アイドマの法則だけじゃない「消費者行動モデルの進化と分類」 自分へのメモ - <みんなのデザイン経営>
第1章:はじめに
AIDMAの法則はよく知られていますが、消費者行動モデルは他にもたくさんあります。デザイン経営のためのマーケティング基礎知識として、自分のためのメモとして記載しておきます。
消費者行動モデルは、マーケティング戦略の基礎として長年にわたり進化を続けてきました。技術の発展や社会の変化に伴い、消費者の購買行動も大きく変化しています。19世紀末から現代に至るまで、様々なモデルが提唱され、それぞれの時代の特徴を反映しています。
このメモは、以下の目的で作成しました。
消費者行動モデルの時系列的な進化を追跡し、各モデルの特徴と意義を明らかにする。
各モデルが登場した社会的・技術的背景を考察する。
これらのモデルがデザイン経営にどのように活用できるかを検討する。
今後の消費者行動モデルの展望と課題を探る。
1.1 AIDMAの法則
AIDMAの法則は、消費者が商品を購入するまでの過程を説明するマーケティング理論で、1920年代にアメリカの広告学者サミュエル・ローランド・ホール(Samuel Roland Hall)によって提唱されました。この理論は、Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の5つの段階を経て消費者が購買に至るとするものです。
1.2 AIDMAの法則誕生の背景と発展
1. 歴史的背景:
* 1920年代は、アメリカで広告業が急速に発展した時代です。第一次世界大戦後の経済成長とともに、企業は消費者に対して商品やサービスを効果的に売り込む方法を模索していました。この時期に、消費者行動を分析し、購買プロセスを体系的に理解しようとする動きが活発化しました。
2. サミュエル・ローランド・ホールの貢献:
* サミュエル・ローランド・ホールは、広告の効果を高めるために、消費者が商品を購入するまでの心理的なプロセスを研究しました。その結果、消費者が購入に至るまでのステップを明確にし、それを理論化しました。
* このプロセスをAIDMAとしてまとめることで、広告やマーケティング活動をどのように設計すればよいかの指針を提供しました。
3. AIDMAの各段階:
* Attention(注意): 消費者が商品やサービスに気付く段階です。広告やプロモーションが消費者の目を引くことが重要です。
* Interest(関心): 商品やサービスに対して興味を持つ段階です。ここでは、商品の特徴や利点を伝えることが求められます。
* Desire(欲求): 消費者が商品を欲しいと感じる段階です。具体的なベネフィットを示すことで欲求を刺激します。
* Memory(記憶): 消費者が商品を記憶する段階です。記憶に残るような印象的なメッセージやイメージを伝えることが重要です。
* Action(行動): 実際に消費者が商品を購入する段階です。購入を促すための明確な行動指示や購入のハードルを低くする施策が必要です。
1.3 現代におけるAIDMAの応用
AIDMAの法則は、その後もマーケティングの基本的な理論として広く認識されていますが、インターネットやデジタルマーケティングの発展に伴い、進化や拡張が行われています。例えば、AIDMAに「Search(検索)」や「Share(共有)」を加えたAISAS(Attention, Interest, Search, Action, Share)のような新しいモデルも提案されています。
AIDMAの法則は、消費者行動を理解し、効果的なマーケティング戦略を立てるための重要なフレームワークとして、現在も多くの企業やマーケティング担当者に利用されています。
第2章:消費者行動モデルの歴史と進化
2.1 <マスメディア広告時代(1898-1960年代)>
2.1.1 AIDA(アイダ)(1898)
提唱者: E. St. Elmo Lewis
概要: Attention(注意)→ Interest(関心)→ Desire(欲求)→ Action(行動)
特徴:
最初に体系化された消費者行動モデル
当初はセールスマンの販売プロセス向けに開発
後に広告業界で広く採用され、マーケティングの基礎理論となる
背景: 新聞広告や印刷広告の普及期
2.1.2 AIDMA(アイドマ)(1920年代)
提唱者: Samuel Roland Hall
概要: Attention(注意)→ Interest(関心)→ Desire(欲求)→ Memory(記憶)→ Action(行動)
特徴:
AIDАモデルに「Memory(記憶)」の段階を追加
広告の反復効果や長期的な影響を考慮
背景: ラジオ広告の登場と普及
2.1.3 AIDCA(アイドカ)(1950年代)
提唱者: 特定の個人ではなく、広告業界で徐々に発展
概要: Attention(注意)→ Interest(関心)→ Desire(欲求)→ Conviction(確信)→ Action(行動)
特徴:
「Conviction(確信)」の段階を追加
購買決定前の「確信」段階の重要性を認識
背景: テレビ広告の登場と消費社会の発展
2.1.4 AIDCAS(アイドキャス)(1960年代)
提唱者: 特定の個人ではなく、広告業界で徐々に発展
概要: Attention(注意)→ Interest(関心)→ Desire(欲求)→ Conviction(確信)→ Action(行動)→ Satisfaction(満足)
特徴:
AIDCAモデルに「Satisfaction(満足)」の段階を追加
購入後の顧客満足度の重要性を認識
背景: ブランドロイヤルティの概念の普及
2.2 <インターネット登場期(2000年代前半)>
2.2.1 AISCEAS(アイセアス)(2004)
提唱者: 株式会社電通
概要: Attention(注意)→ Interest(関心)→ Search(検索)→ Comparison(比較)→ Examination(検討)→ Action(行動)→ Share(共有)
特徴:
オンラインショッピングの普及を反映
「Search」「Comparison」「Examination」「Share」の段階を追加
背景: インターネットの普及とeコマースの成長
2.2.2 AISAS(アイサス)(2005)
提唱者: 株式会社電通
概要: Attention(注意)→ Interest(関心)→ Search(検索)→ Action(行動)→ Share(共有)
特徴:
AISCEASを簡略化したモデル
オンライン上での情報探索と購入後の情報共有行動に焦点
背景: 検索エンジンの普及と消費者生成コンテンツの増加
2.3 <デジタルマーケティング発展期(2007-2011)>
2.3.1 AARRR (Pirate Metrics) アー (海賊メトリクス)(2007)
提唱者: Dave McClure
概要: Acquisition(獲得)→ Activation(活性化)→ Retention(維持)→ Referral(紹介)→ Revenue(収益)
特徴:
スタートアップやデジタルビジネスの成長に特化したモデル
ユーザー獲得から収益化までのプロセスを包括的に捉える
背景: Web 2.0とスタートアップ文化の台頭
2.3.2 REAN(リーン)(2009)
提唱者: Xavier Blanc
概要: Reach(リーチ)→ Engage(エンゲージ)→ Activate(アクティベート)→ Nurture(育成)
特徴:
デジタルマーケティングに特化したモデル
オンライン上での顧客とのインタラクションを重視
長期的な顧客関係の構築に焦点を当てている
背景: デジタルマーケティングの専門化と顧客エンゲージメントの重要性の認識
2.3.3 RACE(レース)(2010)
提唱者: Smart Insights
概要: Reach(リーチ)→ Act(行動)→ Convert(転換)→ Engage(エンゲージ)
特徴:
デジタルマーケティングのプランニングと最適化のための包括的フレームワーク
顧客との継続的な関係構築を重視
背景: デジタルマーケティングの複雑化と統合的アプローチの必要性
2.4 <ソーシャルメディア時代(2010-2018)>
2.4.1 VISAS(ビザス)(2010)
提唱者: 大元隆志(クラウドセキュリティアナリスト)
概要: Viral(拡散)→ Influence(影響)→ Sympathy(共感)→ Action(行動)→ Share&Spread(共有と拡散)
特徴:
ソーシャルメディアの影響力と情報拡散の重要性を反映
消費者間のコミュニケーションを重視
背景: ソーシャルメディアの爆発的普及
2.4.2 SIPS(シップス)(2015)
提唱者: 株式会社電通
概要: Sympathize(共感)→ Identify(確認)→ Participate(参加)→ Share&Spread(共有と拡散)
特徴:
消費者の感情や参加型のマーケティングを強調
ブランドと消費者の共創を重視
背景: ソーシャルメディアを通じた消費者とブランドの関係性の変化
2.3.3 HOOK(フック)(2014)
提唱者: Nir Eyal
概要: Trigger(きっかけ)→ Action(行動)→ Variable Reward(変動報酬)→ Investment(投資)
特徴:
デジタル製品やアプリケーションにおける習慣形成のメカニズムを説明
ユーザーの行動心理学と製品デザインの融合
継続的な製品使用を促進するための戦略的アプローチを提供
背景:
スマートフォンアプリの普及と習慣的な利用の増加
ユーザーエンゲージメントと製品の粘着性(stickiness)への注目の高まり
2.4.4 SAVE(セーブ)(2018)
提唱者: Richard Ettenson, Eduardo Conrado, Jonathan Knowles
概要: Solution(解決策)→ Access(アクセス)→ Value(価値)→ Education(教育)
特徴:
B2B市場向けの新しいフレームワーク
従来の4P's(Product, Price, Place, Promotion)を更新
背景: B2B市場におけるデジタル化とカスタマーエクスペリエンスの重要性の増大
2.5 <総合的デジタル顧客体験時代(2017~現在)>
2.5.1 DECAX(デカックス)(2017)
提唱者: 株式会社電通
概要: Discovery(発見)→ Engage(関与)→ Check(確認)→ Action(行動)→ eXperience(経験)
特徴:
デジタル時代の消費者行動をより詳細に描写
購入後の経験も含めた包括的なモデル
背景: オムニチャネル戦略の普及とカスタマージャーニーの複雑化
2.5.2 5A's(ファイブエーズ)(2017)
提唱者: Philip Kotler, Hermawan Kartajaya, Iwan Setiawan
概要: Aware(認知)→ Appeal(魅力)→ Ask(質問)→ Act(行動)→ Advocate(推奨)
特徴:
デジタル時代の顧客ジャーニーを描写
ソーシャルメディアの影響力を反映
背景: デジタルマーケティング2.0の時代
2.5.3 Dual AISAS(デュアルアイサス)(2018)
提唱者: 株式会社電通
概要:
購買型AISAS: Attention → Interest → Search → Action → Share
拡散型AISAS: Attention → Interest → Search → Action → Share → Spread
特徴:
AISASモデルを拡張し、購買行動と情報拡散の両面を統合
二つの異なる目的を持つAISASプロセスを統合的に捉える
背景: SNSの進化とインフルエンサーマーケティングの台頭
2.5.4 SEAMS(シームズ)(2023)
提唱者: 株式会社電通プロモーションプラス
概要: Search(検索)→ Enjoy(楽しむ)→ Act(行動)→ Motivate(動機付け)→ Share(共有)
特徴:
「AISAS」から進化し、現代の消費者の情報収集・購買行動により即したモデル
SNS上での消費者行動を反映
「楽しむ」「動機付け」といった感情的要素を重視
背景:
ショート動画プラットフォームの台頭
Z世代を中心とした新しい消費行動の出現
エンターテインメント性の高いコンテンツマーケティングの普及
2.6 <消費者行動モデルの進化の傾向>
1920年代のAIDMAモデルから2023年のSEAMSモデルまで、消費者行動モデルは以下のような傾向で進化してきました:
線形から非線形へ
初期のモデルは購買プロセスを直線的に捉えていましたが、現代のモデルはより複雑で循環的なプロセスを描写しています。
受動的から能動的へ
消費者を広告の受け手として捉える視点から、情報を積極的に探索・共有する主体として捉える視点へと変化しています。
購買前から購買後へ
購買行動だけでなく、購買後の体験や共有行動も重視されるようになりました。
オフラインからオンラインへ
デジタル技術の発展に伴い、オンライン上の消費者行動を詳細に描写するモデルが登場しています。
認知的要素から感情的要素へ
初期のモデルは主に認知的プロセスに焦点を当てていましたが、現代のモデルでは「共感」「楽しさ」といった感情的要素も重視されています。
一般的なモデルから特定コンテキスト向けのモデルへ
汎用的なモデルから、B2B市場やスタートアップ企業など、特定の文脈に適したモデルも登場しています。
企業中心から消費者中心へ
企業の視点から消費者行動を捉えるアプローチから、消費者の視点や体験を中心に据えたアプローチへと移行しています。
これらの進化は、テクノロジーの発展、消費者の権限拡大、市場のグローバル化、そしてマーケティング理論の深化など、様々な要因によって推進されてきました。今後も社会や技術の変化に応じて、新たな消費者行動モデルが登場し続けると予想されます。
第3章:消費者行動モデルの分類と特徴
3.1 マスメディア広告型
代表モデル: AIDA, AIDMA, AIDCA, AIDCAS
特徴:
マスメディアを通じた一方向的なコミュニケーションを前提としている
消費者の心理的プロセスに焦点を当てている
線形的な購買プロセスを想定している
適用領域:
テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などの従来型メディア広告
ダイレクトメール等の直接的なマーケティングコミュニケーション
限界:
インタラクティブな消費者行動を十分に説明できない
デジタル環境下での情報探索行動を考慮していない
3.2 インターネット検索型
代表モデル: AISCEAS, AISAS
特徴:
インターネットの普及に伴う消費者の能動的な情報探索行動を反映
購買後の情報共有行動を考慮している
非線形的な購買プロセスを想定している
適用領域:
eコマース
検索エンジンマーケティング(SEM)
コンテンツマーケティング
限界:
ソーシャルメディアの影響力を十分に考慮していない
モバイルデバイスの特性を明示的に扱っていない
3.3 デジタルマーケティング型
代表モデル: RACE, AARRR, REAN
特徴:
デジタル環境における顧客獲得から育成までの一連のプロセスを体系化
データ駆動型のアプローチを重視
顧客生涯価値(LTV)の概念を内包している
各段階でのKPIの設定と測定を重視
個別モデルの特徴:
RACE モデル: デジタルマーケティングの計画立案から実行、評価までを包括的に扱う
AARRR モデル: スタートアップやデジタルプロダクトの成長に特化したアプローチ
REAN モデル: オンライン上での顧客とのインタラクションを重視し、長期的な関係構築を目指す
適用領域:
スタートアップやデジタルビジネス
ウェブサービス、モバイルアプリ
統合的なデジタルマーケティング戦略
コンテンツマーケティング
カスタマーリレーションシップマネジメント(CRM)
長所:
各段階での具体的な施策とKPIを明確に設定できる
データ分析に基づいた意思決定が可能
顧客のライフサイクル全体を考慮している
限界:
オフライン行動との統合が不十分な場合がある
ブランド構築の側面が相対的に弱い場合がある
デジタルチャネルに特化しているため、伝統的なマーケティングチャネルとの統合が課題となる可能性がある
3.4 ソーシャルメディア型
代表モデル: VISAS, SIPS
特徴:
ソーシャルメディアの影響力と消費者間のコミュニケーションを重視
共感や参加といった感情的要素を重視
情報の拡散プロセスを明示的に扱っている
消費者を受動的な受信者ではなく、能動的な情報発信者として捉える
個別モデルの特徴:
VISAS モデル: ソーシャルメディア上での情報拡散と影響力の伝播を重視
SIPS モデル: 消費者の感情や参加型のマーケティングを強調、ブランドと消費者の共創を重視
適用領域:
ソーシャルメディアマーケティング
インフルエンサーマーケティング
バイラルマーケティング
コンテンツマーケティング
ブランドコミュニティ管理
長所:
ソーシャルメディア時代の消費者行動をより正確に描写できる
口コミやバイラル効果を戦略的に活用できる
消費者との双方向コミュニケーションを促進する
ブランドロイヤルティの構築に有効
限界:
トラディショナルなマーケティングチャネルとの統合が課題
プラットフォーム依存性が高い(特定のソーシャルメディアの特性に左右される)
測定や効果予測が難しい場合がある
ネガティブな情報拡散のリスクも考慮する必要がある
3.5 習慣形成型
代表モデル: HOOK
特徴:
行動心理学と製品デザインの原則を組み合わせている
ユーザーの内的・外的動機付けを考慮している
変動報酬の概念を取り入れ、ユーザーの興味を持続させる
ユーザーの小さな「投資」が次回の使用を促進する仕組みを説明
適用領域:
モバイルアプリケーション設計
ソーシャルメディアプラットフォーム
ゲーミフィケーション戦略
顧客ロイヤルティプログラム
習慣的な製品使用を目指す任意のデジタル製品
長所:
製品の「粘着性」を高め、ユーザーリテンションを改善できる
ユーザー行動の心理的メカニズムを深く理解できる
製品設計とマーケティング戦略の統合的アプローチを提供
限界:
倫理的な懸念(過度の依存や中毒的使用を促す可能性)
すべての製品やサービスに適用できるわけではない
長期的なブランド価値の構築よりも短期的な行動変容に焦点を当てている
3.6 B2Bマーケティング型
代表モデル: SAVE
特徴:
B2B市場の特性を反映し、顧客中心のアプローチを強調
製品中心から解決策中心へのシフトを表現
長期的な関係構築を重視
適用領域:
B2B製品・サービスのマーケティング
ソリューション販売
アカウントベースドマーケティング(ABM)
限界:
B2C市場への適用が困難
急速に変化するデジタル環境への対応が不十分な可能性がある
3.7 デジタル顧客体験型
代表モデル: DECAX, 5A's, Dual AISAS
特徴:
デジタルとリアルの融合時代における包括的な消費者行動を描写
カスタマージャーニー全体を考慮している
購入後の経験や推奨行動を重視
適用領域:
オムニチャネルマーケティング
カスタマーエクスペリエンス(CX)マネジメント
ロイヤルティマーケティング
限界:
実装の複雑さが増す可能性がある
各段階の測定指標の設定が難しい場合がある
3.8 情報回遊型
代表モデル: SEAMS
特徴:
最新のデジタル環境における消費者の情報収集、共有、行動のサイクルを反映
SNSやショート動画プラットフォームでの行動を考慮
楽しさや動機付けといった要素を重視
適用領域:
SNSマーケティング
コンテンツマーケティング(特にビデオコンテンツ)
Z世代向けマーケティング
限界:
新しいモデルのため、有効性の検証が十分でない
特定の世代や行動パターンに偏重している可能性がある
3.9 総括
これまでに紹介した消費者行動モデルの分類と特徴を踏まえ、以下のような総括的な考察が可能です。
モデルの多様性と補完性
各モデルは互いに排他的ではなく、多くの場合、複数の特徴を併せ持っています。例えば、デジタル顧客体験型モデルはソーシャルメディア型の要素も含んでいることがあります。このため、実際のマーケティング戦略立案においては、複数のモデルを組み合わせて活用することが効果的です。
時代背景との密接な関連
各モデルは、その登場時の技術環境や消費者行動の特徴を強く反映しています。例えば、インターネット検索型モデルはWeb検索の普及期に、ソーシャルメディア型モデルはSNSの台頭期に登場しています。このことは、モデルを適用する際に、現在の市場環境との適合性を慎重に検討する必要性を示唆しています。
消費者の能動性の増大
初期のモデル(マスメディア広告型)から最新のモデル(情報回遊型)まで、一貫して消費者の能動性が増大していることが見て取れます。これは、マーケティングアプローチが「伝える」から「対話する」「共創する」へと変化していることを示しています。
デジタルとリアルの融合
最新のモデルほど、オンラインとオフラインの消費者行動を統合的に捉える傾向があります。これは、オムニチャネル戦略やO2O(Online to Offline)マーケティングの重要性が増していることを反映しています。
測定可能性の向上
デジタルマーケティング型やデジタル顧客体験型のモデルは、各段階での消費者行動をより具体的に定義し、測定可能にしています。これにより、データ駆動型のマーケティング実践が可能になっています。
業界特性の考慮
B2Bマーケティング型モデルのように、特定の業界や市場に特化したモデルも登場しています。これは、一般的なモデルでは捉えきれない特殊な購買プロセスや意思決定要因を考慮する必要性を示しています。
3.9 実践への示唆
消費者行動モデルを実際のマーケティング戦略に適用する際は、以下の点に留意することが重要です:
目的の明確化
何のためにモデルを使用するのか(例:広告戦略の立案、顧客体験の改善、など)を明確にし、それに最も適したモデルを選択する。
複数モデルの統合
単一のモデルに依存せず、複数のモデルの視点を取り入れることで、より包括的な戦略立案が可能になる。
カスタマイズの必要性
既存のモデルをそのまま適用するのではなく、自社の製品・サービス、顧客特性、市場環境に合わせてカスタマイズすることが重要。
継続的な検証と更新
選択したモデルの有効性を定期的に検証し、必要に応じて新しいモデルの導入や既存モデルの改訂を行う。
クロスファンクショナルな適用
マーケティング部門だけでなく、製品開発、顧客サービス、セールスなど、顧客接点に関わる全部門でモデルの理解と活用を促進する。
テクノロジーの活用
AI、機械学習、ビッグデータ分析などの先端技術を活用し、モデルの精度向上や新たな洞察の獲得を目指す。
消費者行動モデルは、マーケティング戦略立案の強力なツールですが、それ自体が目的ではありません。最終的には、これらのモデルを通じて得られた洞察を、実際の顧客価値の創造とビジネスの成長にどう結びつけるかが重要です。常に顧客中心の視点を保ちつつ、モデルを柔軟に活用していくことが、成功への鍵となるでしょう。
消費者行動モデル一覧
AIDA アイダ
概要:
Attention(注意): 消費者が商品やサービスに気付く段階。
Interest(関心): 消費者が商品やサービスに興味を持つ段階。
Desire(欲求): 消費者が商品やサービスを欲しいと思う段階。
Action(行動): 消費者が実際に商品やサービスを購入する段階。
分類: マスメディア広告型
誕生理由: 最初に提唱された消費者行動モデルの一つ。当初はセールスマンの販売プロセスを体系化するために開発され、その後広告業界で広く採用されるようになった。
AIDMA アイドマ
概要:
Attention(注意): 消費者が商品やサービスに気付く段階。
Interest(関心): 消費者が商品やサービスに興味を持つ段階。
Desire(欲求): 消費者が商品やサービスを欲しいと思う段階。
Memory(記憶): 消費者が商品やサービスを記憶し、後に思い出す段階。
Action(行動): 消費者が実際に商品やサービスを購入する段階。
分類: マスメディア広告型
誕生理由: AIDАモデルを拡張し、広告や販売プロセスにおける消費者の心理的段階をより詳細に説明する必要性から生まれた。特に「Memory(記憶)」の段階を追加することで、広告の反復効果や長期的な影響を考慮に入れた。
AIDCA アイドカ
概要:
Attention(注意): 消費者が商品やサービスに気付く段階。
Interest(関心): 消費者が商品やサービスに興味を持つ段階。
Desire(欲求): 消費者が商品やサービスを欲しいと思う段階。
Conviction(確信): 消費者が商品やサービスに対して確信を持つ段階。
Action(行動): 消費者が実際に商品やサービスを購入する段階。
分類: マスメディア広告型
誕生理由: 購買決定前の「確信」段階の重要性を認識したため。
AIDCAS アイドキャス
概要:
Attention(注意): 消費者が商品やサービスに気付く段階。
Interest(関心): 消費者が商品やサービスに興味を持つ段階。
Desire(欲求): 消費者が商品やサービスを欲しいと思う段階。
Conviction(確信): 消費者が商品やサービスに対して確信を持つ段階。
Action(行動): 消費者が実際に商品やサービスを購入する段階。
Satisfaction(満足): 消費者が購入後に満足する段階。
分類: マスメディア広告型
誕生理由: 購入後の顧客満足度の重要性を認識したため。
AISCEAS アイセアス(アイスシーズ)
概要:
Attention(注意): 消費者が商品やサービスに気付く段階。
Interest(関心): 消費者が商品やサービスに興味を持つ段階。
Search(検索): 消費者が商品やサービスに関する情報を検索する段階。
Comparison(比較): 消費者が商品やサービスを他と比較する段階。
Examination(検討): 消費者が商品やサービスを購入するかどうか検討する段階。
Action(行動): 消費者が実際に商品やサービスを購入する段階。
Share(共有): 消費者が商品やサービスについて他者と共有する段階。
分類: インターネット検索型
誕生理由: オンラインショッピングの普及により、比較や詳細検討のプロセスが重要になったため。
AISAS アイサス
概要:
Attention(注意): 消費者が商品やサービスに気付く段階。
Interest(関心): 消費者が商品やサービスに興味を持つ段階。
Search(検索): 消費者が商品やサービスに関する情報を検索する段階。
Action(行動): 消費者が実際に商品やサービスを購入する段階。
Share(共有): 消費者が商品やサービスについて他者と共有する段階。
分類: インターネット検索型
誕生理由: インターネットの普及に伴う消費者行動の変化を反映するため。
AARRR (Pirate Metrics) アー(海賊メトリクス)
概要:
Acquisition(獲得): 顧客を獲得する段階。
Activation(活性化): 顧客がサービスを利用する段階。
Retention(維持): 顧客を維持する段階。
Referral(紹介): 顧客が他の人を紹介する段階。
Revenue(収益): 顧客から収益を得る段階。
分類: スタートアップ成長型
誕生理由: スタートアップやデジタルビジネスにおける顧客獲得と成長に特化したモデルの必要性から。
REAN リーン
概要:
Reach(リーチ): 消費者にリーチする段階。
Engage(エンゲージ): 消費者がブランドと関わる段階。
Activate(アクティベート): 消費者が具体的なアクションを起こす段階。
Nurture(育成): 消費者との関係を育成する段階。
分類: デジタルマーケティング型
誕生理由: デジタルマーケティングに特化し、オンライン上での顧客とのインタラクションを重視するため。
RACE レース
概要:
Reach(リーチ): 消費者にリーチする段階。
Act(行動): 消費者がウェブサイトなどでアクションを起こす段階。
Convert(転換): 消費者が実際に購入する段階。
Engage(エンゲージ): 消費者がブランドと継続的に関与する段階。
分類: デジタルマーケティング型
誕生理由: デジタルマーケティングのプランニングと最適化のための包括的なフレームワークを提供するため。
VISAS ビザス
概要:
Viral(拡散): 消費者が情報を拡散する段階。
Influence(影響): 消費者が他の人に影響を与える段階。
Sympathy(共感): 消費者が商品やサービスに共感する段階。
Action(行動): 消費者が実際に商品やサービスを購入する段階。
Share&Spread(共有と拡散): 消費者が商品やサービスについて共有し、さらに拡散する段階。
分類: ソーシャルメディア型
誕生理由: ソーシャルメディアの影響力と情報拡散の重要性を反映するため。
SIPS シップス
概要:
Sympathize(共感): 消費者が商品やサービスに共感する段階。
Identify(確認): 消費者が商品やサービスを確認する段階。
Participate(参加): 消費者が商品やサービスに参加する段階。
Share&Spread(共有と拡散): 消費者が商品やサービスについて共有し、さらに拡散する段階。
分類: ソーシャルメディア型
誕生理由: 消費者の感情や参加型のマーケティングの重要性を強調するため。
HOOK フック
概要:
Trigger(きっかけ): 消費者が行動を起こすきっかけとなる段階。
Action(行動): 消費者が実際に行動を起こす段階。
Variable Reward(変動報酬): 消費者が行動に対して報酬を得る段階。
Investment(投資): 消費者がさらに行動を続けるための投資を行う段階。
分類: デジタル製品習慣形成型
誕生理由: デジタル製品やアプリケーションにおける習慣形成のメカニズムを説明するため。
SAVE セーブ
概要:
Solution(解決策): 顧客の問題を解決するためのソリューションを提供する段階。
Access(アクセス): 顧客が商品やサービスにアクセスする段階。
Value(価値): 顧客に価値を提供する段階。
Education(教育): 顧客に商品やサービスについて教育する段階。
分類: B2Bマーケティング型
誕生理由: B2B市場向けの新しいフレームワークを提供し、従来の4P'sを更新するため。
DECAX デカックス
概要:
Discovery(発見): 消費者が商品やサービスを発見する段階。
Engage(関与): 消費者が商品やサービスに関与する段階。
Check(確認): 消費者が商品やサービスを確認する段階。
Action(行動): 消費者が実際に商品やサービスを購入する段階。
eXperience(経験): 消費者が購入後に商品やサービスを体験する段階。
分類: デジタル顧客体験型
誕生理由: デジタル時代の消費者行動をより詳細に描写し、購入後の経験も含めた包括的なモデルを提供するため。
5A's ファイブエーズ
概要:
Aware(認知): 消費者が商品やサービスを認知する段階。
Appeal(魅力): 消費者が商品やサービスに魅力を感じる段階。
Ask(質問): 消費者が商品やサービスについて質問する段階。
Act(行動): 消費者が実際に商品やサービスを購入する段階。
Advocate(推奨): 消費者が商品やサービスを推奨する段階。
分類: デジタル顧客ジャーニー型
誕生理由: デジタル時代の顧客ジャーニーを描写し、ソーシャルメディアの影響力を反映するため。
Dual AISAS デュアルアイサス
概要:
購買型AISAS: Attention(注意)、Interest(関心)、Search(検索)、Action(購買)、Share(共有)
拡散型AISAS: Attention(注意)、Interest(関心)、Search(検索)、Action(共有)、Share(共有)、Spread(拡散)
分類: インターネット検索・拡散型
誕生理由: AISASモデルを拡張し、購買行動だけでなく情報拡散の重要性を強調するため。購買と拡散、二つの異なる目的を持つAISASプロセスを統合的に捉える。
SEAMS シームズ
概要:
Search(検索): 消費者が情報を検索する段階。
Enjoy(楽しむ): 消費者が情報を楽しむ段階。
Act(行動): 消費者が実際に行動を起こす段階。
Motivate(動機付け): 消費者が動機付けされる段階。
Share(共有): 消費者が情報を共有する段階。
分類: 情報回遊型
誕生理由: 「AISAS」から進化し、現代の消費者の情報収集・購買行動により即したモデルとして提唱。SNS上での消費者行動を反映している。
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