料理を作ることを含めて「はらぺこめがね」という仕事~『みんなのおすし』はらぺこめがね~
子どもの頃に読んでいた、あの懐かしい絵本。
今お子さんに読み聞かせている、そのおもしろいお話。
これを作ったのはどんな人だろう?
どんな生活をしているんだろう? と気になりませんか。
この連載では、そんな子どもの本の作家さんに「日常生活に欠かせないもの3つ」をテーマにお話を伺っていきます。
--------------------------------------------------
連載の第2回目は、めくってびっくりのしかけ絵本『みんなのおすし』の作者、はらぺこめがねさん。食べものの絵を担当する原田しんやさんと、キャラクターの絵の担当の関かおりさんによるご夫婦ユニットで、「食べものと人」をテーマとした絵本を数多く世に送り出しています。2019年に出版した『みんなのおすし』は、おいしそうな質感たっぷり(よだれが出ちゃう!)のおすしや、嬉しそうにほおばるお客さんの表情など、情感と大胆さが絡むイラストと、まさかと驚きが待つストーリー展開が大人気です。
そんな「はらぺこめがね」のお二人に、欠かせない3つのものを教えてもらいました。
これなくして「はらぺこめがね」はない!
新作ができると1本ずつ増える
——ユニットを結成したのが2011年なんですね。ユニークな名前です。
(原田しんや)そういえば「めがね」について、これまであまり聞かれてこなかった。実は僕ら、新作ができるたびに1本ずつめがねを買ってるんです。2人合わせて30本くらいあるかな。
(お二人のめがねコレクション。フレームの色も形も様々)
(関かおり)ジンクスというか、ご褒美みたいな感じで。ユニット結成する直前まで、私はめがねをかけてなかったんです。自分では視力はいいと思ってたし、全然似合わないと思ってたから。
(原田)ある時、友人から、ものすごく素敵なめがねやさんを教えてもらったんです。
(関)私もパッとかけてみたら「あれ?意外にいけるかも」と。そんなこと思えたのは初めてでビックリしました。同じタイミングで視力の検査をしてみたら、めちゃめちゃ強い乱視やってことも判明しました。どうりでお月さまが1個じゃなく見えてたわ〜と。そこから、めがね人生の始まりです。
(原田)ちょうどユニット名を考え始めていたところだったんです。食べものにまつわる言葉は絶対に入れたいなと思って「はらぺこめがね」はどう?って聞いたんだよね。
(関)正直「えー…っ」って思いました(笑)。私はまだコンタクトという選択肢もあるかなと思っていたから、正直、「あっ、うん…、めがね…か……」と。でもすごくいい名前だし、知り合いからも反応がよかったから、これで行こうと。最初はちょいちょい忘れてましたね、めがね。
(原田)営業的にもめがね、かけとかんとやから。出かけてしばらくして気づいて、取りに帰るってこともあったね。
(関)あったあった(笑)。
——ちなみにお店を教えていただいても…?
(原田)恵比寿の「groom(ジールーム)」です。店主の湯目(ゆめ)さんはホンマにめがねのプロフェッショナルで、僕らはもう全部、湯目さんにめがねを選んでもらっているんです。めがねはここでしか買ってないです。
(関)私たちが買うのはヴィンテージフレームのめがねで、行く前に連絡しておくと、湯目さんが数本、用意してくれているんだよね。でも1本目にかけさせてもらうのを、だいたい買っている気がする。
(原田)僕らにとっては大きな買い物だから、ちゃんとした理由がないと買えない。だから行くたびに新しい絵本を渡して、今回も来られましたって挨拶するんです。僕らがまだ何者にもなっていないときから、ずっと見てくれていて応援してくれている、ありがたい存在です。
(関)絵本が出たら、まためがねを買おうって励みになるよね。出版している絵本の数と、(めがねの)数が合わへんかったりするけどな(笑)。
(原田)グラサンは数に入れへん、とかズルしてるかも(笑)。
(右側が関さん、左側が原田さんの『みんなのおすし』刊行記念のめがね)
(お二人の長女・汐ちゃんの初めてのサングラスも湯目さんがセレクト)
シュッとしてるリキテックス、ほっこり系ホルベイン
——お二人とも、お使いの画材はアクリルガッシュです。メーカーは別のものですね。
(原田)僕はホルベインのアクリルを使っています。特徴は「シンプル」。色数もそんなに多くなくて分かりやすいし、マット感があって使いやすいんです。色を重ねやすい気もする。
(原田さん愛用のホルベインのアクリル絵の具)
(関)私はリキテックス。これが一番かっこいいし、一番いいやつや、と思って使い始めたのがきっかけですね。
(原田)俺もリキテックスはかっこいいと思う。一番シュッとしてる。ホルベインはパッケージも、ちょっとほっこりするような感じで、それも意外と気に入ってます。色の名前もホルベインは「オレンジイエロー」とか分かりやすい。リキテックスは「なんとかヒュー」とか、シュッとした名前つけよるんですよ。
(関)え!ほんまや!(爆笑)
(関さん愛用のリキテックス)
——色の揃え方も違うとか。
(原田)僕は食べものを描いているから、食べもので使う色、使いやすい色が揃っています。彼女は自分の好きな色を集めてるから、足りひん色が出てくる。
(関)最近はちゃんとリストを作るようにしていますが、何も考えずに画材を買うと、いっつも全く同じ色しか買っていないことに気づきました。苔っぽい緑とか黄土色、青が好きなんです。
——黄土色は、まさに『みんなのおすし』のカウンターの色ですね!
(関さんお気に入りの黄土色の絵具)
絵を下支えするモデリングペースト
——紙は水彩紙の「ワトソン」をよくお使いなんですね。独特の質感はどうやって出しているんですか?
(関)紙にモデリングペースト(盛り上げ剤)をペインティングナイフで塗って、ムラを作って質感を出しています。これ、大学に入る時の画塾で習ったんですよ。「これ使ったら、受かるよ〜」って。
(原田)入試時にはそれ禁止やろ(笑)。こうやって使ってる人ってあまりいないんじゃないかと思うけど…。
(関)私が通っていた画塾ではみんなやってたで。モデリングペーストに砂を入れると、もっとザラザラになってフレスコ画っぽくなるんです。自分の予期せぬ感じになるのが逆によかったりして。
(原田)食べものもこれを下地に使うとええ感じになるんです。『みんなのおすし』のときも、この技法を使って描いていました。
(モデリングペースト。左はモデリングペースト使用後に色を塗った紙)
「手」でコミュニケーションをとる絵本
——インタラクティブ(双方向的)絵本の構想から『みんなのおすし』ができたそうですね。
(原田)絵本を回したりとか、読者参加型の絵本はどうだろうかと編集者さんからお話をいただいて、その時に「しかけもできます」と聞いたんです。
(関)私たちはしかけ絵本をしたことがなかったから、ぜひチャレンジしたいと思いました。
(原田)その時、「手っておいしそうなモチーフの一つやな」って考えていたんです。おにぎり握るとか、おばあちゃんの手とか。手だけでコミュニケーションが取れる本は面白いなと考える中で、おすしの題材が出てきたんです。
(ラフと実物。すし職人と客の手元を俯瞰で描いた構図が続きます)
感覚的には、ご飯ばっかり作ってる
——このアトリエは、2世帯の小さな2階建てアパートを一棟借りして、一軒家のように使っているんですね!
(関)1階はキッチンとアトリエ、外階段を上った2階は住居スペースです。
(原田)僕らは基本的にぐうたらなので、外階段で分かれているこの物件がすごく良かった。メリハリがつくんです。
——そしてアトリエとキッチンは併設されていることが必須だったと。
(原田・関)アトリエにキッチンは必須!
(手前がアトリエ。奥のキッチンと直結しています)
(キッチンには使い込まれた道具たちがたくさん)
(原田)絵本のモチーフを自分で作ることが多いんです。お店に取材しても、理想のものをお店に求めることが難しくて。例えばお店のハンバーグも、細かいところで「ブロッコリーの形がなんかちゃうな」とかがある。逆にそれが魅力的な場合もあるんですけどね。自分で作ったら、自分の好みの形を選べますしね。
(関)料理作るの、好きだもんね。
(原田)そう、だから食べものは作るのも描くのも僕担当。
——小さなお子さんもいらっしゃって。毎日の生活はおよそどのような感じですか?
(原田)9時頃に朝ごはん、午前中は家事と事務作業して、11時半くらいに昼ごはんの支度です。12時にお昼を食べて、13時から午後の仕事。1日交代で子どもの世話をして、4時半くらいに夕飯の支度して、6時には夕飯。
(関)そして1日交代で、夜の残業をする人と子守に分業だね。
(原田)感覚的にはほとんどメシ作ってますね。でも料理を作ることを含めて「はらぺこめがね」という仕事かなと。
(関)2020年4月の緊急事態宣言があって、友達と集まったりする機会も減ったとき、(原田さんは)夜中に絵を描いてインスタライブしてたよね。
(原田)写真に撮りためていた食べものの絵を、インスタライブをしたりしながら余り紙に描いていました。
(原田さんが余り紙に描いていた絵)
(関)この人のね、描き方がおもしろいんです。
(原田)彼女の言う「面白い」って「滑稽」って意味ですよ?
(関)細い筆でちょんちょん描いてる。え、このタッチ、いる〜?って。
(原田さん愛用の細筆)
(原田)いらんのちゃう(笑)? ホンマはこれしない方が早く描き上がったかもなあって自分でも思ってるわ!
美味しそうに仕上げるぞと思って、つい細かくしてしまうから、もう少し大胆に描いてみよかな、と。それで余り紙に描いていた絵は、ちょんちょん描いている細筆を封印しました。1月に出る新刊(※佼成出版社より1月中旬発売予定)は、その延長線上のラフなテイストで描けたかな、と思います。
——ますますおいしそうな絵になっていて、お腹が空いてきました。今日はありがとうございました!
(インタビュー/柿本礼子)
(『必需品1 めがね』に出てくるgroomについて詳しくはこちら)