近代短歌(1)落合直文(1861-1903)
緋威の鎧を著けて太刀佩きて見ばやとぞ思ふ山ざくら花
緋威の鎧を著けて太刀佩きて見ばやとぞ思ふ山ざくら花
【緋縅(緋威・火縅・氷魚縅)】ひおどし
甲冑の腹部や側面に垂らされた、模様のついた細長い板を鱗のように重ね合わせたパーツを見たことがあるだろうか。この細長い板を札と呼び、板を綴り合わせる糸・革(またその綴り合わせたもの)を縅(威)と呼ぶ。緋縅とは緋色(紅色)の縅を指す言葉だ。
【佩く】はく
主に「刀を佩く」「太刀を佩く」と使われる語で、「武器を腰につける」という意味。日常的な言葉で言い換えるとすれば「帯びる」「ぶら下げる」「装着する」などになるだろうか。
【山桜花】やまざくらばな
ヤマザクラの花、あるいは山に咲いた桜の花という意味。
「山桜」は春の季語になっている。
さわさわと我が釣り上げし小鱸の白きあぎとに秋の風ふく
さわさわと我が釣り上げし小鱸の白きあぎとに秋の風ふく
【さわさわ】
『現代擬音語擬態語用法辞典』によると、「非常に軽い物が連続して摩擦する音や様子を表す」「ややプラスイメージの語」とされる。文芸では逸脱した意味で用いられやすいオノマトペだが、同書にあるように「軽さ・清涼感・快感の暗示」というニュアンスは残っているだろう。
もちろん「さわさわと」が「(秋の風)ふく」のみを修飾していると考えれば、上述の定義が合致していて意味の逸脱はない。ただ、この語は初句に置かれているのだから、「釣り上げし」にもかかっていると考えた方が面白いと思うが、どうだろうか。
【鱸】すずき
鱸は美味で知られる上品な魚である。出世魚で、サイズによって呼び名が変わる。地方によって違いはあるが、大体60cmを超えると鱸と呼ぶようになるらしい。小鱸はそうした大きな鱸の中でも小ぶりの個体と考えればいいだろうか。
「鱸」は秋の季語になっている。
町中の火の見やぐらに人ひとり火を見て立てり冬の夜の月
町中の火の見やぐらに人ひとり火を見て立てり冬の夜の月
【火の見櫓】ひのみやぐら
『ニッポニカ』によると、江戸には明暦の大火(1658)の翌年から火の見櫓が設置されたらしい。昼夜日の番が駐在して見回り、出火を確認すると太鼓や小鐘で周りに知らせた。当時、特に関東地方では冬の火災が多かったのだ。「町中の火の見やぐら」は「町中の火事を見渡せる火の見やぐら」と解せばいいだろうか。
現代では「火事」が冬の季語になっている。
【冬の月】ふゆのつき
冬の季語。『カラー図説 日本大歳時記 冬』には「さむざむと冴えて凄愴の感が深い」とある。
をとめらが泳ぎしあとの遠浅に浮環のごとき月浮び出でぬ
をとめらが泳ぎしあとの遠浅に浮環のごとき月浮び出でぬ
【少女・乙女】をとめ
若い女性を指す。試みに青空文庫から用例を引用してみよう。
【月】つき
俳句では、単に「月」と言ったときは秋の季語になる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?