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書店の明かりを灯しつづけるということ──小張隆(ひるねこBOOKS)

わたしたちと本が出会う場所、それが書店さん。
お気に入りの書店さんの棚で偶然見つけた1冊の本が、かけがえのない大切な1冊になったり、新しい一歩を踏みだすきっかけとなったり──。
出版社にとっても、書店さんは読者と本をつなぐとても大切な存在です。2020年3月以降、新型コロナウイルス感染拡大を受け、書店さんがどんな思いで店を続けているのか、生の声を聞き、ひとりでも多くの方にその声を届けたい。わたしたち自身の生き方も考えていきたい。
そうした思いから、東京・谷中にある絵本・児童書を多く取り扱う「ひるねこBOOKS」店主の小張隆さんに、コロナ前からいまを振り返りつつ、「いま、いちばん言いたいこと」そして「これから店をつづけるための強い思い」を書いていただきました。

小張隆(こばり・たかし)
1984年、東京都に生まれる。児童書出版社勤務を経て、2016年1月、東京・根津に「ひるねこBOOKS」をオープン。絵本・児童書、衣食住など暮らしの本、アート関連、猫や北欧の本を中心に、古書と新刊、雑貨を取り扱っている。また、絵本のプロデュースもおこなっている。
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■「谷根千」の書店、ひるねこBOOKS

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▲ひるねこBOOKS入り口にて

はじめまして。ひるねこBOOKSの小張隆と申します。

「谷根千(やねせん)」の愛称で知られる、東京の台東区谷中で小さな書店を営んでいます。2016年1月にオープンしたので現在6年目。

ご存知ない方のために最初に少しだけ店の紹介をしますと、当店は古本を中心に新刊やリトルプレスを取り扱っていて、ギャラリースペースでは絵本の原画展や作家さんの個展などを随時開催しています。今年の4月に旧店舗から徒歩1分の場所に移転しまして、新たな場所でスタートを切りました。

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▲白木の棚に小張さんセレクトの本が並ぶ店内

この5年半には、たくさんの本、そして人との出会いがありました。その歩みを振り返るだけで1冊の本になるくらいの濃さがあるのですが、ここではコロナ禍以降のようすや考えなどについて、思いのままに綴っていこうと思います。

■「コロナ前」と「コロナ後」

書店に限らずどのお店や場所も同じだと思いますが、当店も例外ではなく、その時間軸は「コロナ前」と「コロナ後」ではっきりとわかれます。

旧店舗は5坪程度の小さな空間でしたが、定期的にトークイベントやワークショップを開催し、そこに人々が集い、縁が縁を結び、本を挟んでたくさんの会話が交わされていました。
小さい場所だからこその濃密な関わり、そしてつながりを、お客様はもちろん、店主である私自身も楽しんでいました。

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▲オープンまもない頃、旧店舗でのイベントのようす。
小さく、密な空間ならではの
本と人、人と人とのつながりが生まれた

ところが昨年の春以降、そういった「密な」関係を作るのが難しくなりました。集まってはいけない、接触してはいけない、会話も最低限で。感染対策のために必要だとわかっていても、皆が距離を取らねばならないというのは、なかなかに寂しいものがあります。
もともと、本屋という場所は一人で静かに本と向き合うべき場所ですが、それまでの店の特色や役割について考え直さねばならなくなりました。

また、遠方からのお客様が減ったというのも大きな変化です。当店の場合、ご近所のお客様というよりは、SNSをご覧になって各地からお越しになるお客様が多かったのですが、往来が禁じられた状況にあってはそれも難しく、文字通り「遠くなってしまった」方たちも少なくありません。
さらに谷根千は観光地でもありますから、散策のついでにふらっと立ち寄るような人、そして外国からのお客様もほとんどいなくなってしまった、というのが実情です。

■店舗移転と町に求められているという実感

そんな中、同じ通りにあるお店から「うちの後に入りませんか?」とお声掛けいただき、急転直下で移転する事が決まりました。
もともと「もっと広い場所に移りたい」とは考えていましたし、物件も探していたのですが、まさかこのようなタイミングで引越しをすることになるとは思いませんでした。

先ほど述べた通り、旧店舗のサイズではもはや店内でのイベントを開催するのは当分難しいというのはわかっていましたし、同時に入店できるのが「3名」というのは非常に厳しいなと感じていたので、先行きが不透明な中でも決断せざるを得なかったという側面もあります。
なお、この場所を譲ってくださったお店を始め、谷根千の町でも少なくないお店が閉店や縮小を余儀なくされました。コロナ禍が町に与える影響を肌で感じました。


もちろんこの状況になって新たにわかったこと、発見できたことも、さまざまあります。最初の緊急事態宣言が出た昨年の春、全国から通販のご注文が殺到しました。それはどの個人書店もある程度同じようでしたが、これだけ多くの方が応援してくださっているということに改めて気がつき、励まされました。

また、全国の書店・古書店を支援するためのプロジェクト「ブックストア・エイド基金」にもたくさんのご支援をいただき、続けるための糧とモチベーションを得ることができました。「本や本屋さんを愛する人々はこんなにいる」と思えたことは、今後に向けても大きな収穫であり、暗くなりがちな状況において希望の光となりました。

そして在宅勤務が増えたことやステイホームによる影響でしょうか、これまでご縁のなかった近所の方が店を見つけてくださったり、図書館が閉まっていた時期には多くの親子連れに利用していただきました。
「どこも休んでいて困る」「本屋くらいは開いていてほしいよね」と話しかけられたり、児童向けの読み物が飛ぶように売れていきました。町に求められている、本が必要とされているという実感を強くしたものです。

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▲新店舗のイベントなどに使うスペース

■私たちに寄り添うことばはどこに……

とは言え、やはり「非日常」が続くこの状態は、多大なストレスをもたらします。自身がウイルスに感染しないことはもちろん、誰かに感染させないこと、店を感染源にしないこと。自由な動きや会話を封じられるだけでなく、手洗いうがい消毒に、マスクの常時着用。それだけでもかなりの負担がかかります。
店内の人数を制限しながら、常に換気やまわりの状況に気を配らねばならないのは、これまでになかった労力であり、またそれらにまつわる出費も当然嵩みます。

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▲入り口ドア前には
消毒用アルコールのボトル


それにも増してストレスを感じるのは、やはり政治家の言葉や振る舞いでした。昨年の春以降に乱発された空疎なキャッチコピーの数々。税金と人的資源の無駄遣いの象徴に見えるマスク2枚。国民に対して「自粛」を強いながら自分たちは悠々と“会合”を開き、必要な検査数を抑えながら議員は率先して検査を受け入院する。

そもそも自粛を「お願い」するというのもおかしなことですが、それをせざるを得ないのであれば、十分な補償と給付があって然るべきです。誰だって生活があります。お金を稼がねばなりません。その担保をしてはじめて、「お願い」できるのではないでしょうか。そもそもそれらに使うお金だって、もともとは私たちが納めた税金です。感染拡大を防ぐために、今こそそれを国民に戻す。そんな簡単で単純なことが、なぜできないのでしょうか。

昨年のGW、精神的にも限界を感じて1週間の「自粛」休業をしました。その際の悔しさ、やるせなさは記事にして残しましたが、大変多くの反響がありました。
個人店だけでなく、多くのお店や場所が、それぞれに大きな苦しみや悩みを抱えていることがひしひしと伝わってきたのを、今でもはっきりと覚えています。

この1年半、一度として私たちの心に寄り添う言葉が聞かれたことはありませんでした。大した補償もなされず、ただ繰り返される「緊急事態」。科学的根拠もなく、専門家の知見を生かすこともなく、検証も対策もなしに繰り出される「宣言」。馬鹿にするのもいい加減にしろ。それが率直な思いです。学問を軽視し、自分たちにとって都合の悪いことは全て隠蔽・改竄してきた人たちですが、事ここに至りその弊害と無能さがさらけだされました。

■心を潤していたものが切り捨てられる、
その悔しさと虚しさ

ウイルスはただのウイルスです。それに対して怒りをぶつけても仕方がありません。抑え込めるかどうかは人間次第、そしてその国の為政者に依るところが大きいのは言うまでもありません。
世界的なパンデミックにより、どの国のリーダーが国民を守り、どの国の政府がそれを出来ていないのかがはっきりとわかりました。言うまでもなく、日本は後者でしょう。普段は「国を守る」と勇ましい言葉を使いながら、有事の際には何もできないこと、そして国民の命など守る気もないことが露呈しました。挙句に、何千何万という人の移動を促すオリンピックを強行開催。人々の命や健康より経済を、人々の声よりも自分たちのメンツを重視する政権。もはや日本だけでなく、人類に対しての罪です。

今年は秋に衆議院選挙があります。ここでどのような審判を下すか、私たちは問われています。利権やしがらみ、古い価値観で縛られた、腐敗した団体をよしとするのか、本気で国民の命や暮らしを大切にする人々を選ぶのか。

コロナ禍において、人々が否応なしに政治というものに向き合わざるを得なくなったのは、ある意味ではよかったのかもしれません。リーダー次第で自分たちの生活が奪われ、自身や家族、大切な人の命が脅かされるという体験は、私たちに大きな宿題をもたらしたと言えるでしょう。

そして政治が機能していないと、本や音楽、映画、舞台などの芸術にまつわるものが蔑ろにされることもよくわかりました。
これまであたりまえに心を潤していたものが、ある日突然「不要なもの」として切り捨てられる。補償や充分な説明もなく、その営みを止めろと言われる。何日もかけて準備をしてきたもの、積み重ねてきたものを、一方的に崩される悔しさ、虚しさ。こんな理不尽なことがあるでしょうか。

■町の書店が元気であれば、社会は死なない

今回、この場を借りてこのような文章を書いたのも、「結局は政治」だからです。どんなに素晴らしい作品が生まれても、それを届けよう、受け取ろうとする人がいても、私たち(の一部)が選んだ人々の手によって、いくらでも捨て去ることができる。それをまざまざと見せつけられたからです。香港やミャンマーの情勢を見るまでもなく、歴史上そのようなことはいくらでも行われてきました。

不安や悲しみに包まれている時、音楽がどれだけ人の気持ちを癒してきたでしょう。映画や舞台が、どんなに人の心を豊かにしてきたことか。そして本はいつだって孤独を慰め、想像の翼を広げてくれました。人間が人間らしく生きる上でそれらは不可欠です。不急ではあるかもしれないが、不要ではない。
1冊の本、1本の映画がその人の人生を、そして社会を変えていく。それはいつだって充分に起こり得ることです。だから文化・芸術の火を消さないために、私たちがすべきことをしましょう。それがいま、いちばん言いたいことかもしれません。

幸い、よい場所への移転も決まり、新たなお客様も増えたことから、店は今も続いています。そしてこれからも続けていきます。明かりを灯しつづけることが当店にとっての闘いでもありますし、現実に疲れた人にとって、いっときの憩いの場になることができればと思います。

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▲店舗内のギャラリースペース。
絵本原画で本とは違ったたのしみも味わうことができる

もともと「続けるのは大変」と言われる書店業界です。新しく始めた個人店も増えていますが、その多くは今日も孤独な闘いを続けているでしょう。

ぜひ応援の意味も込めて、近くの、そしてお気に入りの書店へ足を運んでください。町の書店が元気であれば、社会は死なない。生まれ変わることができる。そう信じています。

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みなさんが暮らすご近所には、どんな書店さんがありますか? お気に入りの書店さんはどんなお店でしょう? そして、もしかしたらいつも足早で通り過ぎる道の1本向こうに、知らない書店さんがきょうもお店を開けているかもしれません。
ご近所の書店さんでお気に入りの1冊に出会った! みなさんも町の書店さんで、そんな幸せを見つけていただけたらと思います。


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