焼き芋と蒸し芋の干し芋を作ってみた話
あけましておめでとうございます。亀之園です。
2025年がスタートしましたね。皆さんはどのようにお正月を過ごしたでしょうか。私は寝て起きて外を散歩してご飯を食べていたら終わってしまいました。1月は行く、2月は逃げる……とはよく言ったものです。
さて、本日は1月10日。昨年2024年に茨城県が制定した干し芋の日です。漢字の一と十を合わせると「干」になることや干し芋生産の最盛期であることなどから本日が選ばれております。
そうだ、干し芋を作ろう。
時は1月7日の夜。時刻が回って1月8日になった頃でしょうか。一人暮らしの部屋の中で七草粥も食べ終えてそろそろ寝ないとなあなんて思いながらゆったりしていました。今年ももう一週間経ったのか、とか思いながらカレンダーを見て、あーそういえば1月10日は干し芋の日だなあとか考えながら、ふと思いました。
「今から干し芋を作れば、ギリギリ1月10日に間に合うんじゃね?」
干し芋を作るというのはさつまいもを愛する人間全員の夢です。焼き芋やふかし芋は家でも割と簡単に作れますが(それでも時間はかかるけど)、干し芋となるとそうはいきません。最低でも二日はかかります。仕込みだけで2時間はかかります。売っているものはもっと手間暇がかかっています。だから干し芋は高いんですね。
でも、干し芋の日に干し芋を作って食べたい。俄かにそんな気持ちが湧き上がってきました。試験期間特有のなんちゃらってやつです。そうして気がついたら芋を洗い、炊飯器をセットしていました。
そして今現在、1月10日の19時33分。干し芋を作り終えて、「あ、せっかくだからnoteにしとこ」と思い立って唐突にnoteに文字起こしをしているわけです。期末試験もレポートもやばければさつまいも博の展示も完成していないのに、こうやって人間は現実を逃避していくのですね。まあいいや。どうせアンソロジーにも同じ内容載っけるつもりだし。果たして僕は干し芋の日が終わらぬうちにこの記事を出せるのでしょうか。
干し芋は昨年末に一度作りました。誰にも公表はしていませんが、べにはるか、安納紅、コガネセンガン、ほしこがねを干し芋に加工して食べてみるということを自分でしてみたんです。公表しなかったのは、干しすぎたからかパサパサのカチカチであんまり美味しくなかったこととか、網を揺らしてしまって品種がわからなくなったこととか、インフルエンザにかかって文章化する体力がなかったこととかいろんな言い訳理由がありますが、とにかく一度作って失敗しているんです。だから今回はリベンジを兼ねています。
今回はべにはるかと安納紅という2品種に対して、「焼き芋と蒸し芋という二つの方法で加工したものを干したときに違いはあるのか?」ということを主なテーマとして干し芋を作り、そのレポートをしていきたいと思います。
干し芋作りの準備
まず、多くの方はこう思っていらっしゃるでしょう。
「干し芋ってどうやって作るんだろう?」
干し芋はいろんな作り方があります。一番有名なものは「煮切り干し法」です。その名前の通り煮て、切って、干す方法で、1824年に栗林庄蔵によって考案された方法です。僕もそれほどたくさん知っているわけではありませんが、知る限り現在は煮るより蒸す方が一般的な気がします。
まあ要するに、「加熱して干せば干し芋はできる!」ということです。煮るでも蒸すでも茹でるでも焼くでも多分作れる。というか多分作れるという内容を今回実験しようとしております。今回は、炊飯器とオーブントースターを使いました。多分なんでもいいと思います。
問題は干す工程。
ということで近所のダイソーにやってきました。目的はもちろん……
そうです、「連結できる多用途ネット」。ダイソーで200円で購入できます。
値段の割に使いやすいです。それ以外のネットを知らないだろというツッコミはやめてください。こちらの商品は意外と置いている店舗が少ないので、しっかり在庫を調べてから訪れることをお勧めします。
さあ、干し芋を作ろう
ということで無事に連結できる多用途ネットを手に入れたら、作業を開始しましょう。
今回使用したさつまいもは2品種。べにはるかと安納紅です。べにはるかは地元・鹿児島で取れたもので、南橋商事さんから購入したものです。安納紅は東京大学の生態調和農学機構で収穫したものを使っています。8割方の東大生はおそらく縁のないキャンパスですが、我々応用生物学専修の学生は毎週ここでせっせと農場実習を行っているわけです。ちょっと遠いけどめちゃくちゃ楽しいのでこのnoteを読んでいる進振り前の君はぜひ応用生物学専修(来年から農業生物学専修になるらしいですが)に進学しましょう。
まず蒸す方。こいつらを洗って炊飯器にセットします。
設定は玄米モードでじっくりと仕上げていきます。
続いて焼く方。こちらはオーブントースターで焼いていきます。190℃で72分。これはさつまいもアンバサダー協会さんの記事にあった、焼きいもを作る際の温度と時間の方程式で計算しています。僕はせっかちなのでいつも220℃で45分とかで焼きがちなんですが、今回はちゃんと同じくらいの時間で処理したいなと思いこちらにしました。オーブン庫内の写真は撮り忘れたけど、許してください。
80分後。時刻は午前3時を回った頃。ついに加熱が終了します。加熱が終わったら炊飯器とオーブントースターから取り出し、皮を剥いていきます。
熱い。めっちゃ熱い。でも早く剥かないと皮が剥きにくくなるし、そもそも眠い。指先で転がしながら皮を剥いていきます。
剥き終わったら、一旦冷蔵庫で冷やします。熱い状態で作業するとほろほろ崩れてしまうからです。本当は常温で冷やした方がいいのかもしれないけれど、こんな真夜中にそんなことは言ってられないので。
粗熱が取れたら、できるだけ均等な厚さにカットしていきます。この時の気づきとしては、圧倒的にべにはるかの方が切りやすい。べにはるかは切るときに形を保つのに対して、安納紅は切ろうとするとほろほろと崩れてしまうのです。安納紅は丸っこい形が多いこととか、水分含有量が多いとかそういうのが影響しているのかなと思いました。
さつまいもの品種を追っていると、加工用と呼ばれる品種が現れます。干し芋適性だと玉豊とかほしこがねが有名で、最近だとみやあかりとか。「加工適性の高さ」とか言われてもあんまりピンときていないことも多かったけど、実際にこうやっていろんな品種で作るとなんとなくそういうことへの気づきがありますね。人気品種の割に、市場に安納紅の干し芋があんまり出回ってないのはそういう難しさもあるのかなとか勝手に思うなどしました。
最後にネットに入れて干して作業は終わりです。時刻は4:00を回りました。おやすみなさい。
本当は昼間の写真も撮っておくべきなんだけれど、大学生が日中家にいることなんてないので撮る事ができませんでした。
そして1月10日。時刻は18時を回りました。だいたい62時間くらい干したものを回収します。おかえりなさい。
網から出すとこんな感じ。
見た目は綺麗にできています。早速食べてみましょう。
いざ、実食。
取り出す時に薄々気がついていたんですが、キッチンペーパーに芋がぺったりと貼り付いてしまっていました。皆さんは作るときには下にキッチンペーパーを敷くのはやめましょう。頑張って丁寧に剥がそうとしたんですが、これを一つ一つやっててもキリがないなと思って、諦めてキッチンペーパーごとちぎってそのまま食べることにしました。キッチンペーパーって案外食えるものなんだなと思いました。
まずはオーソドックスな蒸し芋のべにはるかから。
うん。美味しい。ちゃんとねっとりとした食感があって、べにはるかっぽい香りも残っています。外の縁が輪っか状に色が変色しているのを見ると、干し芋の生産者が周りを切ってくり抜いて作る理由がわかるなあ、なんてことを思いました。
続いてべにはるかの焼き芋。
これ美味しい。めちゃくちゃ美味しい。そして色が綺麗。
べにはるか自体の香りもすごくあるのですが、焼き芋特有の香ばしさがすごくよく出ている。そして蒸した時より水分が少ないからだと思うんですが、めっちゃ味が濃い。まさに凝縮!って感じです。これは美味しい。でも確かにねっとりはしているものの、蒸したものに比べると少し特に外側が硬いかなという感じがしました。
完全に余談ですが、焼き芋の特有の香り成分はマルトールと呼ばれるもので、これはメイラード反応という反応によって生成される物質です。メイラード反応とは、食べ物の中のアミノ化合物と呼ばれる物質と還元糖と呼ばれる物質が高温によって反応することで褐色の物質が生成する反応の総称です。焼いているものに美しい焦げ目がついたり、香ばしい香りがしたりするのはこの反応の生成物たちのおかげなんですね。メイラード反応は150℃くらいから反応が加速するので、蒸したり茹でたりしてもほとんど起こらない反応なんですね。これが焼き芋特有の香りを生んでいます。最近のマイブームは料理にまつわる化学です。
安納紅の蒸し芋は、安納紅の独特な甘酸っぱさ、フルーティーさが綺麗に出ている味だなと感じました。べにはるかの二つに比べるとかなり水分が抜けていて、全体的にちょっと硬いなと感じました。もちろんねっとりしているものもあったんですが、べにはるかに比べるとムラがあるような気がしました。こちらは蒸し芋でも割と香りがしっかりしていましたね。
安納紅の焼き芋はべにはるか同様にもっと濃い感じの味でしたが、水分はさらに抜けていてもはやゴムみたいな食感。ゴム食べた事ないけど。香りの強さは蒸し芋のほうがむしろ出ていたかも。美味しいは美味しいけど、売ってたら買うかと言われたら正直買わないかもなあと思いました。
まとめと考察。
結論としては、蒸し芋の方が水分が保たれるからか柔らかくてねっとりとしたものが出来上がるのに対し、焼き芋の方は香ばしさと香りの強さ、そして水分が少ないことによって濃厚な味わいを持つものを作ることができる事がわかりました。やっぱり焼き芋は美味しいですね。
品種ごとの違いも述べておくと、べにはるかの方が加工がしやすくそして干し芋に加工した後も水分が適度に保たれており美味しいものができていると感じました。安納紅は水分量が多くて切りにくいと感じたし、実際に水分量が多い品種であることで知られていますが、干し芋にするとべにはるかより硬いと感じるのは不思議だなと思いました。ミクロな構造の違いなのか、それとも皮を剥くときにべにはるかより何かが剥がれやすいとかそういうところに違いがあるのか、それとも他の要因なのか気になりました。それでも安納紅は結構品質にばらつきはあるけれど、味わいが独特だしものによってはちゃんと美味しいのでちゃんと根強いファンがいるんだろうなと思いました。個人的に安納紅の干し芋について超芋まつりの伏線を回収した気がしています。
もちろん、今回はそれぞれ一本ずつしか実験していません。23:00現在、気がついたらなんか作った干し芋はもう手元になくなってしまいましたが、一人で食べられる干し芋の数は結構限りがあるので。(それでもすでに夜ご飯にプラスしてさつまいもを4本分お腹に収めてしまった事実に震えています。)そのため、芋の個体差については考えることができていないという事は考慮するべきポイントだと思っています。また、僕は安納紅はべにはるかより全体的に硬かったと申し上げましたが、どのように日が当たっているのかわからないので、日当たりが均一だったのかどうかなども確認してみる必要があるような気もしました。もしかしたら安納紅の方が日がたくさん当たっていたのかもしれない。同じ個体でほぼ同じ厚さで切っているのに干し芋ごとの差があるのも気になります。どのくらいサツマイモの部位が品質に影響するのかも気になるところです。単純に微妙な条件差な気もするけど。また色に関しても気になますね。他にも気になるところはたくさんあるけれど、この辺りでやめておきます。誰か追加検証求ム。
ということで、干し芋を作ってみた話でした。どうにか干し芋の日が終わる前に出す事ができてよかったです。結構美味しかったです。皆さんもぜひ作ってみてくださいね。それではまた〜。