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映画の黎明期と邦題の変遷[後編]

ここで、”サスペンスの神様”アルフレッド・ヒッチコック作品をチェック。
初期の映画はよりサスペンスフルに改題されている。
”The Lady Vanishes(貴婦人消滅)” は『バルカン超特急』(1938)、
”Young And Innocent(若さと無知)” は『第3逃亡者』(1937)、
”Spellbound"(魅了された、うっとりした)” は『白い恐怖』(1945)という具合に。
だが、”Shadow of a Doubt"『疑惑の影』(1943)、”Rear Window”『裏窓』(1954)、”The Man Who Knew Too Much"『知りすぎていた男』(1956)と、原題の直訳になっていく。”The Birds”『鳥』(1963)や "Psycho"『サイコ』(1960)は一昔前だったらどうなっていただろう。
私は "Vertigo"を調べ、『めまい』(1958)という医学用語だと知った。覚えなくていいのに覚えてしまった。因みに、ヒッチコック作品57本中、39本を観ている。

次は誰でも知っている ”007シリーズ”について。
初公開当時は原題とは全く違う日本語タイトルが付けられていた。
第1作 ”ドクター・ノオ” は『007は殺しの番号』(1962)、第2作 ”ロシアより愛をこめて” は『007危機一発』(1963)として封切られた。「危機一発」は造語で、正しくは「危機一髪」なのだが、宣伝部のM氏は弾丸のイメージで思いついたのだろう。以来、間違う人が続出。
知る人ぞ知るお話。東京神田で独自のブックカバーをかける書店があり、店主さんは『ドクター・ノオ』を「医者はいらない」と訳してカバーに書き、家庭医学のコーナーに置いたそうだ。オー・ノー!

『ドクター・ノオ』とは「ノオ博士」のことだ。『ドクター・ストレンジラブ』だって、「ストレンジラブ博士」と訳すのが正しい。それを『博士の異常な愛情』(1964)と訳してしまった。60年前の映画だが今もそのままで、”007” のように変更されてはいない。

たいていは原題の日本語訳が良いと思うけれど、原題がイマイチで邦題の方が上出来な場合もある。
”Up in the Air" より『マイレージ・マイライフ』(2009)の方が主人公と彼の人生がよく表現されている。”The Fast & Furious" より『ワイルドスピード』(2001)の方がスカッとして覚えやすい。”Tangled" より『塔の上のラプンツェル』(2010)、”The Danish Girl" より『リリーのすべて』(2015)が断然いい。
”Whiplash" は「ムチ打ち症」という意味で、ジャズの有名な曲らしい。でも、それじゃあ伝わらない。『セッション』(2014)はピッタリ。
”Be Kind Rewind" 。え? 意味不明。調べたら、ビデオテープ返却時の「巻き戻しておいてくださると助かります」という決まり文句なんだって。『僕らのミライへ逆回転』(2008)は最高!

ダメな邦題として浮かぶのは、『暴力脱獄』(1967)。主人公は権威に対して反抗的だが知的な男で、暴力は決して振るわない。”Cool Hand Luke" の方がカッコイイし、リズムがいい。
『遠い空の向こうに』(1999)の原題は "October Sky"。これは" Rocket Boys" のアナグラム(つづりの並び替え)なのだ。「ロケット・ボーイズ」が良かったと思う。とてもいい映画なのに可哀そう。
『喜望峰の風に乗せて』(2017)も伝わらない。" The Mercy(慈悲)” の重みは何処へいった?

最近の映画では、長いカタカナもあるけれど、『哀れなるものたち』や『落下の解剖学』、『関心領域』など、日本語、特に漢字を使った表現が印象に残った。
これからも洋画のタイトルから目が離せない。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

『シザーハンズ』より、人造人間エドワード





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