砂に溺れたことがなくてもたぶん 「水深ゼロメートルから(2024)」
んーーーこれはなんとも掴みどころのない、いやむしろ掴みどころがあり過ぎて響かない作品だと感じてしまった…
切実でまっすぐだからこそキャッチしづらいような、とても大事な話をしているのだけど青さだけが前に出てくるというか
でもだからこそ、受け取れた人にとっては非常に大切な映画になり得るだけの魅力も確かにあると思う
カラオケ行こ!を経てさらに大躍進の山下敦弘、今回はちょっと監督の色を出しづらい作品ではあったのかもな〜
コロナ禍で配信公開された映画版も当時観たのだけど、どうにもそこまで印象に残ってなかった、やっぱり脚本の好みによるところかなとは思ってて
演技力は学生のそれとして考えないにしても、観ている時の気恥ずかしさが勝ってしまうようなバランスではあった
単純にこういった演劇の類を見慣れていないからかな、とは思うけど
しかし今回は山下敦弘が撮るということで!そこら辺の演劇っぽい臭みをリンダリンダリンダ的な土臭い鮮やかさに変えてくれるのを期待してた、けど結果としてそこには勝手に期待しない方がいい作品だったな
脱臭できていないと解釈することも、この青臭さが高校演劇の良さだと解釈することもできる、むしろ監督を知らずに観た方がいらぬ期待をせず楽しむことができたのかも
場面ごと・ことあるごとに大声で叫ぶ過剰なドラマチックさ、テーマをそのままセリフで語る野暮ったさ、それらの土台となる演技の拙さも含めて、どうにも気恥ずかしくなってしまう要素はかなり多かった
序盤の「見てない!」が重なるシーンとかは大好きだったけど
あとは全体的な物語内容として、劇中でも数時間しか経過していないというのに、あれこれ出来事が起こり過ぎてるように感じてしまって
山下敦弘作品の魅力って何も起こらない中にこそあると思っている部分があるので、ここは勝手に期待したのが悪いのだけど、それを差し引いてもやっぱりエモーショナルな盛り上げありきのストーリーという感じがしてしまったな
これは久しぶりにリンダリンダリンダを観たのがかえって良くなかったかも、そもそも目指すところが違う作品だった
それから劇場でじっくり集中して観たからこその弊害とも言えるのは時々入るアフレコの違和感、目で見える光景が自然そのものだから余計に耳をとられてしまった
でもまぁ実際の高校時代を考えてみると、案外そういう演技臭さと少なからず切り離せない部分が現実にもあるような気もしないではないかも
性のあり方を含めて自分自身のアイデンティティが定まりきってない中で、キャラクターを演じるように振る舞いながらコミュニケーションをぶつけるのも正しい若さ、と思えばこれもひとつの表現なのかな〜
そう思うと、短時間のうちに出来事が起こり過ぎてる!と感じてしまう件も、高校生からすれば日々はそのくらいの速度で駆け抜けるドラマチックなものである、という見方はできるのか
まぁそれはそれとして、切実な問題提起として考えさせられる物語であることは間違いないし、そこに共感したり納得したりできるかどうかは個人の立場によるところも大きいと思う
初見の印象としては、どうにも作り物感が強いストーリーの中で成長していく登場人物たちを見ていても、やっぱり問題提起が都合よく自己完結してるように感じてしまう…これはなかなか困った
舞台立てやキャラ設定、比喩としての砂が示すものだったりで言いたいこと・伝えたいことはビシビシ伝わってくるのに!物語のエモーションと連動していかないというか、んーこれはもどかしかったな
その上で物語に優しく寄り添う主題歌は素敵だった、君がこれから風を待ったりしなくてすむように
あとは撮り方として、登場人物の顔をいちいち大写しするよりも、風景の中にいる人物として広く捉えるスタイルなのが好きだった
セミの鳴き声や日差しの強さ、夏の空気感あたりの美しさと切なさはもちろんだけど
人は個人として存在するのではなく、社会や環境の中に存在するしかないんだよなと実感させられるという意味でも、爽やかでずっしりとした風情と凄みがあった
先生の葛藤にまで目を向ける優しい物語でもあるし、これは私が個人的にハマらなかったことなどは関係なく、ちゃんと届くべき人へ届いてほしいまっすぐな映画だと強く思う、きっと救われる人がたくさんいる
しかしこれ、高校演劇原作という点では「アルプススタンドのはしの方」がどれだけうまく映画化してたか、ひるがえって感心する機会にもなったな
あっちは試合が進行することで物語も前進していくので、主人公たちの変化が違和感なく入ってくるというのも大きいと思う
今回は例えば「踊るのか?」という縦軸はひとつ通ってたけど、他にはそこまで強い推進力はないように感じられてしまって
ただこれ終わってみると「血だ!」と言って見つめてた理由は後で分かるようになってたりするし、もう一度観れば物語全体に込められた丁寧な工夫に気づくことができるのかも
シリアスな口論で背中だけをじっと見せるところなんてすごく良かったし
という感じで、個人的には物語それ自体をまっすぐ楽しむことはできなかったけど、ところどころに垣間見える誠実な輝きを少しでも受け取ることはできたように思う
そしてラストカットの切れ味、あれは本当に鳥肌立ったな、、、ああいう他のメディアでは表現しようのない奇跡みたいな一瞬がある映画というだけでもう、本当に素晴らしい
あれをスクリーンで観ることができたというだけで大収穫ではあったかも、今度は勝手な期待を排除して改めて鑑賞してみたい
きっと脚本の中田夢花は今後ますます豊かな作品を作っていってくれると思うし、何より山下敦弘作品のさらなる広がりにも期待してる!!次は告白コンフェッション、どうかなこっちは
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?