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思い出に変わるとき、思い出と踊るとき 映画「ロボット・ドリームズ」


#ネタバレ


これ以上ないくらいの大傑作に出会えた、という大きな大きな大きな喜びと!!!!!もう観る前には戻れないもどかしさと痛みで胸がいっぱいです、いっっっっっっっぱいです


セリフがないのもあって余計に、観た人それぞれの受け止め方ができる作品になっていると思う

出会いと別れ、喜びと悲しみ、その間に存在する様々な痛みと温かさが全て一度に去来するハッピーサッドの到達点だと断言できる、ちょっとさすがにとんでもない映画だった、良すぎる、助けてください


正直ラストシーンがどんな風だったか細かく思い出すことができない、終盤とにかく涙があふれて止まらなかったし
鑑賞後も劇場のベンチからしばらく立ち上がることができなかった、これを書いている今もまだ胸に刺さった暖かいトゲが抜けない

感情ごちゃまぜで打ちひしがれるのと同時に、生きていくことそれ自体の本来的な豊かさを確かな奥行きで精緻に描き切る、堂々たる大傑作に出会えたことへの喜びはかなりのものです





そもそもタイトルからね!!!「ロボット・ドリームズ」という、日本語としても馴染みのある単語で構成されたタイトルがこんな意味だったとは、すっかり意表を突かれてしまった
夢を見るというのがそっちの意味だったとは…


予想を超える出会いも別れも再会も、一生忘れることのないキラキラした時間も、ふとしたきっかけで身動き取れなくなることも、ドッグとロボットが過ごす時間のひとつひとつは我々観客の人生そのものと重なるものであって

思い通りになることなんてない、どうにもままならない暮らしをこんなにも優しく美しく描いてくれている、それだけでもう何にも代えがたい輝きにあふれている作品なわけだけど



少しでも鮮明にこの体験を記録しておくために、言葉で説明できる分はなるべく書き留めておこうと思います、一生かかっても語り尽くせないかもな






まず鑑賞前から感じてたこととして、原色をあんまり使わない淡めの色合いがやっぱり素敵だったな〜!
無駄のない線とポップな街並み、いかにも海外のアニメっぽい安心感あるタッチも相まって、最初から最後まで違和感なく味わうことができた

色味に合わせるように、流れる音楽が丸みの強い雰囲気でまとめられてるのも印象的だった
ネタ的にパンクバンドが出てきたりもするけど耳をつんざくようなそれではない、角を落とした絵本のような質感が作中のあらゆる部分から感じ取れるのも好きなところ



出てくる動物の種類も多様で、見た目の特徴も様々、そしてどの属性も互いに攻撃し合ったりしていない(ように見えた、少なくとも初見では)というあたりはとても現代的であり、希望を込めて普遍的とも呼びたくなる世界設定でした

誰が観てもどこかに感情移入できる作りを目指したんだろうな、たぶん観るたびに発見がある要素の一つだと思う


それでいて、ビーチでのドッグの着替えシーンとか本当にくだらないディティールもしっかり盛り込むあたり抜かりないし、研ぎ澄まさないゆるやかなユーモアがこれまた心地良い







「テレビCMで見たロボットを購入して友達になる」というベタなSF展開で話を始めてこそいるけれども
主人公の1人であるドッグはさほど俗っぽい様子がなく、ちゃんと自分の好きなカルチャーもあるという実在感がこれまた素敵で

背伸びしないおしゃれ、のびのびとしたアクティブさ、などの軽やかな魅力をドッグはたびたび披露してくれていたので、話が進むごとにドッグのことを好きになっていくから余計しんどい

仕事してる描写だったりが特になくて、収入はどうしてるんだろう?とは思うけど、この作品はあくまでも関係性の話なのでまぁ語らずで大丈夫ということなんだろう


一方のロボットも至ってシンプルな性格設定、善性そのものであるがゆえに、経験するひとつひとつがやっぱり胸に突き刺さる




先の展開が予想できてしまうような場面を多く用意しつつ、「これは夢でした」で徹底的にひっくり返すことで、最後の最後に何が起きても不思議じゃない緊張感を持たせることに成功しているというのもある

夢の中では本気で信じてるというバランスにすることで、夢から覚める時の悲しさも際立つもんね、夢から覚める時の悲しさも、際立つもんね、、、、、



動けなくなったロボットに行政を含めて誰も手を差し伸べない状況は、現実世界における不寛容そのものでもあり、ドッグの個人的な思いも重なって非常に辛い展開だったな…

ロボットの見る夢が楽しげであればあるほど現実との落差がしんどい、なおかつロボットがそんなに悲しい表情を見せないのも残酷




そういったロボット側の境遇を含めて、お互い離れている間にいろいろある、出会いもあるし変化もする
アトロク文脈で言うところの「疎遠になった友達=元トモ」映画であり、それを単なる距離感の話ではなく文字通り命がけの物語としてドラマチックに、それでいて爽やかに描く

「海開き!」のメモ書きが徐々に他のチラシやメモで埋もれていく様子も、決して薄情さの表現ではない形で切なく描かれてた





ドッグとロボットの関係は明確に恋愛として見ることもできるけど、それに限らずあらゆる出会い・別れ・変化を象徴しているように思えたし、そのつもりで作ってるんだろうと感じる

ドッグが親しくなるアヒルは出会い方も含めて魅力的に描かれてた、価値観の違いが見えるまでの流れも非常にスマート
ただ、目のわずかな動きひとつで多くのことを語るこの作品において、サングラスを外していない時点で心の距離も推して知るべしという感じだったので、展開には特に驚きはなかったな

そしてロボットと出会う小鳥もね〜〜素晴らしかった
ロボットの献身的な態度、羽ばたき方を口の形で教えてあげるというアイデア、そしてこれまたずっと一緒にはいられないんだろうなという切ない予感も始めから漂いつつ

思えばロボットは最初から、言葉ではなくジェスチャーや表情でコミュニケーションをとるキャラクターで、相手の振る舞いを見ながら手を振ったり中指を立てたりしていて
「犬と機械」という組み合わせからも、コミュニケーションの可能性・私たちは分かり合えるし繋がっていけるという願いそのものを込められた映画であるように感じられる


それで言うと例えばドッグが使っていたあの潤滑油は、例えば『次のパートナーとはもっとうまく関係を構築していけるように』という意味で見れば、コミュニケーションの比喩としての潤滑油と取ることもできるだろうしね



そしてやはり最後ね、あまりにも悲しく美しい最後の行動

健気というか何というか、、、ポジティブに言えば過去との決別であり、悲しく捉えれば『夢が思い出に変わる瞬間』とでも呼べるような、どれだけ言葉を尽くしても表現しきれない輝きに満ちあふれたラストだった


Septemberが過去を振り返る歌であることを踏まえれば、最初にこの曲が流れた時点でほんのりと悲しい予感は漂っているわけで

ロボットが夢の中で繰り返し口ずさむことが、最後の展開をよりいっそう輝かせるための布石にもなってる、そしてその狙いが成功しすぎてる、、、


我々観客が、というか少なくとも私がこの先永遠にこの曲とこの映画をセットで思い出すであろうことと同じく
作中のロボットとドッグもまたこの曲に人生のささやかな輝きを重ねて、これからを生きていくんだろうなと思うともうたまんない、助けてください


そういえばカセットテープがラスカルとロボットそれぞれのぶん用意されてるのも良いよね、ちゃんと互いに共有し合ってそうしたんだろうなと安心できる




ストーリー展開においては例えばよく似た構図である「ラ・ラ・ランド」、あちらが若者の恋愛という部分を強く押し出していたのに対して
今回こちらはやっぱり恋愛に限らず人生そのもの、ミクロかつマクロな視点でより大人な内容にもなっていたと思う
それでいて、私が観た回だと小学生くらいの子どもが「面白かった!」って満足そうだったりもしたからね、とにかく全方位的に輝いてる



あとはオズの魔法使いをちゃんと観たことがないので、観てみると何かまた発見があるのかもしれないな〜
それに限らず引用元やオマージュもきっとたくさんあるんだろう、そういう部分を紐解いていく楽しみ方も十分できそう






いやはやどうにもあらゆる角度から胸を締めつけられるので、自分の中にあるどの引き出しがどう開いてるのか自分でも分からないくらいのかき乱され具合です


例えば髭(HiGE)の『夢でさよなら』という曲が好きで、「さよなら僕のフューチャー」「言葉にできればまだマシさ」「夢が覚めない」「忘れていくね」などなどの歌詞がぴったり思い出されたりもして

それで言えばこの映画は明確に夢から覚める時の話だよね、、、その寂しさと尊さがくっきりと刻まれているし、単に悲しいだけの話では決してないのも大きな魅力


あとは子どもの頃に「泣いた赤鬼」を読んで心がぐちゃぐちゃになった時のそれ、とも少し似てたし少し違った





とにかく全てはラストに詰まっていると言って過言ではないと思う、あんなラストにしちゃうなんてちょっと、ねぇ、原作はどんな感じで描写されてるんだろうか

いやーーー本当にもう…楽しく踊りながらも身を隠すことにしたロボットの、優しく悲しいそのダンスを私たちは!!!ちゃんと知ってるからね!!!!!と声をかけたくて仕方がない


そしてそういった作中のあれこれが、観客の生きるこれまでとこれからの現実をそっと照らしてくれる、そういう時が必ずあると思える


眠れないほどの不安であったり、急に訪れる変化の兆しであったり、元には戻らないあれこれであったり、そのどれも何ひとつ間違っていないんだよと

生きる価値なんてわざわざ考えなくても、過去現在未来すべてがすでに価値そのものなんだよね!!とそんなことまでも、軽快な80's POPに乗せて体を揺らしながら考えさせてくれる、映画ってここまでのことができてしまうんだ、、、




まだまだ気持ちが収まらないですがとりあえずここまでにしておきます
観るたびに違うものに見えるかもしれないし、次は何を何にどう重ねてしまうのか自分でも分からないけど

この作品はきっといつでも誰にでもまっすぐ応えてくれるんじゃないかなと思いました!!!心から丸ごと大好きな作品です

(追記 : TBSラジオ・アフター6ジャンクション2の映画評コーナーでメールを採用していただきました!嬉しかった)

#映画 #ロボットドリームズ #感想 #映画感想文

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