほど笑えるし泣ける
あんずちゃんがバイクで登場するシーンなんて笑い止まらなかったし、自転車盗まれるところに至ってはもうある種の究極、説明をしないユーモアってこういうことだ
とにかく一挙手一投足すべてがキュートすぎるあんずちゃんに始まり、他キャラクターもみんな無理のない範囲で個性が際立っていて魅力的だった
中でも主人公かりん、置かれた境遇を特別悲劇的に描かないところがまた好きだったりしたわけだけど
身につけざるを得なかった処世術、分厚い心の壁とその変化・成長を淡々と描いていく優しさがとても印象的だった、原作もそんな感じなんだろうか
口をついて出てしまう「死ね」という悪態すら、作中の倫理観において矯正するようなことはしてないのが良いよね〜、もちろん悪い言葉選びではあるんだろうけど作品の中で表面的なジャッジはしてない
サラッと過ぎていく出会いや別れを通じてこの作品で描かれる成長は、かりんがいわゆる「良い子」になることではなく、
例えば自分に対して素直になることや、(生死を問わず)他者と一緒に生きていると気づくこと、そういった意味での自立なんだよね恐らく
妖怪が当然のように生活している世界設定だったり、死者の世界へ行くのにも何か特別な儀式があるわけではなかったりと、とにかく境界線のあり方が軽やかで
これって突き詰めれば他者理解や共存の話でもあり、「親しい人の死をどのように受け入れたらいいのか」という問いへのひたすら優しいアンサーでもあったと思う
そして最後には自分の思いを屈折なく伝えることができたかりん、クソ親父ながらも娘の決断をまっすぐ受け止め応えてみせる父親、奥の奥で繋がる信頼関係がとても美しかった…
豊かな余韻、こういう映画を観れるんだから夏も悪くないな、と思えるほどの幸福感でした
総じてくだらないギャグ満載で楽しく観れる作りでありながら、骨格には生死や他者についてまっすぐ見つめる力強いストーリーがあり、確かに誰かの救いになり得る、これぞ!!という素晴らしい作品だと思います
それをこんなにもサラッと、説教臭さゼロで描くんだから見事としか言いようがない、好き
原作コミックはちょうど続編も始まったらしいし、この機会にしっかり読んでみようかな
同じ原作者の「ハード・コア」実写版はあんまりハマらなかったので、山下敦弘といえどなかなか好みど真ん中には出会えないもんだ、今回はカラオケ行こ!に続いて最高だった
アニメの方の監督についてもいろいろ観てみたい
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