【第124回】ディズニー映画「Mr. インクレディブル」のシーンから使える英語表現をいくつか掘り下げてみました。
I’ve been nice, I’ve stood for photos, signed every scrap of paperyou pushed at me
pushed at ... の部分がポイントとなる語句です。日本語字幕は「サインもしたのに」ですが、you pushed at me がevery scrap of paper なぜかかっていくので、直訳は「私は、あなたが私に押し付けたすべての紙切れにサインした」です。
push at ... の “at” は「一点を目がけて」というのが本来のイメージです。ですから「私(ボブ)を目がけて押し付けてきた(紙切れ)」ですね。インクレディボーイがボブに紙切れを無造作に押し付けてサインをねだっているのがイメージできます。
at だけでなく、前置詞のコアーを理解することは、より深くその文を解釈するのに役立つことが多いです。
女性のカバンの中身を物色する男をボブが見つけるシーンです。
you can tell a lot about a woman by the contents of her purse,
この You can tell a lot about … の文を取り上げたのは“英借文”として利用できると思ったからです。“英借文”というのは、”借りてきた“文の一部を変えることで、いろんな意味の英文を作ることです。
この文ではyou can tell a lot about ( ) by < >. の ( ) と < > をいろいろ変えるのです。意味は、「< > を見れば( )のことがよくわかる」です。
このセリフの you can tell a lot about a woman by the contents of her purse は、「バッグの中身 (contents) を見れば女性についてよくわかる」です。
You can tell a lot about a family by the contents of their refrigerator. 「冷蔵庫の中身を見れば、その家庭のことがよくわかる」
You can tell a lot about a culture by its cuisine. 「料理でその国の文化がよくわかる」
You can tell a lot about a company by the condition of its restrooms. 「トイレの状態を見れば、その会社のことがよくわかる」
最後のトイレについての文はよく耳にするのではないでしょうか。ぜひいろいろと“英借文”を試してみて下さい。
窃盗犯をBob と Elasticgirl のどっちがやっつけたのか揉める場面です。Elastigirl というのは女スーパーヒーローで将来ボブと結婚する相手です。
① I just took him out for you. / you took him out.
日本語字幕の通り「彼をやっつけた」という意味があります。
take … out は「…を連れ出す」なので「私は彼を連れ出した」という意味にもなるのですが、状況によっては「やっつける」という意味にもなります。
店内などから外に連れ出してやっつける場面をドラマなどで見たことがあると思うので、少し”乱暴“な推理ですが、「外に連れ出す」 = 「やっつける」は結びつきやすいのではないでしょうか。
② His attention was on me.
「彼の視線は私に注がれていた」で、誰かの注意が私に“ピタッと” 注がれていた時に使われます。
あえて”ピタッと“と書いたのは on が「接触」を表すからです。彼の注意がピタッと私にくっついているイメージです。
If your teacher is explaining something, your attention should be on him / her. 「先生が何か説明しているときは、注意を先生に向けるべきだ」
でも、日本語字幕の「スキをついただけ」も素晴らしいです。窃盗犯の注意がボブに向けられている間に、エラスティガールがその窃盗犯をやっつけたので、確かに”スキをついて“やっつけたというのはその通りです。
A simple thank you will suffice.
suffice は be enough の意味なので「単にありがとうで十分だよ」が直訳です。
そこから2つの意味が出てくるのですが、一つ目がこのセリフのように「(「ありがとう」も言えないの?)「ありがとう」だけ言えばいいのよ」と、相手に感謝の言葉を“催促“するケースです。
何かをもらった時に何も言わない子供に親が、「ありがとうは?」と注意するのを聞いたことがあると思いますが、これも A simple thank you will suffice. ですね。
もう一つは、「“ありがとう” だけでいい」、すなわち、過度に感謝の意を伝えたり、お返しなどをしたりする人に対して「ありがとうだけで十分なのよ」という意味合いでも使います。
この過度に思える感謝の気持ちというのは日本ではよくあることではないでしょうか。“お返し”というものですね。
この“お返し”に関して、私の体験で一つ忘れられないことがあります。私の家の前に住んでいる老夫婦が「この腕時計を買ったのですが、そこに刻まれた英語がわからないので教えてくれませんか?」とお願いにやってやってきました。英語で書かれている、というのもあるのですが、字が小さすぎてわからなかったようです。
虫眼鏡で拡大して何とかわかったので、時計を返しにいきました。その時、とてもその老夫婦に感謝されたのですが、驚いたのは後日ケーキを持って私の家に現れたことでした。
「先日は本当にありがとうございました」と言ってそのケーキを私にくれたのです。その時の私の気持ちがまさしく “A simple thank you will suffice.” でした。
時計の英語を読み取るのは虫眼鏡を使ったぐらいで、それ以外は難しいことはなかったので本当にびっくりしました。
でもこの“気遣い”が日本の良さの一つでもあると思います。近年は徐々にこの“気遣い”が薄れていくようにに感じて、複雑な気持ちになります…。