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演技経験0の私が、おばちゃんパワーで参加した栗山民也さんWS(1)

「おばちゃんと言う言葉は、魔法の言葉なんです!」

おばちゃんと言う言葉は、とても素敵で使い勝手の良いものなんだと言うことを、そこにいる初対面の方々に、私は声高らかに体全体を使って、そう宣言しました。

それはまつもと芸術館主催の、栗山民也さんのワークショップ初日の出来事でした。

なぜこんなことになったのか?
なぜ演技経験も何もない私が、日本を代表する演出家の栗山民也さんのワークショップにいるのか?

それはまつもと芸術館からの1通のメールでした。

栗山民也ワークショップ開催(未経験者歓迎)

この一文に心躍った私は演技経験など全くないのに、『(未経験者歓迎)』と言うこのカッコ書きに背中を押されてエントリーしていました。

私は松下洸平さんと言う俳優さんを熱烈に応援していて、彼が栗山さんを師事している事をよく知っていましたし、そんな縁で、私も栗山さんの舞台を幾つか拝見していました。

その題材の世界は戦争だったり、殺人事件だったり、ある意味特殊な環境。でも、その中で描かれるのはそこに暮らす人々の日常。
些細な事に心ときめき、笑い、怒り、穏やかでいる。
どんな特殊な環境でもそこで暮らす人々は、普段の私たちとなんら変わりないのだと、だからこそ、その世界を考えて欲しい。何が異常なのか?
栗山さんの舞台を見るといつもそう突きつけられている気持ちになりました。

私は介護の仕事をしており、様々な方の日常を支える仕事をしています。
なので、毎日色々な人の日常を考えています。
だからなのか、日常にフォーカスを当てる栗山さんの世界にとてつもなく惹かれる自分を感じていて、そして特に、こまつ座の舞台に心が動いていました。

なので、私は演技経験など何もない、ただのおばちゃんですが

栗山さんが読み解く『日常』を、一緒に読み解いてみたい

大好きな松下洸平さんが師事する栗山さんの世界に触れてみたい

と言う99%ミーハー心からエントリーを決めてしまっていました。
なのでそのときは、WSと言うものが何であるかもわからなかったし、あわよくば皆さんが指導されている風景を眺めるだけでもいいな、なんて呑気に考えていました。

集まったのは私を含めて男性5名、女性5名の10名で、ほとんどの方が20代で、現に俳優として活躍されている方ばかりで、ズブの素人は私1人。

あれ?私もしかしてかなり場違い??

そう本能が警笛を鳴らしました。
そしてその警笛はホンモノで、始まってみたら、ガチ中のガチ、初心者だろうがなんだろうが関係なく、私はその場では1人の俳優でした。

WSのお知らせの中に『初日にモノローグを1、2分披露していただきます。ご準備をお願いします』とありました。
私は「モノローグ??」とハテナが渦巻き、友人に聞いてみたり、調べてみたりしましたが、出てくるのは『登場人物の心情を表した場面、独白』とあり、どんどんハテナが増え、劇場に問い合わせた所「昨年は、好きなドラマのセリフをおっしゃった方もいました。何か読んでもでも構いません。なんでも良いです」とお返事が。
益々ハテナが増えて、解決しないまま、自分なりに何か考えなくちゃと、なんでもいいなら、自己紹介でもいいのかな?と漠然と文章を考えていました。 
WSが始まって軽く自己紹介を終えた後、ではモノローグをと言う事で最初の方が皆の前に立ちました。

「出典は?」

栗山さんが俳優さんに聞いてきました。

え?出典?!どう言う事?!

そこからモノローグを発表される方は皆、戯曲であったり、小説であったりそこからの引用を、一人芝居で演じ始めました。
しかも、独白なので、どちらかと言うと負の感情を体全体でシリアスに皆さん演じたのです。

そういうことーーーー!!!!モノローグってそう言う事ーーーー?!

私は心の中でそう叫び、1人パニック!!
自分が用意したのはただの自己紹介で、しかもその場が柔らかくなればいいし、シリアスは自分に向かない、と思って笑いも随所に散りばめてある軽いやつ……
全然ちゃうやーーーんと再びパニックになりつつも、ここはもう心を決めるしかない。所詮私は素人だ、と半ば諦めに近い感情でその場に立ちました。

「私は演技に関してど素人で、まだ何者にも成れません。なので、自分を演じます」

と、自己紹介を始めました。
その内容がこちらです

突然ですが、自己紹介をします
私は、長野県のスキー場がたくさんあるところから来ました。
上から見ても、下からみても、横から見ても後ろから見ても、立派なおばちゃんです。
このおばちゃんという言葉、昔の自分はあまり良いイメージがありませんでした。
皆さんもそうじゃないですか?
ですが、いつの間にか「おばちゃん」という立場を受け入れるようになってからは、このおばちゃんという言葉が使い勝手が良い言葉だということに気がついたんです。
例えば、おばちゃんは物忘れが激しくなります。でも「おばちゃんだから物忘れ激しくてー」と言うと自分の問題なのに、おばちゃん全体の問題として誤魔化すことができます。
また、何か悩み事を聞くときも「おばちゃんに話してごらん?」と言うと、不思議と相手のハードルが下がることが多いのです。
そう、おばちゃんは、魔法の言葉なんです!!
そして今日です。
昔の自分であれば、演技経験もない自分がこのような場に参加するなんて事は決してしなかったと思います。
でも、おばちゃんは違います。なぜならおばちゃんは図々しいから。
面白そう、楽しそう、栗山さんの世界に触れてみたい!
躊躇する自分を、ワクワクする自分が乗り越えていくんです。
この図々しさを持って、この4日間みなさんの迷惑にならないように、でもおばちゃんなりに図々しく、楽しんでいきたいと思います。
よろしくお願いします!!

ある意味これを言い切った自分を褒めたいです。
ビバおばちゃん!やったぜおばちゃん!!
周りも栗山さんもちょっと苦笑いしてだけど、気にしないぜおばちゃん!!

と言う事で、これから4日間、私の夢のような時間がスタートしたのです。(続く)

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