ワタクシ流☆絵解き館その222 山幸彦の描かれ方―豊玉姫との出会いのあとさき
青木繁が「わだつみのいろこの宮」で描いた山幸彦豊玉姫の神話は、古事記神話の読み物の中でも、様々な場面が挿絵に描かれて来た。過去の記事では、出会いの場面をピックアップして来たが、今回は出会いのあとさきの山幸彦に照点を当てて、どんなふうに描かれて来たのかを見てゆく。
■ 兄、海幸彦とのいさかいの場面
下に並べた絵を見ると、海幸彦は、やや居丈高ないかついイメージで共通している。海幸彦には必ず髭があるが、山幸彦の方は髭がない絵もある。優男のイメージを持つのが山幸彦なのだろう。
下の絵の本、昭和43年小学館発行のこのシリーズは、調べてみると、高畠華宵、蕗谷虹児、初山滋、松本かつぢ、山本忠敬、安野光雅など有名画家たちの絵を添えた豪華版だったのがわかる。
こういう鮮やかな挿絵のある本を幼い頃に見ると胸が弾むだろう。こんな豪華な絵本に恵まれなかった自分の幼少期が、今さらながら残念に思えて来る。
■ 海神の国へと出で行く場面
◎ おまけ 久米宏一は、なつかしい「龍の子太郎」の絵も担当している。
◎ おまけ 尾竹国観の代表作を下に掲げる。国観は、明治13年生まれの日本画家。本格的画風の日本画家でありながら、教科書、雑誌に挿絵を多く描いた。
■ わだつみのいろこの宮に着いてからの場面
以前にも述べたが、山幸彦と豊玉姫の出会の場面の絵で、山幸彦が裸体である絵は、青木繁の「わだつみのいろこの宮」より他見つけられない。裸体にするとやはり神話物語の人物としての違和感が否めない。
青木繁の「わだつみのいろこの宮」が、裸体の山幸彦を設定しながら、破綻せず格調を持っているのは、天才ならではの技量だとあらためて思う。
下の絵の女官の装いは、中国風、大和風、ヒンドゥー文化風が溶け合ったような面白さがある。
下の絵の海神のイメージは、まるで好々爺のようだ。豊玉姫の弟かと思われる皇子が寄り添っているのは、わだつみの国とても地上の権力構造と同じであるのを思わせる。海底の雰囲気をうまく作っている。
■ わだつみのいろこの宮を去り戻って来た場面
山幸彦を乗せたのが、鮫なのかワニなのか、ワニ=鮫の解釈が通説になっている古事記神話では、どちらを選ぶか画家の感性次第だ。
ワニを選ぶと、威厳を増した山幸彦の凱旋のような雰囲気が出る。ワニの眼が鋭い。
下の絵は、やれやれやっと着いたという安堵の表情に見えて面白い。三年にわたる歓待で、体型もふっくらした山幸彦。
令和5年2月 瀬戸風 凪
setokaze nagi