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『藍を継ぐ海』伊与原 新(著)
【書籍紹介】『藍を継ぐ海』 伊与原新(著)
第172回直木賞受賞作!
5つの短編小説からなるこの本は、まさに「継ぐ」というテーマが作品を貫かれた心温まる「再生」の物語です。
「科学、歴史、伝統&工芸、自然、命」×人間ドラマ=継ぐ・再生
それぞれの物語が組み合わさり、壮大な一つの物語を紡ぎ出しています。
収録作品
1.『夢化けの島』(山口県-萩焼)
2.『狼犬ダイアリー』(奈良県-ニホンオオカミ)
3.『祈りの破片』(長崎県-原爆)
4.『星隕の駅逓』(北海道-隕石)
5.『藍を継ぐ海』(徳島県-ウミガメ)
舞台は日本各地。
それぞれの土地に根付く科学、歴史、伝統工芸、そして自然や命といった要素が、そこに生きる人々の感情や葛藤と深く結びつき物語は進んでいきます。
理系作家である伊与原先生ならではの、科学的知見が随所に散りばめられているのも魅力の一つ。 難しそうな話もわかりやすく書かれていて、物語を通して自然と知識が身につくような、そんな心地よさもあります。
特に心に残った2編
<⚠️ネタバレあり>
💡「狼犬ダイアリー」
絶滅したニホンオオカミの話を中心に、主人公まひろが「狼」にまつわる話を聞く。そして、自分自身の生き方を見つめ直していく物語。
「肩の荷をおろして生きる」ヒントがある。
太古の昔、一部の狼が人間との共生を選び家畜化され、犬になっていった過程は興味深い。また、奈良県東吉野村で捕獲されたニホンオオカミは日本最後のオオカミで、その標本は大英博物館にあるという。
さらに、狼と犬を意図的に交配させたウルフハイブリッドの存在にも興味をそそられる。読後に思わず”狼と犬”について調べたほど、奥深く面白い内容だった。
💧「祈りの破片」
空き家調査に訪れた市役所職員・小寺は、空き家に残された資料の調査をしているうちに、原爆病に侵されながらも、原爆投下後の被害状況を記録した教師の"加賀谷"の存在を知る。
加賀谷の遺した記録を読み解くうちに、M氏という人物が浮かび上がり、まるで謎解きのような展開が繰り広げられる。調査の過程でM氏側からの情報が手に入り、原爆投下当時の二人の様子が少しずつ明らかになっていく。
被災を免れたM氏が“不条理”に慟哭する場面は深く心を揺さぶる。
私も泣いたー😭
そして、物語の終盤で、タイトルにもなっている「祈りの破片」の意味が、加賀谷、M氏の思いとともに明かされる。小寺は加賀谷の遺した記録を読み解くうちに、彼の強い思いを知る。そして、自身が何を継ぐべきなのかを悟る。
原爆という悲しい出来事を未来へ繋ぐその姿は、深い切なさを胸に刻み込む。
全体を通して
一度は人生を諦めかけた人々が、様々な困難を乗り越え、「継ぐ」を通して「再生」していく姿が描かれています。その姿に勇気をもらい、そっと背中を押してくれるような、温かい気持ちにさせてくれる作品。
科学・歴史・伝統・自然・命が絡み合い、心に沁みる一冊。短編集なのにどれも満足感が高く、読後に深い余韻を残します。
心が整いました^^