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映画『ゴールデンカムイ』

制作年:2024年
制作地:日本
監督:久保茂昭
原作:野田サトル
上映時間:128分
視聴日:2024年2月18日

あらすじ

日露戦争においてもっとも過酷な戦場だった二百三高地。
何度も死線をくぐり抜け生還した、顔の傷が強烈なインパクトを与える「不死身の杉本」
アイヌから強奪した金塊の地図を手に入れるべく、雪山の中を彷徨っているとき、野生の熊に襲われる。
助けてくれたのはアイヌの少女、アシㇼパ
彼女の智慧を借りながら、金塊を探すが、金塊を探しているのは、杉本だけではなかった。


感想

全体としてはバトル続きのアクション映画なんですが。
私はアイヌ民俗に惹かれて観に行きました。

キャラクター設定がすごい。
鬼のように強いけれど、情にほだされやすい杉本。
大の男たちにもヒグマにもひるまない、アシㇼパ。
石鹸を塗ったぬるぬるの身体で窓の柵をくぐり抜ける、脱獄囚白石。
額に砲弾を受け、脳みそがときどき流れ出す第7師団の中尉、鶴見。
元新撰組の生き残り、土方歳三。

冒頭の二百三高地の戦闘の迫力。

アシㇼパの危機には疾走してくる、最後のエゾオオカミ、妖精のように美しい純白のレタラ。

そして、おそらく映画を見た方はどなたも絶賛されていると思います、北海道の冬景色の、キリッと身が引き締まるような神々しい美しさ。

出典:『ゴールデンカムイ』公式webサイト

見せ場は金塊をめぐる男たちのアクション、でしょうか。
コミックが原作の映画には興味がないかな、と思いつつ誘った夫が「最近みた映画の中で一番いい」と言っていました。

私としては、もう少しアイヌの道具をじっくり見せてもらいたかったかも。
いえ、単なる一道具ファンの願望で、製作にケチをつけているわけではありません。


カムイとは

「カムイ」の発音のストレスは、「カ」ではなくて「ム」だそうです。
『ゴールデンカムイ』でアイヌ語を監修された、千葉大学名誉教授・言語学者・中川裕先生がおっしゃっていました。

「カムイ」とは、森羅万象のこと。
家の炉には「アペフチカムイ」(火の姥神)
宝物棚には「チセコㇿカムイ」(家の守り神)
水くみ場には「ワッカウㇱカムイ」(水神)
山の中には「シㇼコㇿカムイ」(大地の神)
人間は神の化身である動物を迎えることで、肉や毛皮を頂き、森の神の化身である大木から、実や材木を頂く。
一方で、人間に仇をなすカムイもいます。
パコㇿカムイ(疱瘡神)や、人間を襲った熊(ウェンカムイ)は悪い神です。

イオマンテ

映画の中で、不死身の杉本が、熊の穴の中から子熊を連れてきます。
”アシㇼパさんに食べられちゃう”と懐の中に隠しますが、見つかってしまいました。
しかしアシㇼパは「子熊は食べない」と言います。
食べないのか、と安心していると、育ててから食べると言う。
なんだ、結局食べるのか。

みんなで大切に育て、犬ほどの大きさになると柵を作って中で飼う。翌年の冬に、神の国に送る儀式をする。
村の長老が祈りを捧げ、ロープで繋いだ熊に花矢を射る。女性は歌をうたって別れを惜しむ。本物の矢を射ると解体し、頭部を祭壇に飾り、団子や酒を備える。
これがイオマンテという儀式だそうです。

出典:wikipedia
大英博物館所蔵の絵を平沢屏山が模写


民具

東京国立博物館で撮ってきた写真をご紹介します。

マキリ(小刀) 19世紀 木製・鹿角製・鉄製
用途は広く、狩猟には欠かせない。

筆者撮影


飾矢筒 19世紀 木製
イオマンテなどの儀礼に用いる。

筆者撮影


鰈型垂飾具 19世紀 木製
ペンダントのようなもの?
狩猟・採集・漁撈を生業としていたアイヌ人の、海の恵みに対する思いが込められています。

筆者撮影


<樹皮衣> 19世紀 アットゥシ地
アットゥシはアイヌの代表的な衣服で、主にオヒョウニレ※という落葉広葉樹の葉を、織って作ります。
アイヌではリアルに作られたものは魂をもって悪さをすると信じられているため、渦巻きや十字などの幾何学模様のパターンが多く、下の模様はアイウシ紋という棘状の模様を連続して刺繍しています。
アットゥシは水に強く、和人にも好まれました。北海道以外でも見つかっているので、交易品だったことがわかります。

筆者撮影

オヒョウニレ

出典:北海道森林管理局


<脚絆> 19世紀 アットゥシ地・木綿製
アイヌ語で脚絆のことを、<ホシ>と言います。
アイヌにはズボンがないので、スネを守るため、男女ともよくホシをつけていました。

筆者撮影


<前掛け> 19世紀 前掛け アットゥシ地
これをつけてオハウ(汁)を煮たり、チタタプチタタプとお肉を刻んだりしたのでしょうか。

筆者撮影


<コンチ(頭巾)> 19世紀 アットゥシ地
冬に狩りへ行くときに被ります。形まですっぽり。

筆者撮影



先住民の定義とは?

アイヌは日本の先住民ではない、という説もあります。
縄文人よりあとに発生しているので、日本における先住民ではない、つまり日本における先住民は縄文人である、という理論。
古代史的に言えばそうでしょう。

ですが、今日、国際的概念で先住民と言えば、「現在の国家によって父祖の土地を植民地化されたものたちの子孫」となっているそうです。

「先住民族とは、一地域に、歴史的に国家の当地が及ぶ前から、国家を構成する多数民族と異なる文化とアイデンティティを持つ民俗として居住し、その後、その意にかかわらず、この多数民俗の支配を受けながらも、なお独自の文化とアイデンティティを喪失することなく、同地域に居住している民俗である」と定義しています。

出典:坂田美奈子著『先住民アイヌはどんな歴史を歩んできたか』 

つまり近代史上生まれた概念なんですね。

映画『セデックバレ』で、日本が台湾の先住民にしてきたことを、アイヌにもしてきたと思うとわかりやすい。

しかし、日本政府の見解では「国連において先住民の定義は確定していない」との由。
ただ、”国連から、アイヌを先住民として認めるように言われているのは承知しているし、今後アイヌ文化を振興させるのは大事ですよね”、と国会で答弁しています。(衆議院HPより)。

アイヌの人たちは、暮らしやすくなっているのかな。


カバー写真:『ゴールデンカムイ』公式webサイト

<参考資料>
『ゴールデンカムイ』公式webサイト
https://kamuy-movie.com/

坂田美奈子著『先住民アイヌはどんな歴史を歩んできたか』 
清水書院 2018年

瀬川拓郎監修『1時間でわかるアイヌの文化と歴史』 
宝島社新書 2019年

農林水産省 林野庁 北海道森林管理局
https://www.rinya.maff.go.jp/hokkaido/komagatake_fc/guide/20_ohyou.html

文化遺産オンライン『アットゥシ(樹皮衣)』
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/508522

衆議院HP 「国連の先住民族権利宣言を受けての我が国政府の取り組みに関する第三回質問主意書」 提出者 鈴木宗男 平成20年
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a169106.htm

上記への答弁はURLを貼れなかったので、
ページ右上の「答弁本文(PDF)へ」をクリックしてください。


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