詩のアルバム scene5 地に咲く花の
地に咲く花の 詩・ 瀬戸風 凪
みつみつと黄を浸す菜の花に思う
その人の心の鈴音 (すずね)
風を顎 (あぎと) うコスモスの姿にも思う
その人の熟れない乎萌影 (おもかげ)
わたしは幾春も幾秋も
花に寄りゆき花に告げられて
地に咲く花の―
わたしの眼を破船 (やれぶね) にする
いたいけな ひかりよ
その人との時間は
ひとつの季節を限りに
若草の陰をなびかせただけなのに
旅の途中の駅に停車のつかの間
咲く花の優しい一期 (いちご) を
眺めやるばかりで過ぎるしかなく
切符に記された駅に降りて振り返れば
花のほころびの残像は
日の眩(くら)めきに打ち敷かれていた
菜の花は陽のしずくであり続け
コスモスは風の岸であり続け
わたしの前に
ただそれだけでしかないものを‥‥
令和5年4月 瀬戸風 凪