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アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル

トーニャ・ハーディングの激動の半生を描いた作品。
トーニャの母親を演じたアリソン・ジャネイがオスカーを獲った作品でもあります。
事件当時23歳と知って、「まじかよ…」と驚き、ラストの演出に少し涙してしまいます。

事件を知らない私

私はリレハンメル・オリンピックも記憶にないし、トーニャ・ハーディングも、ナンシー・ケリガン襲撃事件も存在を知りませんでした。
(公開が決まってからWikipediaで見た程度)
こういうノンフィクションものは、結末が分かっているからこそ演出にかなり左右されると思うのですが、この作品はかなり凝った方法でドラマチックに見せつつも、「彼らの言う事実」に寄り添った描き方だった様に思います。

第四の壁

最近よくワードとして挙がる様になった「第四の壁」の存在。
詳しくはWikipediaにて。

最近でいうと「デッドプール」は第四の壁を越えてくる作品として象徴的かも?あとは「マネーショート 華麗なる大逆転」とか。
一歩間違うとお腹いっぱいになっちゃうこの演出を、ノンフィクションでやるというのが挑戦的だと思います。
劇中に挿入されるそれぞれの登場人物のインタビュー映像の存在もあって、彼らの話を聞いている感が強くなる気がします。

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あまりにショッキングで激動すぎるトーニャ・ハーディングの半生は、そのまま真っ直ぐに描いていたら辛くて見れなかったかもしれないなあと思ったり。

マーゴット・ロビーってこんな凄かったっけ?

ディカプリオの「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の時も、主人公の妻役で体当たり演技でしたが、今回もすごかった!!!
狂気と絶望の狭間でグラグラ揺れながらも「スケートだけは」という情熱が常に燃えている彼女の姿は美しかったです。

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ちょっとハスキーな声と、ギッ!と睨みつける様な大きな目がストーリーによく合っていました。
あの顔でニッコリ笑うと怖いんだ、これがまた…

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(名シーン。笑)

同じ笑顔でも、後半のこのシーンは見ているだけのこちらまで、ボロボロと泣いてしまいました。

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ミニマルで言葉も演出もほとんどないこの静かなシーン、とても良かった!
そしてその後、滑走シーンはほぼないまま終わるというのも良い…
素人考えだと盛大に見せたくなるところですが、実際8位だったいうのもあるし、その先の彼女のスケート人生における決定的な転落を象徴する様で…

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母親、ラヴォナ・ハーディング

強烈な母親、ラヴォナを演じたのはアリソン・ジャネイ。

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すんごかったですね…
リンクの上でタバコをくわえる姿がヤバイ人以外の何者でもない。
ラストまで一貫して優しさを感じられない人でしたが、娘のトーニャの事は愛していたんでしょうか…
現在も絶縁状態だという事ですが、和解する事は…なさそうですかね。(ラヴォナもトーニャも、気が強そうだし。笑)
娘を愛していない母親なんていない、という月並みな言葉がありますがラヴォナの場合はそれさえも当てはまらない気がして怖いです。
後半、トーニャを励ましにきたと思ったらテープレコーダーを持っていた姿にはゾッとしました。
どんな事があっても、トーニャを殴ろうが蹴ろうか、試合の中継を食い入る様に見る姿は、母親としての愛があったからこそ…と思いたい。
演じたアリソン・ジャネイはこの作品で助演女優賞を受賞。
映画を見ると、超納得の演技です。
幼少期のトーニャへのDVは演技だとわかっていても強烈…

あまりに強烈だったのでホッコリする写真をどうぞ…

ああ、安心する。笑

一緒に写っている、マッケンナ・グレイス(トーニャの幼少期役)もとても印象的で素敵な演技でした!
この子も基本、うつろな目をしている印象なのですが、父が去っていく時の涙は見ているこちらも辛くなる叫びでした…

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夫、ジェフのダメっぷり

結婚して、別れて、またひっついて、を繰り返すダメなDV男のジェフを演じたのはセバスチャン・スタン。

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私はアベンジャーズシリーズを見ていないので、セバスチャン・スタンの事はほとんど知らなくて、割とまっさらな気持ちで「ジェフ」として彼の事を見る事ができました。
まあ、これがまたダメな男で…暴力はふるうし、仕事している様子もあんまりないし、トーニャが去るとストーカーじみた追いかけ方をするし、しまいには拳銃を持ち出してトーニャに向けるという奇行…
なんでトーニャは彼と離れなかったんだろう?
離婚したあの時、そのまま離れたままでいられたらこんな事件は起きなかったかもしれないのに…と思うけど、これこそが共依存であり、幼い頃から暴力と共に育ったトーニャは「殴られて当然」という劇中の言葉通り、自分に暴力をふるうジェフの事を必要な存在だと捉えていたのかなあ…と思ったり…歪んでいるけど、これもまた1つの愛の形なんでしょうか。

お前が暴走しなければ…ショーンの存在

ジェフの友人でいわゆる「自宅警備員」なショーンは、ちょっとアブナイ人である事ない事、色々言ったりしちゃう人な訳ですね。今回の襲撃事件も、劇中では「暴走したショーンによる余計な事」という風に描かれる訳ですが…事実は果たして?(実際の裁判では「トーニャは襲撃事件を知っていた」と言っているそうで…)
これが事実だとしたら、トーニャは他人に人生を潰された事になってしまう。しかも、自己顕示欲を満たす為に嘘をついてしまう様な人によって。
それって、あんまりやん…
ショーンのキャラクターはちょっと盛ってるんだろうなと思って見ていたのですが、エンドロールで流れる本人映像で変わらず電波な事を言っているのを見て、衝撃を受けました…マジなんかよ…
演じた、ポール・ウォルター・ハウザーは「ブラック・クランズマン」でも良いキャラクターでしたし、「リチャード・ジュエル」では主演なんですよね。この作品を見るまでは全然知らなかったのですが、とても印象的で素敵な役者さんだと思います。

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この姿にイラッとするという事は、素晴らしい演技力でイラつかせてくれているという事…頭ではわかっているんですが、やっぱりイラッとする!笑

その他のキャラクターも魅力的

トーニャを最後まで見捨てずコーチした、ダイアンを演じたジュリアンヌ・ニコルソン。

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品があって、でも冷血さも感じる様な不思議な印象の彼女。きっと優しくて母性に溢れた人だったんだと思う…

一時期コーチをしていたドディを演じたボヤナ・ノヴァコヴィッチ。登場シーンは少なかったですが「スケートのコーチ」感があって印象的でした。

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(単純に顔が好みという説も…笑)

ナンシー・ケリガンを演じたケイトリン・カーヴァーも可愛かったです。

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実はトーニャと仲が良かったというのも事実なら泣ける…友人であり、ライバルであり、そのまま良い関係でいれたら良かったのにね…
劇中「完璧なアメリカン・ファミリーを見せて欲しい」というセリフがありましたが、ナンシー・ケリガン本人も裕福な家庭の生まれではなく、苦労した経緯があるのだとか。

ラストシーンの美しさ

映画のラストシーンは、トーニャがボクサーに転向したところが描かれます。
正直、フィクション映画だったら、フィギュアスケーターがボクサーに転向なんて話盛りすぎ…と思うところですが、事実なんだからこれまたすごい。
そしてエンドロールまでの描き方が何より好きで。

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トーニャらしいというか、ここまでで描かれたトーニャ・ハーディングを凝縮した様なワンシーンでとっても好みでした。
エンディング曲に流れるスージー・アンド・ザ・バンシーズの「Passenger」もまた良いんだ…

イギー・ポップ版じゃなくて、女性ボーカルのこちらを使ったというのもトーニャ・ハーディングに寄り添った選曲の様な気がしてグッときたり。
この曲に合わせて、本物のトーニャのスケーティング映像が見れるのも魅力的でした。

楽しくエンターテインメント性のある見せ方で、一気に楽しめてしまう作品ではありますが、実際はたくさんの想いが詰まりまくった映画だなあと思いました。繰り返し見たくなる作品です。


アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル

I, Tonya
2017年 アメリカ
監督:クレイグ・ギレスピー
出演:マーゴット・ロビー、セバスチャン・スタン、アリソン・ジャネイ、ジュリアンヌ・ニコルソン、ポール・ウォルター・ハウザー、他


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ぽん
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