「縄文ポシェット」なんてお茶の子さいさい?~じいちゃんの小さな博物記⑬
秋の七草のひとつ、クズ。長くのびるツルをむかしはひも代わりにもしたようで、アケビのつるよりも使い勝手が良さそう! そこで、縄文人がつくったという「縄文ポシェット」を編もうと考えた谷本さん。野外でつるをくねくねさせると編みやすい感じなのに、実際に編もうとすると思うようにならず……。さて、どんなふうにクズのツルを手なずけたのでしょうか。
『草木とみた夢 牧野富太郎ものがたり』(出版ワークス)、『週末ナチュラリストのすすめ 』(岩波科学ライブラリー)などの著者、谷本雄治さんの「じいちゃんの小さな博物記」第13回をお届けします。
「秋の七草、いくつ知ってる?」
「クズでしょ、ススキでしょ……えーっと、あと何だっけ?」
虫が好きな孫は、クズの花をえさにするウラギンシジミやウラナミシジミというチョウを何度か飼った。ススキ(尾花)は月見で覚えた。だが、そこまでだ。小学4年では無理もない。
自分でも忘れないように復習しておくと、残りの七草はハギ、オミナエシ、フジバカマ、ナデシコ、キキョウ(朝顔)だ。
クズの利用価値は高い。新芽は山菜、つるは葛布、根は葛湯や葛根湯の原料になる。
「そうだ。クズのムカデを作るか?」
「えーっ、ムカデ?」
運動靴に入っていたムカデにかまれたことがあるので警戒する。
「ガブッとかみつくぞー!」
冗談を言いながら、葉柄で大小のムカデを編んだ。葉柄は葉っぱと茎との間にある柄。クズの葉柄は長いので編みやすい。まずまずの出来具合だ。かわいらしさと迫力を兼ね備えている。
編み方の要領は、クローバーの花かんむりと変わらない。娘が幼いころ編んでベランダに置いたら、ドバトがそれを巣にして卵を産み、ひながかえった。うそのような、そんなホントの話まで思い出した。
クズのムカデがうまくいったので、小さなかばんを作りたくなった。青森県の三内丸山遺跡で発掘された「縄文ポシェット」はヒノキ科植物の樹皮製らしいが、クズのつるでもできるのではないか。
「縄文ポシェット?」
じいちゃんとポシェットが結びつかないようだが、縄文人に編めたのだ、令和の時代に生きる未来人にできないわけがない。アケビやフジのつるで、ざっくりとしたかごなら編んだことがある。似たようなものだろう。
かごを編むといっても、つるの間に別のつるをくぐらせるだけだ。単純な作業の繰り返しでしかないから、難しくはない。
散歩がてら、若いつるを集めた。水分が多ければ柔らかく、編みやすいはずだ。
ところが意に反して、ポキッと折れる。それならと株元近くの丈夫なつるを選んで試したが、こんどはポキッではなく、ボキッと折れた。ボキボキ折れて、とても編めない。
いよいよ、令和人の知恵の見せどころだ。つるの束を一晩、水につけた。
結果は同じだった。縄文人にできたことが、なかなかできない。はてさて、どうしたものか……。
考えた末、採集したままのつるで編むのはあきらめた。木づちで軽く叩きつぶし、ふたつに裂いたものを使って編む作戦に出た。
それが良かった。底の部分は、簡単に編めた。それから先はつるを垂直に立たせて、同じように組んでいけばいいのだ。
と思ったのだが、そこにまた障害があった。つるが乱れた髪のようになって、どれにどれを通せばいいのかわからない。しかたなく、とにかく四角いかばんのようになればいいと、適当につる同士をからませた。
格闘すること数時間。見た目にはなんとか、それっぽいものができた。
クズのつるでも、縄文ポシェットもどきはできる。だけど、縄文人にはかなわない。
クズは、いくらでもある。こうなったらあとは、経験だけだ。もっと練習して、縄文人に笑われないようにがんばるぞー!