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衝撃のラストをあなたは受け止められるか!? 背筋ぞくぞくのデビュー作を語る!

2024年10月、ちょっと変わった絵本が登場しました。その名も『ふしぎぞくぞく ぞくぞくかぞく』。今回がデビュー作となった作者のお二人に、刊行記念インタビューをしました! (聞き手:編集担当 小堺加奈子)

鮮やかな色彩のなか、ほのかにただよう不気味さ……

●内容

「きょうは どんなひだったの?」そう聞かれたおとうさんは、子どもたちに一日のできごとを話しはじめました。「そらをみあげたら おおきな くも」「とちゅう バナナの かわ があって……」 ふつうの一日と思いきや、あれれ!  ふたりの想像はちょっとずれていて――。一体どっちが本当なの!?  驚きのラストに背筋がぞくぞく!  グラフィカルで鮮やかなイラストとともに同音異義語を楽しむ言葉遊び絵本。

●作者プロフィール

お話 大林大
二児の父
やってきたこと:500本以上のCM企画・制作。
最近始めたこと:絵本制作。
苦手なこと:子供が完食できる野菜料理づくり。
やってみたいこと:子供が笑って泣ける絵本・映画・CM製作。

絵 かとうひろゆき
アートディレクター/グラフィックデザイナー
東京造形大学グラフィックデザイン学科卒業。
デザインの観点から絵本の世界を覗いています。
想像することの面白さ、深さを追及しています。


仕事仲間だから出せた絵本

ーー本作のお話を手掛けた大林大さんと、絵のかとうひろゆきさんは、もともとお仕事仲間ということですが、どういったご関係ですか?

大林大【以下(大林)】:広告を何回も一緒につくってきました。例えば京都のローカル鉄道の仕事では僕がコンセプトやストーリーをつくり、かとうさんがアートディレクションをして。その中で、『‘Mist’ery Train』というプロモーション絵本をつくったんですよ。その土地の魅力を伝える観光誘致が目的ですが、絵本という形で表現できたのは、今まで手掛けてきた広告の中でも印象的でしたね。この絵本は、韓国の国際ナミ・コンクールでゴールデンアイランド賞を受賞しました。これがきっかけで、絵本づくりに興味が出た、というのはありますね。

闇、霧、光の色彩と構図が印象的な表紙「‘Mist’ery Train」

ーー普段から広告業界でタッグを組まれてるお二人なんですね。そんなお二人が今回出された絵本の内容について、教えてください!

(大林):パパの一日の話を、こどもたち二人がずっと勘違いして聞き続ける、同音異義語の絵本です。画面の左側ではお姉ちゃんの想像、右側は弟の想像で展開していくんですが、お姉ちゃんの想像は、いわゆる真っ当な想像で、弟の想像はぶっとんでいる。

「そらを みあげたら おおきな おおきな くも」で、二人が想像したのは……

世の中に言葉遊びの絵本はいっぱいあるので、今までにないものを作ろうと思って。まず最初にフリーハンドでお話を10個ほど考えたんだけど、どれもいまいちで。絵本でしか表現できないものを書かなければと思って。ふと、画面の右と左で、一人の話をふたりが勘違いして思い描くのはおもしろいなと。

ーーーかとうさんも、その10個のお話はご覧になりましたか?

かとうひろゆき【以下:(かとう)】:見ましたね。その中の2,3は直感で面白かったので伝えました。そのうちの一つが、今回の絵本のもとになっているお話で。画面の左右で別のお話が展開する構成は、いわゆる王道とは違うフォーマットのものが作れる気がしたんです。

(大林):子どもが小さいときに「昨日夜中に人形が起こしにきて遊んだ」と真顔で言っていたんです。子どもの世界って、リアルと幻想が混在しているのかもしれないと思って。お姉ちゃんと弟を登場させて、弟にはファンタジックなものが見え続けている、そんな展開もいいかもしれないなあと思ったんですよ。それと、ちょっとお笑いっぽいというか、左が普通で右がボケ。絵本でお笑いのボケのようなことができたら面白いし、読んでいる子どもがツッコミながら読んでくれたらいいなと。

同音異義語の2つの世界を電車が走るという案もあった
初期のころのラフ

ぞくぞくする絵本だからこそ、明るい色で

ーー絵本の中の弟の想像は、ぶっとんでいますもんね。まさに「おいおい」とツッコミながら見てしまいます。面白いと言えば、この絵本は非常に鮮やかな色使いも特徴的です。

空から雹(ひょう)や豹(ひょう)が降ってくる場面はまるでテキスタイルデザインのよう

(かとう):色に関しては、自分の子どものころの記憶が結構あって、鮮やかな色のクレヨンやクレパスで絵を描いたり、迷路を描いていました。強い色に惹かれる傾向があったんです。子どもの頃の自分には響いたんでしょうね。だから、この絵本も、鮮やかな色だけで表現をしてみたらどうなるか見てみたいなと思って。お話の内容がちょっと怖いので、それと正反対の色で行くと斬新な見え方になるんじゃないかなという意図もありました。


見本を手にしたかとうひろゆきさん(左)と大林大さん(右)

ーーー幼いころの楽しい記憶も絵本づくりの大きな要素になっていたんですね。逆に苦労したところはありますか?

(大林):常に分厚い辞書とにらめっこでしたね。同音異義語自体はいっぱいありますけど、自分の子どもの頃を思い出しながら、子どもにも伝わり、面白いものを選ぶのが大変で。絵本に出てくる「おおーかみがー!」は、ぼくの子ども時代のギャグでした(笑)。もうひとつは、今までの仕事の経験上、左脳的にロジカルに作ったCMは爆発しない、という経験値があって。何かうねりみたいなものを出したくて苦労しました。最後はそれが絵本に出せたと思います。左脳と右脳の対決で、いいものができたなと!

「おおーかみが!」の場面

(かとう):『‘Mist’ery Train』はプロモーションツールとしてのアートブックでしたが、今回は、左脳的に計算してつくるというよりは、直感みたいのを大事にしながら、あとから整えていくというやり方でしたね。スケッチブックにラフを描いて、あとはいわゆるイラスト+グラフィックデザインの要素を融合させたいと思って。イラストはシンプルな図形だけでつくれる工夫をしました。子どもたちをターゲットにした広告は今までやった記憶がないので、子どもの感性にささるかどうか、そこは気を使ったところで、普段の仕事とは違う感覚でしたね。

かとうさんのお気に入りの場面

絵本とCMづくりの違い

ーーー完成まで3年かかりました。絵本を手にしたときの感想は?

(大林):感動ですよね。ぼくはメインにCMをつくることが多いので、それが流れている瞬間は目にすることができるけれど、どうしても過ぎ去っていくものなので。実際に手に取って、これが本屋さんに置かれるんだなという実感がありました。

(かとう):普段から表現することはやっているけれど、プロダクトとして形に残るものがつくれたのは嬉しかったです。絵本は幼少期に読んで、大人になっても記憶に残るものだから、そういう早い段階から人の感情をゆさぶったり、記憶に残ったりするものに自分が関われたのは興味があったし嬉しかったですね。

ーーー改めて、この絵本の見どころを教えてください。

(大林):言葉遊びの本っていろいろあると思いますが、一貫性がなくオムニバス的な構成のものが多い中で、ひとつのストーリーにしているものはなかなかないかなと思います。物語を読みながら、言葉遊びも楽しめると自負しております! 自分が書きたいものを書く、ではなく、子どもたちが読みたいものを書きたかった。子どもに「わー、きゃー」と言ってもらいたい!という思いはありますね。絵本をそういうツールとして、途中ツッコミも入れながら、リアルな場で楽しんでもらいたいですね。

(かとう):読み進むにつれて、ふしぎな世界がどんどん広がっていき、一番最後にどんでん返しが待っている。言葉遊びだけれども、最後のその壮大などんでん返しが一番面白いと思います

ーーーたしかに、打ち合わせを重ねながら、どんでん返しのストーリーが固まったときは、私もぞくぞくぞくっとしました。刊行まで長い年月を費やし、お仕事仲間だからできた新しい挑戦を、皆様もぜひご覧ください。裏表紙まで見たら、思わずもう一度読みたくなるはずですよ。大林さん、かとうさん、今日はどうもありがとうございました!!