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矛と盾とプライド〜ドラマアトムの童より〜

「ストリートファイター…古いゲームでしょ?」

興津さんにそう言われた時、俺は遮断していた過去を思い出した。
なぜならその言葉は、かつての俺が言った言葉だったからだ。

俺と那由他は保育園の頃からの付き合いで、所謂幼馴染というやつだった。
でも、俺は那由他が苦手だった。
あいつはいつも考えなしに突っ走り、周りを混乱させる。
小さい頃から混乱させられ続けてきた俺は、あいつをやっかみ、遠ざけていた。

中学最後の体育祭。
体育祭で男子は騎馬戦をするのだが、たかが騎馬戦に恐ろしいほどの闘志を燃やして、3年間戦う伝統があった。
御多分に洩れず、俺たちのクラスも最後の騎馬戦でどうにか優勝したいと盛り上がっていた。

そんな中クラスの奴らから、隼人は作戦を考えるのが得意だから。と言われて、俺は作戦参謀になった。
騎馬戦は将棋のようだ。
大将を守るために、他の駒が動き回る。
いろいろ作戦はあるだろうが、守りを固めること。これが盤石だと俺は昔から思っていた。
守りを固めることで周囲を見渡せることができ、そして、周囲を見渡せているので、隙をついて瞬時に攻撃に移ることもできるからだ。

体育祭当日も、俺の作戦が功を奏し、順調に勝ち上がり、決勝に残ることができた。
「よっしゃあー!いくぞー!」
みんなの志気もかなり上がっていた。もちろん、俺も高揚していた。

「ちょっと待てよ、みんな!」

口を挟んだのは那由他だった。

「せっかくここまできたんだからさ、俺たち勝てると思うんだ。最後は思いっきり攻撃していこうぜ!」

那由他の一言で周囲の気持ちはそっちに傾き、みんなのテンションが一気に攻撃色に変わった。
俺が口を挟む余裕もなく決勝は始まり、そして何とか勝った。

優勝の余韻に酔いしれながら、いくつかのグループがそのままゲームセンターに流れていた。
その中に俺も那由他もいたが、俺はもちろん那由他の存在を無視していた。

俺は那由他のやり方に納得がいっていなかったからだ。
今日もあいつは考えなしに突っ走った。勝ったから良かったものの、結局あいつのやることは周りを混乱させるんだ。

俺と那由他は合わない。
心底そう思った。

俺はそんなイライラをぶつけるようにマリカに没頭していた。
すると那由他が隣に座ってきて、対戦モードにした。

俺はこのゲームで那由他をコテンパンにしてやろうと対戦を受け入れた。
前に前に進もうとする那由他に対し、俺は確実にアイテムを取って那由他を翻弄し、結果俺が圧勝した。

「だあーーーー!くそーー!!!隼人、お前、せっこいやり方すんなよ!」

負けた那由他は、俺をそうなじった。
その言葉で、今まで溜め込んでいたあいつへの鬱憤が、吹き出して止められなるのがわかった。

「はぁ?負け惜しみ言ってんじゃねえよ。大体、ゲームってのは、どれだけ確実にアイテム取って活用してくかだろ?大体なあ、那由他、お前今日だって急に作戦変えやがって!勝ったから良かったものの、考えが甘すぎんだよ!やり方が保育園児なんだよ!」

普段あまり感情を表に出さない俺が言い返したので、周りが驚き、固まったのがわかった。
そんな中、那由他は、ニヤリと笑った。

「じゃあ、次はこれで勝負しようぜ」

那由他が指定したのは、ストⅡだった。

もう何年も前に流行ったゲームで、俺たちの中では誰もやる奴なんかいなかった。
今はゲームも進化し、周りはポケモンに夢中だった。ゲームは常に進化するんだ。古いゲームは、その分劣化するんだ。そう思っていたから、もちろん俺もやっていなかった。

「は?そんな古いゲームやったことねえし」

「いいから」

那由他は俺を無理やり座らせた。

「んー、そうだな。隼人に技、教えてやるよ。お前は守りが得意だから、ガードな」

そう言っていくつかのコマンドを教えてくれ、ゲームが始まる。
何が何だかわからないが、教えてもらったガードが那由他の攻撃を止められると、それだけで嬉しかった。
結果は那由他の圧勝。
当たり前だ。俺は初心者なのだから。
だけど、心がワクワクした。

「こんなのアリかよ、もう一回やるぞ!」

俺は那由他に申し出て、再戦する。
負ける、再戦、を繰り返し、用意していた100円玉が尽きる頃、俺は那由他に勝った。

「やったー!勝ったー!!那由他に勝った!ザマアミロ!」

「こんなのまぐれだろ!一つの技教えたらそればっかりチマチマやりやがって、やっぱりお前のやり方はセコいな!」

「は?負け惜しみ言ってんじゃねえよ。那由他だって、バカみたいに攻撃してきて。隙だらけなんだよ!」

「攻撃しないでゲーム成立すると思ってんのか?!」

お互いヒートアップして言葉が止まらなくなっていた。

「まあ、まあ、まあ。2人とも気持ちいいくらい言い合いするね」

そんな俺たちを、見かねた公哉止めてくれた。
公哉も俺たちと同じく保育園からずっと一緒で、俺はいつもニコニコしている公哉が好きだった。

「公哉!だってこいつがさあ!」

2人で声を合わせて公哉に訴える。
それを見て公哉が笑い出す。

「あははは。2人とも面白いね。那由他は攻撃が1番だと思ってる。隼人は守りが1番だと思ってる。それを譲らない。似たもの同士じゃん。超絶ワガママ」

そう笑って、俺と那由他の間に公哉が割り込んできた。

「あのさ、矛と盾って知ってる?」

「王様にこの剣は最強ですってすすめて、その後にこの盾は最強ですって言ってすすめて、王様に結局どちらがすごいんだ?って聞かれて困っちゃう話だろ?」 
那由他が答える。

「なんかちょっと違う気がするけど、はは、まあそんなもん。那由他と隼人はつまり、矛と盾なんだよ」

「え?」

「どっちも凄くて、どっちも必要って事。
今日の騎馬戦だって、隼人の作戦で戦ってきたから、守りの大切さを理解した上で、那由他の攻撃が加わった。それで勝てたんだよ。そのつもりだったんだろ?那由他」

え?と言う顔で俺は那由他を見た。

「まあ、隼人の作戦はすげえいいなと思ったよ。でもさ、そこに攻撃が加われば奇襲になるし、何より面白えじゃん?」

那由他は、俺のやり方を蔑ろにしたわけではなかったのだ。俺の作戦の上に、より良い方法を上乗せしただけだった。

浅はかだったのは、考えがなかったのは、俺のほうだった。

「…ごめん」

俺は小さな声で那由他に謝った。

那由他はニヤリと笑い、そんな事はどうでもいいと言う雰囲気で俺に肩を組んできた。

「で?ストⅡはどうだった?」
那由他が俺を覗き込むように質問した。

「これ、すっごい面白いな!」
俺は、本当に素直にそう答えていた。

「だろ?隼人の言う通り、ストⅡって昔のゲームなんだけど、面白いゲームはいつだってワクワクするんだよ。俺も、お前とゲームしてて楽しかったわー!隼人、いい顔するんだもん。やっぱり面白いゲームってすげえなあ」

いつの間にか、3人で肩を組んで笑い合っていた。
俺たち3人のクエストの始まりだった。

⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘

今まで遮断していた過去のことが蘇り、サインを書くためにペンを持つ俺の手が止まっていた。

俺は何を守りたかったんだ?
ジョンドゥの名誉か?
公哉の仇討ちか?

違う
公哉を、那由他を、いや、自分を守れなかった事への自己憐憫だ。

こんな俺がゲームを作って何ができる?

「もったいないよ!こんなに面白いのに!」

公哉の声が聞こえた。

そうだ。
俺が作りたいのは、こんな自分のために作るゲームじゃない。
誰がやっても、いつまでも楽しい、ワクワクするゲームだ。
それは、あの時の那由他に、古い=面白くない
と言う概念を覆されたから生まれた、絶対に譲りたくない理念だ。

でも、俺1人ではそれを作り出すことは出来ない。

那由他は『矛』で、俺に知らない世界を教えてくれる。
俺も『盾』であいつの知らない世界を広げることができる。
それは、俺は守りの『盾』だから、那由他の『矛』がないと、ダメだとも言える。
2人で組むから、矛と盾に成れる。クエストを進めることができる。

2人だから、作れる世界があった。

ただ、ひとつ、足りないものがある。
それは、矛と盾を使いこなす勇者が公哉だったからだ。
だが、公哉はもうこの世にいない。

だけど、この間アトム玩具の富永さんに会った。
公哉にはない強引さと、俺たちと同じワガママさがあったが、俺を見つめる真剣な眼差しは公哉と同じだった。

「あそこでなら、できるかもしれない」

そう思っただけで、俺はいつものゲームセンターに足が向いていた。
俺の前を、公哉が笑顔で先導して、そして笑いながら消えていった。

那由他、富永さん、俺の3人で腕を組んで街を歩く。
世界が広がる。

俺は、俺たちは、ジョンドゥだ。

あとがき
これは、ドラマ「アトムの童」のサイドストーリーです。ドラマが始まった時点で、那由他と隼人はもう一緒にゲームを作る仲になっていました。
でも2人はタイプがかなり違う。その2人を公哉がうまーくまとめていたんだろうな。そう思ってこのお話を思いつきました。
なお、このお話は私の完全なる妄想であり、本編とは全く関係がありませんので、悪しからずデス。

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