読書録 2023年2月
心に余裕が無いと読書が捗らないことを実感した1ヶ月。
米澤穂信『秋期限定栗きんとん事件 上』
〈小市民〉シリーズ第三弾の上巻。『夏期』で袂をわかった小佐内と小鳩は、それぞれ小市民的な「男女交際」を始める。そこに連続放火事件が絡んできて...という話。続きが気になる。早く読みたい。
小佐内サイドの瓜野の暴走気味な行動力と自意識と慢心とが、小鳩との対比で描かれていて痛々しい。小鳩サイドに関しては、謎を解いていく楽しさに溢れていて、ミステリは読書も作者も謎解きの楽しさが根にあるんだよなぁと思った。
米澤穂信『秋期限定栗きんとん事件 下』
上巻に続き、連続放火事件を追う展開がつづく。事件の結末については、ある程度予想通りだったけれど、それにしても瓜野が可哀想でいたたまれない...。
小鳩と小左内が周りの「小市民」たちを蔑みながらも「小市民」を志す鼻持ちならなさが、思春期の自意識を体現しているようで良かった。
ショウペンハウエル『自殺について 他四篇』(斎藤信治訳、岩波文庫)
ショウペンハウエルの晩年の論稿5篇。「自殺について」だけが自殺を憎悪する風潮に対する批判が熱をもった書き振りで示されていて浮いている。自殺は抽象的に世界や未来を思考する能力をもつ人間にとって仕方のないもの、とする思想が他の4篇で示されている。
全体を通じて、時の無限性に対して、人間一人の「意志」が介入できる効力は極めて小さく、人生とは「飢餓」を逃れれば「退屈」でしかないという厭世的な思想が貫かれている。自分自身の人生観と近い点が多々あり、自己啓発的な読み方になった。
三島由紀夫『美しい星』
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784101050133
父が「自分は火星人だ」と言い出したことに始まり、各々自分自身が異星人だと思い始める家族の物語。それぞれが、人間生活における違和感や不満、物足りなさ等を自分の異星人としての特異性によって中和させようとしている。
突飛な設定ながら身につまされるような思いをした。陰謀論者のように自分が特別であると思いたい精神性は身近なものであって、いつ自分がそちら側に転んでもおかしくないよなぁと思った。
三島特有の逆説がユーモラスでもあり、皮肉が効いている。