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勇気ある自立 『プレイス・イン・ザ・ハート』
1935年、テキサス州ワクサハチー。
小さな町で、保安官の夫と二人の子と暮らす主人公エドナ(サリー・フィールド)。その幸せな暮らしは夫が銃撃され死亡したことで、一気に崩壊してしまう。
1984年製作のアメリカ映画『プレイス・イン・ザ・ハート』(ロバート・ベントン監督)は、その後のエドナの奮闘を描いて、見事な作品。
主婦であったエドナは夫の給料も家のローンも知らず、途方に暮れる。銀行への借金を返すために働かなくてはならないが、何の技術も持たず、大恐慌による不況で、誰も雇ってくれない。
そこへやって来た流れ者の黒人モーゼス(ダニー・グローバー)に食事を与えたことが、運命の転機となる。
二人で土地を耕し畑を作り、綿の種を植える。
また、銀行の貸付係に半ば強制されるように、エドナは盲目のウィル氏(ジョン・マルコヴィッチ)を下宿人とする。
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スプーンを盗んだモーゼスだったが、自分を庇ってくれたエドナと、9歳の長男フランクと幼い妹ポッサムのために、身を粉にして働く。エドナも慣れない力仕事に汗と血を流す。
モーゼスは一家にとって、無くてはならない存在になっていく。
一方、母を亡くし、兄から疎んじられたウィル氏は、「戦争で視力を失ったヒーロー」と言われたり、人々の好奇の目にさらされたりすることに嫌気がさしていた。「ただ静かに暮らしたいだけだ。」「私に構わないでくれ。」と、心を閉ざしていたが、幼いポッサムに頼りにされたことで、心を開き、次第に打ち解けていく。
5人が強い絆で結ばれ、一つの家族のようになっていく過程が素晴らしい!! 傷を負った者同士だからこそ分かり合える優しさが、じわりと心に訴えてくる。
田舎だからといって、誰もが助け合う訳ではない。
綿の種を買いに行った時、1級品の値段で3級品を押し付けられそうになるエドナだったが、モーゼスが見破り指摘するシーンがある。
公務中に夫が殉職し、エドナは二人の子共を抱え、絶望の淵に突き落とされれる。
家のローンを支払わなければ、銀行に差し押さえられる寸前なのだ。それを知っていて援助の手を差し伸べるどころか、無知をいいことにあくどく儲けようとする。
もっと恐ろしいのは白人と黒人の分断を煽り、黒人をリンチして木に吊り下げる者達がいることだ。ビリー・ホリデイの『奇妙な果実』という歌そのままに・・・。彼等はナチスに踊らされていた人々と同じだ。
現代でも、悪意ある人々は「難民のせいで治安が悪くなった」というデマを拡散したり、少数派に冷たい目を向けたりしている。自分の不満を他者で晴らそうとする人達による事件が引っ切り無しに起きている。
人間の愚かさ、浅はかさにゾッとする。
気をつけなければならないのは私自身、傍観者になってしまうことだ。
愛が無ければ、人間は妬み憎しみ合う動物にすぎない。
町を襲った、ニュース映像のようにリアルな竜巻のシーンや、子供達までが手伝って、朝から晩まで綿花を摘む苛酷なシーンは脳裏に焼き付いている。
でも、私が好きなのは、町の数少ない娯楽である集会所でのダンスのシーンで、相手のいないエドナに9歳のフランクが、「お母さん、僕と踊って頂けますか。」と、ダンスを申し込み、二人でワルツを踊る場面。
そして、もうひとつ。台所のテーブルで語らうエドナとウィル氏の場面。
彼に「あなたはどんな容姿の人ですか。」と問われた彼女は恥ずかしそうな表情で語る。「私は茶色の長い髪を結っているわ。目も茶色よ。母は綺麗な青い目をしていたの。姉も青い瞳よ。でも、私は茶色なの。それから、前歯が少し出ているわ。」
このシーンの打ち解けた二人の表情がとてもいい。
三人の俳優の演技が素晴らしい!
サリー・フィールドはこういうガッツのある女性の役は似合い過ぎるほど似合うし、ダニー・グローバーはジャン・バルジャンを思わせる役柄に説得力を持たせている。
そして、ジョン・マルコヴィッチの演技と思わせない演技が見事!
硬く閉ざしていた心の扉が開く瞬間の表情。竜巻から自分の天使を救おうとする場面。KKKからモーゼスを救出する場面。
「エドナさん、あなたは料理が下手だ。今日から私が作ります。」と言う時のすました表情に、優しさを潜ませている。主演も助演もできる、アメリカの名優の一人だ。
ラストシーン。教会のミサの場面での牧師の説教は『コリントの信徒への手紙』第13章だ。
「愛は忍耐強く 情け深い
愛は妬まず 奢らない
愛は決して滅びない」
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