「虹」第1楽章
このアレンジについて
原曲
東方虹龍洞から
「妖魔たちの通り雨」「大吉キトゥン」
(上海紅茶館、明治17年の上海アリス)
聴きどころ
豪徳寺ミケのテーマで、すごく静かな雰囲気になるところや、
後半、ピアノによるサビの後に最初のメロディに戻る場面(原作だと道中ミケを倒して空に虹がかかるところ)が聴きどころです。
また紅美鈴のテーマもところどころに入っているので、聴きながら探してみてください。
ざっくり解説
降り始めたかと思うと、ザーっと打ち付けるような激しい通り雨に(妖異達の通り雨)。
そこから一転して、雨宿りしたように雨は遠のき、本来活発な豪徳寺ミケのテーマ(大吉キトゥン)が 一音一音、踏み締しめるような曲調で、静かに登場します。
その後、ミケのテーマを中心に曲が進んでいきます。
自分で自分のしっぽを追いかけるようにカノンぽくなったり、「客を招く能力」によって紅美鈴が顔を出したりします。
(体験版が出たときに作ったアレンジなので美鈴登場説を推した形ですw)
そして、歩いてきた道を戻るように再びミケのテーマになりますが、今度は「福を招く能力」で晴れ(サビ)になり、最後には虹(冒頭のメロディ)が輝かしく現れ、空気は軽く、晴れやかな雰囲気に包まれて曲が終わります。
がっつり解説
(楽理が分かる方向け。読み飛ばしても大丈夫です)
主題と構造
・第一主題:「妖魔たちの通り雨」
・第二主題:「大吉キトゥン」
・全体の構造
各ポイント詳解
■提示部
1.第一主題「妖異達の通り雨」(0:00)
ヴァイオリンとチェロのユニゾンでいきなり始まりますが、メロディ冒頭の一音目を付点付き(長さ1.5倍)にすることで、わずかな溜め(期待感)がでるようにしました。
この特徴的なリズム動機は曲中の至る所で現れます。
またピアノが加わった後、裏拍からの3音符(ハイドンの弦楽四重奏「五度」っぽいところ)が出てきますが、こちらのリズムも曲中でたびたび登場する重要なリズム動機になります。
ここでは後の第二主題の音形を予告する効果もあります。
第一主題はヴァイオリンとチェロの二重奏の形で終わりますが、このパターンがこの後も形を変えながら出てきます。
2.推移部(0:45)
音程は大吉キトゥンのイントロを使っていますが、さっそく先ほどのリズムを適用した形になっており、展開に変化をつけつつも、第二主題への移行をスムーズにする狙いもあります。
3.第二主題「大吉キトゥン」(1:01)
ヴァイオリン=ミケ、チェロ=たかねさん、ピアノ=山如さまと言う設定なので、ヴァイオリンがミケのテーマを弾いてますw
メロディの最初の部分を細かく・跳躍する形にアレンジして、器楽的なフレーズにしました。原曲だと最初の四分音符の「タンタン」がかなり印象的ですが、メインのメロディからなくした代わりに、チェロの方にさりげなく残しています。
テンポも遅く静かで第一主題のような激しさはありませんが、存在感を感じられるように作りました。
ちなみに、この音形のアレンジはモーツァルトのピアノ三重奏ト長調(第一楽章 第二主題)から着想を得て作りました。
(メロディ冒頭が分散和音のように跳躍した形になっているのと、アウフタクトつき。
また提示部で属調、展開部で下属調、再現部で主調になるという転調パターンもこの曲に拠っています。)
4.経過部(1:40)
フォーレのピアノ五重奏2番を参考に、ふわふわしてどこか掴みどころがないような雰囲気をお借りしました。
■展開部
5.(2:14)
推移部の部分をベースにしながら、先に登場した2つの主要リズムを組み合わせた形になっています。
転調とテンポアップをして激しさを増して行きながら、第二主題の展開につながります。
6.(2:47)
第二主題がピアノの右手、左手に現れたのち、拡大された音型がヴァイオリン・チェロにも受け継がれ、変則的な3声で輪唱していきます。
続くセクションでは、原曲の「タンタン」のリズムを楽器間で模倣して行きながら、少し対位法的に盛り上がります。
それがひと段落すると続けざまに、ヴァイオリンとチェロの二重奏の形で「明治17年の上海アリス」が出てきて第二主題の展開が終わります。
7.(3:33)
再び推移部ベースの繰り返しが続きますが、先ほどと同じように転調しつつ第二主題(再現)へと続きます。
■再現部
8.第二主題(4:04)
少し変則的ですが、再現は第二主題から始まります。内容自体は転調されただけでほぼ型通りですが、ピアノだけ、この楽章冒頭の入声の形になっています。
9.結尾部(4:42)
提示部では静かに消えゆくように終わった結尾部ですが、再現部ではこれまでに登場したリズムや音型が組み合わさって、高らかに歌い上げるサビを形成します。
アレンジされたメロディを展開して、それをさらに加工しているので、原曲っぽさは薄いですが、個人的には流麗ですごく気に入っている部分です。
またサビの途中でニ短調(D minor)になり、この後 第一主題「妖異達の通り雨」ヘ短調(F minor)に戻ります。ここは原曲通りのキー・転調となっていて、本編中では中ボス:ミケを倒して虹が現れる部分になり、この形を再現部のカタルシスとして使いたかったので、曲全体のキーもヘ短調にしました。
10.第一主題(5:27)
冒頭と同じくヴァイオリン、チェロのユニゾンで主題が奏でられますが、メロディ全体が倍の長さになり、提示部での激しさはなくなります。
ピアノがアーチ状の合いの手(虹)をいれると、曲調はどんどん明るく軽やかになります。(さらに「上海紅茶館」も出てきます)
ちなみに再現部を第二主題から始めて、第一主題の音価(音符の長さ)を倍にするのは、ショスタコーヴィチのチェロ・ソナタ第一楽章をオマージュしています。
そして、楽章全体の基本構造としては、各主題をシンメトリックに配置していますが、こちらはバルトークの影響ですw。
11.(6:51)
ここまで何度か登場したヴァイオリンとチェロの二重奏になる部分(提示部:第一主題や展開部:第二主題の最後)ですが、どの部分も終わり方が尻切れトンボで やや中途半端な感じがありました。
そこで最後にその部分だけをまとめてコーダとして、例のリズムも盛りつつ小展開し、輝かしく盛大に・晴れやかに終わる形にしました。