絵本は夢のある仕事! ―世界で活躍するクリエイティブスタジオが、絵本『3ヒントクイズえほん にんちゃくん』をつくるまで―
4月吉日。
ポプラ社からの1冊のゲーム絵本が出版されました。
その名も『3ヒントクイズえほん にんちゃくん』。
忍者にあこがれている男の子、「にんちゃくん」が主人公です。
3つのヒントにあてはまる答えを探す「3ヒントクイズ」という遊びに、にんちゃくんがおつかいに行くお話をプラスした、新感覚の絵本です。
この作品の作者は、広島を拠点に活動しているクリエイティブスタジオ、IC4DESIGN(アイシーフォーデザイン)。イラストやデザインの制作をする会社で、カンヌライオンズ2017銅賞、ADC97(N.Y.)イラストレーション部門銀賞など、広告デザインで国際的な賞を数多く受賞しているクリエイティブ集団です!
▲IC4DESIGNの仕事の一部。依頼は世界中から届きます
そんな彼らが広告の仕事と同じく力を入れているのが、絵本の制作です。代表作の『迷路探偵ピエール』(2014年/永岡書店刊)は世界30か国以上で翻訳されています。細かいタッチのイラストは、IC4DESIGNの真骨頂。社長のカミガキヒロフミさんがメインで描いています。
▲『迷路探偵ピエール』の中面。思わず見入ってしまう細かさ!
▲様々な国の『迷路探偵ピエール』。表紙デザインも少しずつ異なる。
今回は『3ヒントクイズえほん にんちゃくん』刊行を記念して、広告の世界で活躍しているみなさんがなぜ絵本をつくるのか、また最新刊の『3ヒントクイズえほん にんちゃくん』の魅力など、IC4DESIGNのみなさんに存分に語っていただきました。メンバーは代表のカミガキヒロフミさん、『にんちゃくん』の絵を担当した今村ありささん、文を担当した杉葉子さんのお三方。スタッフ同士の仲が良いのもIC4DESIGNの魅力のひとつで、言いたいことを言いあえる家族のような関係です。そのため、今回はインタビュアーを用意せず、こちらがお渡した質問カードを引きながらトークしてもらう形をとりました。IC4DESIGNのアットホームな雰囲気も伝わると嬉しいです!
―それでは、よろしくおねがいいたします。
▲左から今村さん、杉さん、カミガキさん
カミガキヒロフミさん(以下、カミガキ):じゃあ最初は…よっ!
IC4DESIGNは書籍のほかにどんな仕事をしているの?
カミガキ:うちはイラストレーションとデザインの会社です。主に広告や出版物、WEBの仕事をやっています。収入としては、広告がメインなんですよ。それとプラスで書籍をやったり、グッズのデザインをやっているって感じです。
杉葉子さん(以下、杉):カミガキが社長で、イラストメイン。細かいイラストを描く人。私と今村は普段は中四国地方の広告のデザインをしてます。
カミガキ:海外からの仕事は大体メールとかでポーンってくるんですよ。海外の仕事は15件~20件きて、1件成立するかどうか。返信してもそれっきりのところも多いので。あとはスケジュールと金額で引っかかることもあって。僕らの仕事は1か月とか、制作時間がかかるんで、スケジュールと金額があうところが実際のとこ、少ない。(うまく合えば)メールでまずやり取りをして、そのあと「じゃあ会議しましょう」ってなって、途中からオンライン会議で話を進めて行くことが多いです。
杉:「Behance」っていう、世界の人がアクセスするクリエイターのポートフォリオサイトがあって、そこでうちの作品のページをみて依頼してくれることが結構おおいですね。
カミガキ:昔はエージェントに依頼して営業してたのが、だんだんオンラインポートフォリオになって、今はどっちかっていうと「絵本を見たよ」「絵本のファンなんです」っていう方から依頼が来るようになりました。
杉:広告で描いてるイラストのタッチと、絵本のタッチが一緒なので頼みやすいのかも。ちなみに「にんちゃくん」のタッチなら(制作期間が)早い! 1週間あればすぐできるから依頼が来たら嬉しい(笑)
カミガキ:安売りするねー!!(笑)
杉:いや、すぐできるっていうのは、キャラクター1体とかね!(笑)
カミガキ:ただ、「にんちゃくん」でもう一歩新たなジャンルに1歩踏み出せた、IC4DESIGNの幅が広がったかなと思っています。
杉:そうそう。カミガキが今、嫌気がさしてるみたいなんで。細かいタッチに(笑)
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カミガキ:次のカードは、じゃーん!
IC4DESIGNにはどんなメンバーが所属しているの?
カミガキ:えっと、全員で6人です。僕が社長で、杉が最初のメンバー。あとイラストレーターの、モヒカンの松原って男と、ありさ、それからミンっていう中国人の映画監督を目指している子、それとうちのカミさんが経理をしてます。それぞれ個性的といえば個性的なメンバーで、なんとかやり繰りしてるって感じですかね(笑)
杉:なんか…私がいちばんまともと思ってるんですよ。社会人として。
一同:笑
杉:私から見ると動物園みたいな感じ。「変な動物いっぱいおるわ」って感じ(笑)
カミガキ:いやそれ、俺が言いたいわ!(笑)
▲IC4DESIGNのメンバー。たのしい雰囲気が伝わってきます
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杉:では次のカードは…
にんちゃくんの着想はどこから?
▲本作の主人公。今村さんの発案で生まれました。
今村ありささん(以下、今村):「戦隊ヒーローになりたい」とか「どうぶつになりたい」とか、「アニメのヒーローになりたい」とか、リアルじゃない夢を友達の子どもが言ってたり、自分も実際そうだったりしたんで、そういう憧れとか夢を持っている子どもを主人公にしたいなっていうのがあったのでそういうキャラクターにしました…!
カミガキ:おっ! 考えてきたね!(笑)
杉:でも、それでなんで忍者なの?
今村:日本っていうのが分かるキャラクターがいいな、と思っていたんで。
杉:なんで「日本」なの?
今村:……私が日本人なので!
一同:(笑)
杉:ありさが出してきたアイディアがもうすでに忍者になっとって、「にんちゃくん」って名前も最初から考えてあったよね。「忍者のこどもで『にんちゃくん』がいい!」って言ってて。そっからスタートしたよね。
カミガキ:主人公は本人が決めないとモチベーションが下がるんで。
杉:最初、今村が絵本が作れるってなった時点ですごいノリノリになって!
カミガキ:すっごい描きよったよね!!
杉:最初のアイディア出しの時の方が、本番を描いてる時よりもノリノリで描いてた(笑)
▲にんちゃくんアイディアメモ。最初はカタカナの「ニンチャくん」でした。
カミガキ:あと、にんちゃくんの頭巾って間違って描いたの? 忍者って頭巾の頭のほうがとがってるじゃない。
▲にんちゃくんの頭巾に注目! 他の忍者と比べると首のところがとがっています。
今村:いや、にんちゃくん自体がちょっと不器用なキャラクターで、普通の巻き方ができないんです。
一同:へー
杉:私は、実はすごいアゴが長いのかと思ってた!(笑)
一同:(笑)
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杉:次のカードは……
「ここを見てほしい!」というところは?
杉:『迷路探偵ピエール』とか、他の絵本でもそうなんですけど、私、結構うちの絵本の文章を考えているんですよ。でもうちの絵本ってイラストの引きが強すぎて、「文章を読んでないんだろうな~」って思うんです!
もちろん見てほしいところはいっぱいあるんですけど、「お話も気にしてほしいな~」って思います(笑)
一同:(笑)
杉:『迷路探偵ピエール』もそうでしょう⁉ 話はだれも読んでないでしょ?
カミガキ:読んでないよ。
一同:(笑)
杉:いやいやいや! 「一応筋書きがあるんよ!」って思うんですよ。
カミガキ:ありさは?
今村:私が描くイラストってあんまり表情が無いんですけど、一応、一人ひとり表情が変わるように描いているんで「この人はどういうこと考えてるんかな~」とか想像してもらえたらと思ってます。
カミガキ:ほんまー?
今村:ほんとに! ちょっと目線が違ったりとかしとるんです。
▲中面より。同じにんちゃくんでも、少しずつ表情が違います!
杉:イラストって、描いている人に似てくると思うんですよ。ありさはあんま表情がないけん。そういう表現になるんじゃろうね。
今村:うん。
一同:(笑)
杉:ありさに似た人いっぱいおるもん。
カミガキ:ほかには、この本の中で、前のページに出てきてたキャラクターが後ろにまた出てきてたり、よく見ると前後関係があったりするので、そういう楽しみ方もしてほしいですね。新しい発見もあるかもしれないので、2度目、3度目と読んでもらいたいなというのはあります。
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今村:次は…
お気に入りのキャラクターは?
今村:私はこの、ねこのまおちゃんがお気に入りです。
▲ねこのまおちゃん。はじめてのおつかいに行くにんちゃくんを心配して、ずっとついてきてくれます。
杉:そうなん?
今村:うん。実家のねこがモデルなんで、「こんな風だったらいいな~」と思って描いてました。ほんとに「まおちゃん」って名前です。で、杉さん家のねこもいます。
杉:最後に出てくる、おばあちゃん家のねこはうちのねこなんですよ。
▲にんちゃくんのおばあちゃんが飼っている、ねこのグリ。
杉:私のお気に入りはね…おかあさんかな?
今村:なんで?
杉:おかあさんが言葉遣いがおもしろくて。メルヘンチックなのか、おばちゃんなのか、上品なのか下品なのか分からない感じが(笑)
▲にんちゃくんのおかあさん。パンチの効いたキャラクターです
カミガキ:これ杉のおかあさんがモデルなんじゃないの? 髪型とか。
杉:そう、ありさがうちの母親をモチーフにしてくれたんですよ! 性格は違うんですけど、謎なキャラクターになってよかったなって。
今村:杉さんからは想像できない、言葉遣いの丁寧な、キラキラした目のお母さんなんですよね(笑)
杉:フフフフ…(笑) カミさんの見てほしいとこは?
カミガキ:キャラクターではないんですけど、僕が絵として好きなのは、お祭りで出てくる神楽を舞ってる人の顔! この子の釣り目で独特な感じが、イラストの表現として好きなんです。
▲神楽の人。名前のないキャラクターですが、たしかに雰囲気があります
杉:ちなみに中国地方って神楽が盛んなんですよ。広島のお祭りでも神楽団がきて、町中にいきなり櫓がくまれて上演されるんです。だから割とみんな演目を理解してて、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)になるとみんな嬉しい。地味目な演目だとみんなちょっとがっかりしてるっていう(笑)
▲作中に出てくるお祭りの場面。神楽の演目はもちろん八岐大蛇!
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杉:次は…
絵本を作る時と他の仕事との違いは?
カミガキ:俺、文句言っていい⁉
杉・今村:えー
カミガキ:絵本って、納期が広告の仕事ほどきちっと決まってないから、この人たち絵本作りたいって言うくせに、どうしてもついつい絵本のを後回しにしちゃって。進行が遅れるのが不満でした!どうぞ。言い訳してくれや(笑)
杉:それ言われるとね、言い訳のしようもないんです(笑) でもカミさんは、やってもやらなくてもいい仕事を全力でやるなっていうのはあるんです。
カミガキ:それ、褒めモード?
杉:そうです。だから、社長なんですよ!
カミガキ:(笑)
杉:にんちゃくんは、最初に(ポプラ社に)出した頃の原稿と見比べてみると、何回もやりとりを重ねていくうえで仕上がってきたなという印象がする。だんだん良くなっていったなっていう。広告の仕事って、修正すると悪くなることが結構あるんですよ(笑)もちろん良くなることもあるけど、メッセージ性が落ちてくることが多くて。だから絵本は、叩いていけばいくほど良くなっていくなって感じがしました。
▲初期のにんちゃくんのラフ。本作では登場しないキャラクターも。
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カミガキ:次は…
どんなふうにイラストを描いているの?
カミガキ:これ、ありさどう?
今村:Illustratorで描いてます。Illustratorじゃないと描けないです。手描きだと変わっちゃう。
杉:タブレットで描くんで、手描きではあるんだけど、鉛筆でノートに描くと変わるんよね。
今村:ラフは手描きです。あとは、身近な人を想像して、その人を当てはめてキャラクターにしてます。そしたら自分もそのキャラクターに愛着が湧いてくるんで、できるだけ身近な人をモデルにしてます。
カミガキ:ちゃんとした答えしよった、ありさが(笑)
今村:(笑)
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カミガキ:あと引いてないのはどれ?
杉:これか!
絵本を作るようになったきっかけは?
カミガキ:最初は描くつもりなくて。(絵本の依頼が来てたのを)断りに行ったんですよ。
杉:海外の仕事をしているときでしたよね。
カミガキ:そう、その時はアメリカの仕事をやった時で、「アメリカの仕事もっとやりたい!」って気持ちになってたので。絵本はやりたかったんですけど、まだ先でいいやと思ってて。でも断りにいった帰りに書店に寄って、編集者の人に教えてもらった絵本を見たんですよ。そしたらその本に「累計200万部突破!」って書いてあって、「すっげー!」って思った(笑)
「こんなになるんじゃったら夢があるわー」って思ったところから、よし描こう! となりました。
杉:結局金かい!(笑)
カミガキ:いや、金でもあるんだけど…(笑)
杉:作りたいものを作って生活したいってことですよね。
カミガキ:そうそうそう。よく僕の代弁をしてくれたね。
一同:(笑)
カミガキ:あとね、この時期って、前後3年含めると合計で15社くらいからオファーがあったんです。迷路の本を作りませんかっていう。絵本作家を目指す人の参考になるかなって思うのは、オファーには「周期がある」ってこと。僕に集中した時って、それ以前・以後ないんですよ。『迷路探偵ピエール』を出した後はそれに似た本を出しませんか? っていうオファーはあるんですけど、何もないところから一気にきたのは初めてでした。客層がはっきりしているジャンルだと、時代のトレンドにぴったり合った時にオファーが来やすいのかなと思いました。
杉:にんちゃくんのタッチも、ありさがずっと描いてて、グッズとかたくさん出しているんですけど、「これなんのキャラクターなん?」って聞かれることが多くて。そのホームグランドが「にんちゃくん」でできたなっていうのがあります。「にんちゃくん」とこれからの仕事が、見た人に結びついてくれるといいなと思います。
(自分たちにとって)絵本って、タッチやスタイルのホームグラウンドにもなるなーって思います。
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カードはここでおしまいです。
この後も3人のたのしいおしゃべりはしばらく続き、聞いていたこちらも何度も笑ってしまいました。広告と絵本の両輪でこれからもぐんぐん進んでいくであろうIC4DESIGNさんを、今後も大注目していきたいと思います!
『3ヒントクイズえほん にんちゃくん』
(作/IC4DESIGN 絵/いまむらありさ 文/すぎようこ)
忍者にあこがれている男の子、「にんちゃくん」。今日はおかあさんに、おばあちゃんの家までおつかいをたのまれました。ひとりでおばあちゃんの家にいくのは初めてですが、にんちゃくんは無事にたどり着けるのでしょうか? 3つのヒントから正解の絵をさがす「3ヒントクイズ」。この本では、主人公のにんちゃくんと一緒に、3ヒントクイズをたっぷり楽しめます。巻末にはおまけのさがし絵コーナーも。1日中あそべるゲーム絵本です。