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すばらしき世界(ネタバレ注意)

3年くらい前に公開された、すばらしき世界、という映画を今更ながら観た。

主人公は、元暴力団員。殺人を犯し、13年服役後、なんとかカタギの仕事をして、まともになるよう努力する話。

どんな経緯で殺害をしたかは、描かれていなかった。だが、人を殺したのは事実なのだろう。

でも、社会復帰はなかなか上手くいかない。
半グレ、と今は言うのだろうか。
半グレかチンピラかは分からないが、彼らが、見るからに弱々しい男性をカツアゲしている姿を見ると、全くの他人だが、見て見ぬふりができず、容赦なくボコボコにする。

ボコボコにした後の彼の顔は、スッキリしたようで、笑ってさえいた。昔の血が騒いでしまったのだろう。

ただ、彼は本気でこの社会に適応しようと、一生懸命だったように見えた。

最終的に、彼は死んでしまう。
自殺ではない。死んでしまった。

彼は死ぬ前、介護施設で懸命に働いていた。
介護施設の職員たちは、おそらく知能の遅れがあるであろう一人の男性職員の悪口を言う。
話し方を馬鹿にして真似したり、本当か嘘かも分からない噂話に花を咲かせる。

「あなたもそう思わない?(笑)」
その問いに、彼は、「そうですねぇ!あはは」
と笑う。彼にとって、これほど辛いことはなかっただろう。

その日、馬鹿にされ、虐められていた男性職員から、帰り際にコスモスをもらう。綺麗なコスモスだった。

彼は家に帰る。そして、死んだ。
美しいコスモスの香りを胸いっぱいに吸い込んで、死んだ。

穏やかな顔だった。
当たり前だ。
所謂まともと言われる人たちの悪口に話を合わせ、それがまともとされる世の中。彼にとって、こんな世界で生きる方が地獄だったに違いない。

私自身、介護施設や、障害者施設で働いていたことがあるから分かる。あれは誇張などではない。利用者の話し方を真似して、楽しそうに雑談し、嘲笑する職員を、実際に私は見てきた。

それを見る度「何でこの人たちはここで働いているんだろう。」そう思って胸が痛んだ。

私も、理解が出来なかった。

彼にとって、死は救いだったと思う。
この素晴らしい世界で生きるには、彼は、真っ直ぐで、純粋すぎたのだから。

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